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3.調査依頼
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「ただいまー…」
俺は長い間利用している宿屋に戻ってきていた。両親とここの宿の主人が親密な関係なので、俺は厄介させてもらっていた。格安で食事と寝る場所を提供してくれているので、いつか必ず恩返しをしたい。じゃなかったら、きっと俺はずっと昔に挫けて冒険者を辞めていただろうから。
俺は部屋に向かうべくそろりと忍び足で歩いた。
スベンと酒を飲み明かしていたら気づいたら夜遅くになっていた。スベンにおふざけ半分で娼館に行かないかと言われたが、断固として断った。俺の気持ちを分かってて言ったなあいつ、なんかニヤついてたし。
と、考えていたら奥の方からトトトッと走ってくる音が聞こえた。
あ、ヤバい、バレた……
「ちょっと、ディラン!あなたこんな夜遅くまでどこ行ってたのよ!」
ここ「旅人の泉」の看板娘であるエマが怒り心頭の顔でやってきた。
エマは俺と同い年で金髪で青い瞳、つり目気味なので冷たい感じのする美少女だが、その実はとても優しい少女なので町で評判だ。
「あはは、ごめんごめん。スベンに晩飯に誘われてさ」
「もう!せっかくご飯作って待ってたのに」
エマはプクーと頬を膨らませてそっぽを向いた。
その仕草にドキッとするけど、平静を保たなきゃ。
「ごめん、今度から気をつけるよ」
手を合わせて精一杯謝った。拗ねちゃうと最低でも三日間は口を聞いてくれないから。
「はぁー、しょうがないわね」
エマはため息をつくと腕を組んだ。エマみたいな美少女がその仕草をすると妙に魅力が際立つというか。俺はエマに無意識に見惚れていると。
その時、グーという間の抜けた音が響いた。
エマは呆れたような目線を僕に送ってきた。
「本当に食いしん坊ね、あなた」
「あ、あはは」
「仕方ないわね、冷えちゃってるだろうけど食べる?」
「ぜひ食べさせて下さい!」
「じゃあ、食堂で待ってて。温かいスープも作ってきてあげるから」
エマはどこか上機嫌な様子で調理場に歩いていった。
俺はそれを見送ると、陰鬱な気持ちで食堂に向かい席に着くと冒険者ギルドでの出来事を思い返した。
まさか、あんな厄介なことに巻き込まれるとは……
ーーーーーーーー
「こんにちは、これの換金をお願いします」
懐から魔石・極小の入った皮袋を取り出し換金カウンターの上に置いた。
受付嬢の人は俺のことを知ってるのか、多少驚いた素振りを見せたがすぐに平然と笑みを浮かべた。
俺はスライムすら倒せないということで悪い意味で有名だったからな。それを払拭する始めの一歩ということで、彼女のそれを見て俺は心の中でガッツポーズをした。
「かしこまりました。魔石・極小が6個ということで銅貨6枚をお支払い致します。ご確認下さい」
初めて狩った獲物を売って銅貨6枚を手に入れた。額は小さいけど受け取った時に感じた達成感はとても心地良いものだった。
「ディランさん。もしよろしければご依頼を受けてはいかがですか?」
「依頼……ですか」
「はい、ディランさんは現在FランクからDランクまでの依頼を受けることができます。ダンジョン攻略を進められるおつもりなら、ディランさんの能力を見込んでぜひ依頼したいことがあるのです」
Fランク冒険者の俺に指名依頼みたいなことするなんてどういうことなんだ?
だけど、強くなれるきっかけになるのは確実だよな。成長をするためにもいい機会かもしれない。
よし、受けてみようかな。
「これはこれは、無能のディランじゃないか!こんな所で何してるんだい?」
聞き慣れた嫌気のさす声が聞こえた。
たくっ、ほっといてくれよ。ケビンさんよ。
「何か用かな?ケビン」
「いや、何、俺の『元』パーティメンバーのお前が身の程知らずにも依頼を受けようとするのを見かけたからな。少しばかりの忠告をしてやろうと思ったんだよ」
なんか気取ったような口調だが、嘲りの声色が全然隠しきれてないな。はぁ、とことんムカつく野郎だ。
「その忠告はありがたいけど俺はもう誰の指図も受けない。引っ込んでろよ、ケビン」
「はぁ?スライムすらも倒せない雑魚が何言ってやがる!」
本当に面倒なやつだ。俺は皮袋の中から魔石・極小を取り出して見せつけた。
「残念ながらスライムは倒せたよ」
「な、何!?そんなバカな!」
「本当のことだよ。お前にパーティから追い出されてすぐダンジョンに潜ったんだ。そうしたら、案外簡単にスライムを倒せたよ」
嘘だ。俺にとっては今でもスライムは強敵だ。でも、こいつの前だけでは強がっていたかった。
「嘘をつくな!どうせあれだろ、他の冒険者から魔石を奪い取ったに決まってる、ああそうに違いない!」
ふふ、何焦ってるか分からないけど自分で墓穴を掘ったな?
