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11.不憫
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「このバカモンがぁぁぁ!!」
ギルドマスターの老人が魔法をスベンに向かって放った。
膨大な魔力を内包した火の玉として生成された魔法は猛烈な勢いで迫る。
無詠唱で放たれたのにも関わらず、その魔力操作は巧みで無駄のない洗練された魔法がスベンに撃ち込まれた。
「ちょっ!!?」
焦りに染まったスベンの声が聞こえる。
「うわっ!?」
「きゃっ!?」
その瞬間、俺とソフィアの周りに魔力障壁が生成された。
無詠唱に加えて、複数の魔法同時使用だと……?
しかも、魔力障壁に至っても一片の歪みもない。見上げた魔力操作技術だ。
その壁のおかげで俺たちには、なんの被害もなかった。
だが。
「ぐほおぉあ!!?」
着弾した瞬間、視界が閃光に染まる。
強烈な衝撃がスベンを襲い建物の壁を突き破って遠くへ吹っ飛んでいった。
丸焦げになって「あああああああっ!?」と間抜けな声を上げながら遠ざかっていく姿は滑稽だった。
街を出たのだろう、微かなスベンの「ぎゃあああ!?」という悲鳴が聞こえ、それがどんどん離れていくのがわかった。
だが、俺を含めこの場の三人は無視を決め込んだ。
スベンを敬愛するソフィアすら呆れたように額に手を当てていた。
「……ばーか」
俺は小声でボソリと呟いた。
調子に乗るからだよ。と心中で俺はさっきの恨みも込めてスベンのその姿を嘲笑した。
「全くやれやれじゃわい……あやつは何言っても飄々としてるからのぉ……」
さっきまでの膨大な魔力の噴出は鳴りを潜め、ギルドマスターは座り込むと深いため息をついた。
どうやら、この人もスベンの扱いに困ってるようだ。
「……ああ、すまんのう。怪我は無かったかの?」
「あ、いえ……」
ギルドマスターが疲れた様子で聞いてくるので、すかさず立ち上がって否定する。
「申し訳ない、お主を呼んだのはワシなのにのう。ぞんざいに連れ出されてしまったことをどう詫びれば……」
ギルドマスターとあろうものが、なんと俺に躊躇なく頭を下げてきた。
「いえ!頭を上げてください、ギルドマスター。スベンは昔からああなので」
慌ててそう言うと、ギルドマスターは嘆息を零した。
「ふむぅ……あやつのアレはもはや直せんか……」
「ははは……」
ギルドマスターが残酷な現実を叩きつけられたかのように深刻そうに呟くので、俺は枯れた笑いしか出なかった。
スベンのガキ大将っぷりが消えたら、それこそスベンの持ち前の陽気な性格が消えてしまう。
お調子者な彼の性質は、形はどうであれ笑顔を届けてくれる。
「おお、すまんのう。客人を立たせたままとは失礼した」
ギルドマスターはまたもや何処かから杖を取り出すと、一振りした。
すると、瞬く間に瓦礫が元あった場所へと動き出し、心落ち着かせるような綺麗な青い光ーーこれがギルドマスターの魔力なのだろうーーが杖から漏れ出て瓦礫の隙間を埋めてゆく。
そして、最後に蒼く光ると爆発する前とさっきと全く同じ風景に戻った。
高級そうなーー実際に高級なのだろうがーー机に、座り心地が良さそうな黒革のソファ。
壁には、見事なドラゴンが描かれた絵画に、下には値段を聞くことすら烏滸がましい骨董品が並んでいた。
この魔法は恐らく『記憶投影魔法』の応用だろう。
『記憶投影魔法』とは、記憶に残っている風景や人物、更には声まで模倣することを可能にする上位魔法だ。
本に書いてあったのだが、イメージ通りに魔力を動かし、完全に事物を真似るのは非常に難易度が高いらしい。
それをこの老人は軽々とやってのけた。
もしかして、想像よりもずっと凄い偉大な魔法使いだったんじゃ……
俺がそう考え、勝手に緊張していると……
「うむ、では最後に……」
唯一残っていたスベンが蹴破ってきた窓ガラスを直そうと杖を振り上げた瞬間ーー。
「ギルドマスター、酷いじゃねーかー!!危うくファイアワイバーンに連れ去られるところだったぞ!」
と、スベンがタイミングを見計らってたかのように、たった今修復したばかりの窓ガラスをまた蹴破ってきた。
今度は、窓周辺の壁の破壊のおまけ付きだ。
飄々と話すスベンに、死んだ目でガタガタ震え出すギルドマスター。
ああ……ホントにこいつは……
「ーー何故、貴様は仕事を増やすのじゃあああああ!!!」
発狂に近いギルドマスターの絶叫と共に、スベンに向かって閃光が放たれた。
「ぎゃああああああああ!!?」
人一人を丸々飲み込むほどの極太の光線が放たれ、スベンをあっという間に飲み込んだ。
それは数秒、数十秒と長い間放たれ続けたことで、スベンは街を出てぐんぐんと遠くの空へ消えてった。
すぐにスベンの声が聞こえなくなり、それが彼が途方もないほど遠くへ吹き飛ばされた証だった。
まぁ……自業自得だよなぁ。
「ぐすん、ワシ何回直せばいいんじゃい……」
涙を浮かべながら壁を淡々と直すギルドマスターの背中は哀愁が漂っていた……
ギルドマスターの老人が魔法をスベンに向かって放った。
膨大な魔力を内包した火の玉として生成された魔法は猛烈な勢いで迫る。
無詠唱で放たれたのにも関わらず、その魔力操作は巧みで無駄のない洗練された魔法がスベンに撃ち込まれた。
「ちょっ!!?」
焦りに染まったスベンの声が聞こえる。
「うわっ!?」
「きゃっ!?」
その瞬間、俺とソフィアの周りに魔力障壁が生成された。
無詠唱に加えて、複数の魔法同時使用だと……?
