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Ⅰ章「分身鳥の恋番」
side:小坂涼③
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窓の外の夏を迎えた青空を見上げて心が苦しくなる。
僕は学校近くの国立病院に運ばれた。
僕の分身鳥は、左の羽の付け根を爪で貫かれ、身体の一部が抉られた。緊急手術が行われ、一命はとりとめたが、左羽は折れ曲がったまま。身体の傷も大きく残った。
生きているのが不思議な状態だった。僕も心臓が止まりかけて、強心剤やら昇圧剤やら、救命医療が施され、事故から一週間意識が戻らなかった。分身鳥とともに生死をさまよったが、何とか生命が維持できた。
だけど、もう二度と飛べない自分の鳥が痛々しくて、辛くて、悲しくて、たくさん泣いた。
「死ななかったことで国際トラブルは避けられた、良かった、生きていたならそれでいい」と事務的に言う大人が嫌だった。
僕の鳥は、こんなに傷ついたじゃないか! 悔しくても、泣くしかできなかった。
一か月すると分身鳥の包帯が外れた。今は、羽を動かすリハビリを必死で頑張っている。ベッドの上で一緒に励まし合う。
僕は左腕が麻痺したかのように動かせなくなった。分身鳥と人は運命を共にするため、仕方ない。
僕の背中には左半分に赤黒い大きな痣ができた。これは自分が怪我をしたかのように痛む。共有痕といわれる痣だ。僕の鳥がこれだけ苦しいケガを負ったと思うと辛かった。
転入生の藤原君とは会っていない。お見舞いは絶対に嫌だと断っている。手紙も受け入れていない。もう二度と会いたくない。
これだけの暴力をふるっても、藤原君は何の罪にもならない。猛禽類の衝動行為のため不問、と処分決定が出た。アメリカが保護国であり、国際的な日本の立場から藤原君が守られた。
大人は「仕方ないことだ、忘れなさい」と淡々と言った。悔しかった。許せなかった。ぶつけようのない怒りと悲しみが渦巻いていた。
僕が泣くと僕にすり寄る分身鳥。トコトコ歩く姿がバランスが取れず危なっかしい。左の羽は身体に添わせることが出来ず、やや下に力なく下がっている。僕の左腕も、同じだよ。お前だけが辛いんじゃないからね。お前だけが僕の味方だ。
心に寄り添う小鳥に、生きていてくれてありがとう、大好きだよ、とそっと声をかける。
傷を負った部分から少し濃いオレンジの羽が生えてきた。すごく嬉しい。
鳥は傷を負っても体毛が禿げることは無いと聞いていたけれど、心から安心した。僕の鳥を抱き締めて喜んだ。
すり寄る小鳥を「よかったね」と撫でまわした。でも、僕の背中のあざは消えなかった。きっとこれは消えない。鳥の体毛は生えても、傷はずっと残るんだ。何となくそう思った。
一か月半入院した。もっと早くに退院できそうだったけど、僕は保護対象であり家族がいないため完全な状態になるまで病院の特別室に隔離されていた。
退院先は、学校の寮。もう学校には行きたくないけれど、外の世界を知らない僕に選択肢はない。
管理されることが苦しいと感じ始めていた。管理する側は、僕の、分身鳥の生命維持だけできればいいんだ。それを、身をもって知った。
周りの大人たちに、前ほどに感謝の気持ちが持てなくなっていた。この人たちにとって、僕は物みたいな存在だ。冷めた気持ちが生まれていた。
僕が心を許すのは、僕の鳥だけだ。
僕は学校近くの国立病院に運ばれた。
僕の分身鳥は、左の羽の付け根を爪で貫かれ、身体の一部が抉られた。緊急手術が行われ、一命はとりとめたが、左羽は折れ曲がったまま。身体の傷も大きく残った。
生きているのが不思議な状態だった。僕も心臓が止まりかけて、強心剤やら昇圧剤やら、救命医療が施され、事故から一週間意識が戻らなかった。分身鳥とともに生死をさまよったが、何とか生命が維持できた。
だけど、もう二度と飛べない自分の鳥が痛々しくて、辛くて、悲しくて、たくさん泣いた。
「死ななかったことで国際トラブルは避けられた、良かった、生きていたならそれでいい」と事務的に言う大人が嫌だった。
僕の鳥は、こんなに傷ついたじゃないか! 悔しくても、泣くしかできなかった。
一か月すると分身鳥の包帯が外れた。今は、羽を動かすリハビリを必死で頑張っている。ベッドの上で一緒に励まし合う。
僕は左腕が麻痺したかのように動かせなくなった。分身鳥と人は運命を共にするため、仕方ない。
僕の背中には左半分に赤黒い大きな痣ができた。これは自分が怪我をしたかのように痛む。共有痕といわれる痣だ。僕の鳥がこれだけ苦しいケガを負ったと思うと辛かった。
転入生の藤原君とは会っていない。お見舞いは絶対に嫌だと断っている。手紙も受け入れていない。もう二度と会いたくない。
これだけの暴力をふるっても、藤原君は何の罪にもならない。猛禽類の衝動行為のため不問、と処分決定が出た。アメリカが保護国であり、国際的な日本の立場から藤原君が守られた。
大人は「仕方ないことだ、忘れなさい」と淡々と言った。悔しかった。許せなかった。ぶつけようのない怒りと悲しみが渦巻いていた。
僕が泣くと僕にすり寄る分身鳥。トコトコ歩く姿がバランスが取れず危なっかしい。左の羽は身体に添わせることが出来ず、やや下に力なく下がっている。僕の左腕も、同じだよ。お前だけが辛いんじゃないからね。お前だけが僕の味方だ。
心に寄り添う小鳥に、生きていてくれてありがとう、大好きだよ、とそっと声をかける。
傷を負った部分から少し濃いオレンジの羽が生えてきた。すごく嬉しい。
鳥は傷を負っても体毛が禿げることは無いと聞いていたけれど、心から安心した。僕の鳥を抱き締めて喜んだ。
すり寄る小鳥を「よかったね」と撫でまわした。でも、僕の背中のあざは消えなかった。きっとこれは消えない。鳥の体毛は生えても、傷はずっと残るんだ。何となくそう思った。
一か月半入院した。もっと早くに退院できそうだったけど、僕は保護対象であり家族がいないため完全な状態になるまで病院の特別室に隔離されていた。
退院先は、学校の寮。もう学校には行きたくないけれど、外の世界を知らない僕に選択肢はない。
管理されることが苦しいと感じ始めていた。管理する側は、僕の、分身鳥の生命維持だけできればいいんだ。それを、身をもって知った。
周りの大人たちに、前ほどに感謝の気持ちが持てなくなっていた。この人たちにとって、僕は物みたいな存在だ。冷めた気持ちが生まれていた。
僕が心を許すのは、僕の鳥だけだ。
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