「お前の理論なら俺はスライムすらも倒せないほど弱いってことになる。そんな俺が他の冒険者から強奪するなんて無理な話だ」
「うっ、黙れ!この無能がぁ!」
すぐに怒りが頂点に達したのか、俺に殴りかかってきた。が、どこからか腕が伸びてきてそれを止めた。
「ッ!お前は!」
「おい、ケビンさんよ。今、俺のダチに何をしようとした?」
スベンがケビンの拳を掴み止めた。普段の陽気なスベンからは想像できないほどの底冷えた眼光でケビンを見据えた。
スベンはCランク冒険者だが真面目に冒険者として依頼をこなしてきた甲斐かBランク冒険者に匹敵する実力の持ち主だ。ただ、Bランク冒険者に昇格するにはただ実力があれば昇格できる訳ではないので停滞してしまっているだけだ。しかし、近い将来Bランクに昇格できるという話も出ている。本当に友ながら大したやつだと思う。
対して、ケビンはAランクパーティを率いるリーダーにしてBランク冒険者だ。ケビンの普段の戦いぶりはパーティメンバーに丸投げして魔物が弱った所で参戦するというやり方をしている。
近くで見てきた俺が言えることだが、彼は自身の特殊能力に頼りっきりであり、そして、彼は剣の鍛錬をしている様子は無かった。
だから、少なくとも日々剣を磨いているスベンに勝てるはずもない。
「チッ、何もしてねーよ」
ケビンは腕を振り払うと俺を射殺すような目で睨みつけると去っていった。
「ありがとう、スベン。助かったよ」
「ヘヘッ、良いってことよ!ダチが困ってたら助けるのは当然のことだ」
俺とスベンは笑い合うと拳を合わせた。
「だけど、気をつけろよ。あいつはあれだけで終わるはずがない」
「ああ、分かってる」
と、話していると受付嬢の人が割り込んできた。
「スベンさん、私の方からもお礼を言わせてください。止めてくださらなかったら、大変なことになってたかもしれませんから」
「ああ、いいってことよ。ギルド内で争い事をするのは御法度だもんな」
冒険者同士の争いは基本ギルドは干渉しない決まりになっている。冒険者というのは荒くれどもの集まりだ。そんなわけで当然喧嘩は日常的茶飯事であり、それを一々取り締まっていたらキリがない。
しかし、ギルド内部ではその限りではない。もし、規則を破ったものには厳罰が課せられる。あまりに度が過ぎていた場合は、冒険者登録の剥奪さえありうるのだ。
「それで、ディランに用があったんだな?俺はここらでお暇するぜ~」
背中ごしに手を振って酒場に戻っていったスベンを横目で見送りながら、依頼内容について聞いた。
「それで、依頼内容はどういったものですか?」
「それはですね、Fランクダンジョン『春の草原』の調査、マッピングをお願いしたいのです」
「調査……ですか?」
俺はダンジョン内部のマッピング作業は我ながらかなりの出来のものを作ることができるので、今回の依頼内容に合点した。
しかし、調査についてはどういうことだろう。
「はい、ここ最近何か異変が起きているらしいのです。モンスターのイレギュラー的発生やダンジョン内部の構造が変化したりしているそうです」
「……確かに今日『春の草原』一階層でゴブリンが大量にポップしているのを見かけましたね」
そう言われて思い浮かんだのは、レアモンスターのゴブリンが五体の群れを形成した光景だ。本来ならレアモンスターは一匹だけでポップするもの。それが複数体でポップしていたということは……やはり。