しかも、魔力障壁に至っても一片の歪みもない。見上げた魔力操作技術だ。
その壁のおかげで俺たちには、なんの被害もなかった。
だが。
「ぐほおぉあ!!?」
着弾した瞬間、視界が閃光に染まる。
強烈な衝撃がスベンを襲い建物の壁を突き破って遠くへ吹っ飛んでいった。
丸焦げになって「あああああああっ!?」と間抜けな声を上げながら遠ざかっていく姿は滑稽だった。
街を出たのだろう、微かなスベンの「ぎゃあああ!?」という悲鳴が聞こえ、それがどんどん離れていくのがわかった。
だが、俺を含めこの場の三人は無視を決め込んだ。
スベンを敬愛するソフィアすら呆れたように額に手を当てていた。
「……ばーか」
俺は小声でボソリと呟いた。
調子に乗るからだよ。と心中で俺はさっきの恨みも込めてスベンのその姿を嘲笑した。
「全くやれやれじゃわい……あやつは何言っても飄々としてるからのぉ……」
さっきまでの膨大な魔力の噴出は鳴りを潜め、ギルドマスターは座り込むと深いため息をついた。
どうやら、この人もスベンの扱いに困ってるようだ。
「……ああ、すまんのう。怪我は無かったかの?」
「あ、いえ……」
ギルドマスターが疲れた様子で聞いてくるので、すかさず立ち上がって否定する。
「申し訳ない、お主を呼んだのはワシなのにのう。ぞんざいに連れ出されてしまったことをどう詫びれば……」
ギルドマスターとあろうものが、なんと俺に躊躇なく頭を下げてきた。
「いえ!頭を上げてください、ギルドマスター。スベンは昔からああなので」
慌ててそう言うと、ギルドマスターは嘆息を零した。
「ふむぅ……あやつのアレはもはや直せんか……」
「ははは……」
ギルドマスターが残酷な現実を叩きつけられたかのように深刻そうに呟くので、俺は枯れた笑いしか出なかった。
スベンのガキ大将っぷりが消えたら、それこそスベンの持ち前の陽気な性格が消えてしまう。
お調子者な彼の性質は、形はどうであれ笑顔を届けてくれる。
「おお、すまんのう。客人を立たせたままとは失礼した」
ギルドマスターはまたもや何処かから杖を取り出すと、一振りした。
すると、瞬く間に瓦礫が元あった場所へと動き出し、心落ち着かせるような綺麗な青い光ーーこれがギルドマスターの魔力なのだろうーーが杖から漏れ出て瓦礫の隙間を埋めてゆく。
そして、最後に蒼く光ると爆発する前とさっきと全く同じ風景に戻った。
高級そうなーー実際に高級なのだろうがーー机に、座り心地が良さそうな黒革のソファ。
壁には、見事なドラゴンが描かれた絵画に、下には値段を聞くことすら烏滸がましい骨董品が並んでいた。
この魔法は恐らく『記憶投影魔法』の応用だろう。
『記憶投影魔法』とは、記憶に残っている風景や人物、更には声まで模倣することを可能にする上位魔法だ。
本に書いてあったのだが、イメージ通りに魔力を動かし、完全に事物を真似るのは非常に難易度が高いらしい。
それをこの老人は軽々とやってのけた。
もしかして、想像よりもずっと凄い偉大な魔法使いだったんじゃ……
俺がそう考え、勝手に緊張していると……
「うむ、では最後に……」
唯一残っていたスベンが蹴破ってきた窓ガラスを直そうと杖を振り上げた瞬間ーー。
「ギルドマスター、酷いじゃねーかー!!危うくファイアワイバーンに連れ去られるところだったぞ!」
と、スベンがタイミングを見計らってたかのように、たった今修復したばかりの窓ガラスをまた蹴破ってきた。
今度は、窓周辺の壁の破壊のおまけ付きだ。
飄々と話すスベンに、死んだ目でガタガタ震え出すギルドマスター。
ああ……ホントにこいつは……
「ーー何故、貴様は仕事を増やすのじゃあああああ!!!」
発狂に近いギルドマスターの絶叫と共に、スベンに向かって閃光が放たれた。
「ぎゃああああああああ!!?」
人一人を丸々飲み込むほどの極太の光線が放たれ、スベンをあっという間に飲み込んだ。
それは数秒、数十秒と長い間放たれ続けたことで、スベンは街を出てぐんぐんと遠くの空へ消えてった。
すぐにスベンの声が聞こえなくなり、それが彼が途方もないほど遠くへ吹き飛ばされた証だった。
まぁ……自業自得だよなぁ。
「ぐすん、ワシ何回直せばいいんじゃい……」
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