「それらの現象を鑑みて考えられるのは、ダンジョンの格が上がった、つまりダンジョンの難易度が上がってしまった可能性が高いのです」
「なるほど、確かにそう判断できますね」
ケビンの元で代わりに依頼を受けた後に情報収集を欠かさずに行っていたので分かる。
ダンジョンの格が上がったということは、つまりダンジョンの主、ダンジョンマスターの力が増したということだ。ダンジョンとダンジョンマスターは表裏一体。両者はラビリンス・セントラル・コア、略してLCCにより紐づけられている。LCCの力が増すことでダンジョン内の魔物が強化または更に強大な魔物が生まれることになる。
LCCの力が増すことを『迷宮の活性化』という。
『迷宮の活性化』が起きることによって必然的に悲惨で凄惨な大災害、『#迷魔狂奔__スタンピード_#』が発生してしまうのだ。
『迷魔狂奔』とは、ダンジョンがいわば暴走状態に陥って魔物を際限なく生み出してしまい、ダンジョンの許容量を超えた瞬間にダンジョン内部から大量の魔物が溢れ出てきてしまうのだ。
そして、その魔物達は人々に襲い掛かりその命や築き上げてきた建物や思い出、そして、大切な家族や将来を誓いあった恋人までも奪い去ってしまうのだ。
それを未然に防ぐには……
「今回の依頼は大変な危険が伴います。それらを踏まえた上で、再度お聞きします。今回の依頼をお受け頂けますか?」
「はい、勿論引き受けます」
その方法とはダンジョンに攻め込んでダンジョンマスターとダンジョンの繋がりを断ち切る、つまりLCCを破壊することでダンジョンを自壊させることだ。
そのために俺に調査をお願いしてきたのだろう。
ーーーーーーーー
『迷宮の活性化』真っ最中のダンジョンは正しく危険だ。
今の俺のステータスでは、あのゴブリンにすら勝てないだろう。だから、力の種の力に頼ることにする。
「ねぇ」
スベンが言っていたことが本当なのだとしたら、俺でも攻撃力だけは一級品に近づけることはできる。だって、俺のスキルで力の種を増やすことができるのだから。
「ねぇ!」
まさか外れだと思っていた《栽培》が役に立つ日が来ようとは思いもしなかった。
「ねぇってば!」
「うぉ!」
いつの間にかエマが晩飯を持ってきてくれていた。芳醇なチーズの匂いとコーンスープの甘い匂いが俺の食欲を盛大に刺激してくる。本当にエマが作る料理は美味そうだ。
「何考え込んでいたの?」
「いや、何でもないよ」
エマは納得してないような表情だったけど、俺の前に料理を並べてくれた。
「おー!うまそう!」
「あなたの好きなハンバーグを作っててあげたのよ。すっかり冷めちゃったけど……」
エマの作るハンバーグは俺の大好物である。それに迷宮都市のダンジョンから取れるミルクから作ったチーズを乗っけて食べれば、俺の頬が蕩けそうなほど美味しいのだ。
「いっただっきまーす!」
早速一口含んだ瞬間に広がるとろけるチーズのミルキーな風味。そして、噛めば噛むほど出てくるジューシーな肉汁が組み合わせってめっちゃうまい!
「うまい!」
「それは良かったわ、冷めないうちにコーンスープ飲みなさいよ」
「ああ!」
コーンスープも一口飲むがこれもまたうまい。この前飲んだのと微妙に味が違うから何か変えたのかな?
「本当にエマみたいな料理上手な女性がお嫁さんになってくれたらいいなぁ」
静寂が空間を支配した。
思わず本音を口走ってしまった俺は自身の気の緩みを呪った。俺なんかにエマが振り向いてくれる訳ないのにな。
「あー、えーと、その、エマ?例え話だからね?」
「え、ええ、そうよね、そうだと思ったわ」
この日はこれ以降何も言葉を発することはできないまま、食べ終え部屋に戻ってきた。俺はそのままベッドにダイブし頭を抱えた。まさか、口走ってしまうとは思うまい。
俺はエマが好きだ。幼い頃に顔を合わせたときに一目惚れしてしまった。俺とエマはスベンや他の親友達とよく遊んでいたけど、ある出来事がきっかけである日を境に疎遠になってしまったのだ。
そして俺が冒険者として迷宮都市ケルオンに来たときに数年ぶりに再会したのだ。その時は酷く驚いた。幼い頃も笑顔がよく似合うかわいらしい少女だったけど、成長した彼女は可憐さを残しつつも大人の女性らしさが出ている美少女になっていた。そこで俺は彼女のことが好きだと気づいた。
ああ……考えれば考えるほど意識をしてしまう。
明日から顔合わせるの恥ずかしすぎるだろ……
俺は長い間利用している宿屋に戻ってきていた。両親とここの宿の主人が親密な関係なので、俺は厄介させてもらっていた。格安で食事と寝る場所を提供してくれているので、いつか必ず恩返しをしたい。じゃなかったら、きっと俺はずっと昔に挫けて冒険者を辞めていただろうから。
俺は部屋に向かうべくそろりと忍び足で歩いた。
スベンと酒を飲み明かしていたら気づいたら夜遅くになっていた。スベンにおふざけ半分で娼館に行かないかと言われたが、断固として断った。俺の気持ちを分かってて言ったなあいつ、なんかニヤついてたし。
と、考えていたら奥の方からトトトッと走ってくる音が聞こえた。
あ、ヤバい、バレた……
「ちょっと、ディラン!あなたこんな夜遅くまでどこ行ってたのよ!」
ここ「旅人の泉」の看板娘であるエマが怒り心頭の顔でやってきた。
エマは俺と同い年で金髪で青い瞳、つり目気味なので冷たい感じのする美少女だが、その実はとても優しい少女なので町で評判だ。
「あはは、ごめんごめん。スベンに晩飯に誘われてさ」
「もう!せっかくご飯作って待ってたのに」
エマはプクーと頬を膨らませてそっぽを向いた。
その仕草にドキッとするけど、平静を保たなきゃ。
「ごめん、今度から気をつけるよ」
手を合わせて精一杯謝った。拗ねちゃうと最低でも三日間は口を聞いてくれないから。
「はぁー、しょうがないわね」
エマはため息をつくと腕を組んだ。エマみたいな美少女がその仕草をすると妙に魅力が際立つというか。俺はエマに無意識に見惚れていると。
その時、グーという間の抜けた音が響いた。
エマは呆れたような目線を僕に送ってきた。
「本当に食いしん坊ね、あなた」
「あ、あはは」
「仕方ないわね、冷えちゃってるだろうけど食べる?」
「ぜひ食べさせて下さい!」
「じゃあ、食堂で待ってて。温かいスープも作ってきてあげるから」
エマはどこか上機嫌な様子で調理場に歩いていった。
俺はそれを見送ると、陰鬱な気持ちで食堂に向かい席に着くと冒険者ギルドでの出来事を思い返した。
まさか、あんな厄介なことに巻き込まれるとは……
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「こんにちは、これの換金をお願いします」
懐から魔石・極小の入った皮袋を取り出し換金カウンターの上に置いた。
受付嬢の人は俺のことを知ってるのか、多少驚いた素振りを見せたがすぐに平然と笑みを浮かべた。
俺はスライムすら倒せないということで悪い意味で有名だったからな。それを払拭する始めの一歩ということで、彼女のそれを見て俺は心の中でガッツポーズをした。
「かしこまりました。魔石・極小が6個ということで銅貨6枚をお支払い致します。ご確認下さい」
初めて狩った獲物を売って銅貨6枚を手に入れた。額は小さいけど受け取った時に感じた達成感はとても心地良いものだった。
「ディランさん。もしよろしければご依頼を受けてはいかがですか?」
「依頼……ですか」
「はい、ディランさんは現在FランクからDランクまでの依頼を受けることができます。ダンジョン攻略を進められるおつもりなら、ディランさんの能力を見込んでぜひ依頼したいことがあるのです」
Fランク冒険者の俺に指名依頼みたいなことするなんてどういうことなんだ?
だけど、強くなれるきっかけになるのは確実だよな。成長をするためにもいい機会かもしれない。
よし、受けてみようかな。
「これはこれは、無能のディランじゃないか!こんな所で何してるんだい?」
聞き慣れた嫌気のさす声が聞こえた。
たくっ、ほっといてくれよ。ケビンさんよ。
「何か用かな?ケビン」
「いや、何、俺の『元』パーティメンバーのお前が身の程知らずにも依頼を受けようとするのを見かけたからな。少しばかりの忠告をしてやろうと思ったんだよ」
なんか気取ったような口調だが、嘲りの声色が全然隠しきれてないな。はぁ、とことんムカつく野郎だ。
「その忠告はありがたいけど俺はもう誰の指図も受けない。引っ込んでろよ、ケビン」
「はぁ?スライムすらも倒せない雑魚が何言ってやがる!」
本当に面倒なやつだ。俺は皮袋の中から魔石・極小を取り出して見せつけた。
「残念ながらスライムは倒せたよ」
「な、何!?そんなバカな!」
「本当のことだよ。お前にパーティから追い出されてすぐダンジョンに潜ったんだ。そうしたら、案外簡単にスライムを倒せたよ」
嘘だ。俺にとっては今でもスライムは強敵だ。でも、こいつの前だけでは強がっていたかった。
「嘘をつくな!どうせあれだろ、他の冒険者から魔石を奪い取ったに決まってる、ああそうに違いない!」
ふふ、何焦ってるか分からないけど自分で墓穴を掘ったな?
「お前の理論なら俺はスライムすらも倒せないほど弱いってことになる。そんな俺が他の冒険者から強奪するなんて無理な話だ」
「うっ、黙れ!この無能がぁ!」
すぐに怒りが頂点に達したのか、俺に殴りかかってきた。が、どこからか腕が伸びてきてそれを止めた。
「ッ!お前は!」
「おい、ケビンさんよ。今、俺のダチに何をしようとした?」
スベンがケビンの拳を掴み止めた。普段の陽気なスベンからは想像できないほどの底冷えた眼光でケビンを見据えた。
スベンはCランク冒険者だが真面目に冒険者として依頼をこなしてきた甲斐かBランク冒険者に匹敵する実力の持ち主だ。ただ、Bランク冒険者に昇格するにはただ実力があれば昇格できる訳ではないので停滞してしまっているだけだ。しかし、近い将来Bランクに昇格できるという話も出ている。本当に友ながら大したやつだと思う。
対して、ケビンはAランクパーティを率いるリーダーにしてBランク冒険者だ。ケビンの普段の戦いぶりはパーティメンバーに丸投げして魔物が弱った所で参戦するというやり方をしている。
近くで見てきた俺が言えることだが、彼は自身の特殊能力に頼りっきりであり、そして、彼は剣の鍛錬をしている様子は無かった。
だから、少なくとも日々剣を磨いているスベンに勝てるはずもない。
「チッ、何もしてねーよ」
ケビンは腕を振り払うと俺を射殺すような目で睨みつけると去っていった。
「ありがとう、スベン。助かったよ」
「ヘヘッ、良いってことよ!ダチが困ってたら助けるのは当然のことだ」
俺とスベンは笑い合うと拳を合わせた。
「だけど、気をつけろよ。あいつはあれだけで終わるはずがない」
「ああ、分かってる」
と、話していると受付嬢の人が割り込んできた。
「スベンさん、私の方からもお礼を言わせてください。止めてくださらなかったら、大変なことになってたかもしれませんから」
「ああ、いいってことよ。ギルド内で争い事をするのは御法度だもんな」
冒険者同士の争いは基本ギルドは干渉しない決まりになっている。冒険者というのは荒くれどもの集まりだ。そんなわけで当然喧嘩は日常的茶飯事であり、それを一々取り締まっていたらキリがない。
しかし、ギルド内部ではその限りではない。もし、規則を破ったものには厳罰が課せられる。あまりに度が過ぎていた場合は、冒険者登録の剥奪さえありうるのだ。
「それで、ディランに用があったんだな?俺はここらでお暇するぜ~」
背中ごしに手を振って酒場に戻っていったスベンを横目で見送りながら、依頼内容について聞いた。
「それで、依頼内容はどういったものですか?」
「それはですね、Fランクダンジョン『春の草原』の調査、マッピングをお願いしたいのです」
「調査……ですか?」
俺はダンジョン内部のマッピング作業は我ながらかなりの出来のものを作ることができるので、今回の依頼内容に合点した。
しかし、調査についてはどういうことだろう。
「はい、ここ最近何か異変が起きているらしいのです。モンスターのイレギュラー的発生やダンジョン内部の構造が変化したりしているそうです」
「……確かに今日『春の草原』一階層でゴブリンが大量にポップしているのを見かけましたね」
そう言われて思い浮かんだのは、レアモンスターのゴブリンが五体の群れを形成した光景だ。本来ならレアモンスターは一匹だけでポップするもの。それが複数体でポップしていたということは……やはり。
「それらの現象を鑑みて考えられるのは、ダンジョンの格が上がった、つまりダンジョンの難易度が上がってしまった可能性が高いのです」
「なるほど、確かにそう判断できますね」
ケビンの元で代わりに依頼を受けた後に情報収集を欠かさずに行っていたので分かる。
ダンジョンの格が上がったということは、つまりダンジョンの主、ダンジョンマスターの力が増したということだ。ダンジョンとダンジョンマスターは表裏一体。両者はラビリンス・セントラル・コア、略してLCCにより紐づけられている。LCCの力が増すことでダンジョン内の魔物が強化または更に強大な魔物が生まれることになる。
LCCの力が増すことを『迷宮の活性化』という。
『迷宮の活性化』が起きることによって必然的に悲惨で凄惨な大災害、『#迷魔狂奔__スタンピード_#』が発生してしまうのだ。
『迷魔狂奔』とは、ダンジョンがいわば暴走状態に陥って魔物を際限なく生み出してしまい、ダンジョンの許容量を超えた瞬間にダンジョン内部から大量の魔物が溢れ出てきてしまうのだ。
そして、その魔物達は人々に襲い掛かりその命や築き上げてきた建物や思い出、そして、大切な家族や将来を誓いあった恋人までも奪い去ってしまうのだ。
それを未然に防ぐには……
「今回の依頼は大変な危険が伴います。それらを踏まえた上で、再度お聞きします。今回の依頼をお受け頂けますか?」
「はい、勿論引き受けます」
その方法とはダンジョンに攻め込んでダンジョンマスターとダンジョンの繋がりを断ち切る、つまりLCCを破壊することでダンジョンを自壊させることだ。
そのために俺に調査をお願いしてきたのだろう。
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『迷宮の活性化』真っ最中のダンジョンは正しく危険だ。
今の俺のステータスでは、あのゴブリンにすら勝てないだろう。だから、力の種の力に頼ることにする。
「ねぇ」
スベンが言っていたことが本当なのだとしたら、俺でも攻撃力だけは一級品に近づけることはできる。だって、俺のスキルで力の種を増やすことができるのだから。
「ねぇ!」
まさか外れだと思っていた《栽培》が役に立つ日が来ようとは思いもしなかった。
「ねぇってば!」
「うぉ!」
いつの間にかエマが晩飯を持ってきてくれていた。芳醇なチーズの匂いとコーンスープの甘い匂いが俺の食欲を盛大に刺激してくる。本当にエマが作る料理は美味そうだ。
「何考え込んでいたの?」
「いや、何でもないよ」
エマは納得してないような表情だったけど、俺の前に料理を並べてくれた。
「おー!うまそう!」
「あなたの好きなハンバーグを作っててあげたのよ。すっかり冷めちゃったけど……」
エマの作るハンバーグは俺の大好物である。それに迷宮都市のダンジョンから取れるミルクから作ったチーズを乗っけて食べれば、俺の頬が蕩けそうなほど美味しいのだ。
「いっただっきまーす!」
早速一口含んだ瞬間に広がるとろけるチーズのミルキーな風味。そして、噛めば噛むほど出てくるジューシーな肉汁が組み合わせってめっちゃうまい!
「うまい!」
「それは良かったわ、冷めないうちにコーンスープ飲みなさいよ」
「ああ!」
コーンスープも一口飲むがこれもまたうまい。この前飲んだのと微妙に味が違うから何か変えたのかな?
「本当にエマみたいな料理上手な女性がお嫁さんになってくれたらいいなぁ」
静寂が空間を支配した。
思わず本音を口走ってしまった俺は自身の気の緩みを呪った。俺なんかにエマが振り向いてくれる訳ないのにな。
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「え、ええ、そうよね、そうだと思ったわ」
この日はこれ以降何も言葉を発することはできないまま、食べ終え部屋に戻ってきた。俺はそのままベッドにダイブし頭を抱えた。まさか、口走ってしまうとは思うまい。
俺はエマが好きだ。幼い頃に顔を合わせたときに一目惚れしてしまった。俺とエマはスベンや他の親友達とよく遊んでいたけど、ある出来事がきっかけである日を境に疎遠になってしまったのだ。
そして俺が冒険者として迷宮都市ケルオンに来たときに数年ぶりに再会したのだ。その時は酷く驚いた。幼い頃も笑顔がよく似合うかわいらしい少女だったけど、成長した彼女は可憐さを残しつつも大人の女性らしさが出ている美少女になっていた。そこで俺は彼女のことが好きだと気づいた。
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