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第一章
04.実感と涙
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その後もずっと彼女は僕から離れずに看病に徹していた。
僕は体のつくりというか、気を扱う関係で、長時間作業することはそこまで苦ではない。
どんな事をしていても異能を使うことに比べれば全然楽で、大量の作業も平気でこなせるし、いっそ数日起きていることだって可能だ。
ただし勉強等は之に非ず、興味がないことやる気が起きないことをやれと言うのは別の意味で苦行である。
ようするに単純作業なら問題はないってことだ。
だからランゲツが倒れた時だってずっと一人で看病できた、でも彼女は違うよね?訓練積んでいる感じの女性ではないと思うんだけれど。
僕の方が心配になってしまう程彼女は僕につきっきりだ。
傍にいてずっと僕の容態を見ている。また僕を寝かせて撫でたり、体をふいたり、服を替えたり、傍にいてあやす様に歌ったり。
疲れるよね、凄く疲れるよねこれ。母親ってここまで子供を見るものなんだろうか…凄く大変じゃない?
胸に広がるこの感覚、こんな感情いままで感じたことはない、なんだかとてもむず痒い不思議。
多少放置していても僕死なないよ多分だけれど、もう峠のようなものは先程の核づくりで越えてきたからさ。
今の僕がそんな言葉かけたら頭のおかしい子だと心配されるかもしれないから黙っている。
先程の彼女の態度から見ても、僕はどうやら普通の状態の子ではなかったらしいから。
そろそろ体力が大分回復してきた。指先に力を入れればピクリと反応する。
もう少しだ、『核』が定着する。思っていた以上に時間がかかったけれどよかった。
早い気もしたけれど少しばかり僕は体に気を流し循環させ始めようとした。
少しでも早く起きないと彼女ずっと僕にかかりきりになってしまう気がしたからだ。
片手からゆっく…えっ、熱っ!!
どくりと体が震える、僕今そんなに気を流していない、少しだけ、ほんの少しだけだ。なのにこの量の『気』はいったい何?
今まで感じたことのない量の気が一気に体内に流れて、僕はコントロールが出来ずにとても焦り始める。
熱い、熱いから。熱湯に思わず片足を突っ込んだ感覚にとても良く似ていた。あの「ひゃっ」てなるやつに。
これ本当に僕の『気』なの?!ちょっと多すぎるし前と変わっている。えっと、もっと少し?もっともっと…
意識を少し掘り下げる、もっと繊細に、丁寧に…少しずつ流して…うう、難しい…
僕は元々の気がランゲツよりもずっと少ない。だから気の扱い方が少しばかりおおざっぱだ。
ガンガン流して、どんどん量増やしてが基本。おかげで循環させるのはとても得意。
こんな繊細な作業求められるとか思わないから。僕とても雑なんだよランゲツと違って。
ランゲツはそう、口とは違って凄く繊細な作業が得意だ。異能に関してだけでなく、彼は生まれながらにして『天才』だと僕は思っている。
天才でかつ、人の何倍もの努力をするのだ。僕はそんな人間ランゲツ以外知らない。
そして彼は『異能愛』あふれる人間で、こんなにきつい能力をあれ程までに楽しげに昇華し使いこなせる『狂人』だ。
僕も正直に言えば彼の現在の異能変化数は把握できていないのだ。
これ位楽々とこなせなければ、決して彼には、「剣仙」には近づけない。
僕だってこの能力をランゲツみたいに使いこなしたい。変化させたい、自分だけのものだって胸を張って言いたいから。僕は頑張らないといけない。
一気に流れた気が少しずつ落ち着いてくる。徐々に慣れてきた。前と違い扱う気の量がごくごく少量だ、こんなに少ない量で僕の身体は間に合うらしい。
身体に異変が起きない量に気が調節ができたところで、僕はほっと胸を撫でおろす。
今度は『核』はどうなっているんだろうと意識を集中して確認してみたところ…
えええ、なにこれ、ちょっと!!
とりあえず後、後にする。時間ちゃんととって確認する、今はとりあえず後!!!
もう今は考えるのを止める、現状最優先は彼女のことだ。
身体が動くし、もう立てるし、目も開けられる。
僕は視界を開き、目の前の彼女を見ると、彼女とばっちりと目が合った。
え、若 い 。
第一印象がそれ。若い、凄く若いんだけれど、本当に母親なのと思う程の若い少女が目の前に座っていた。
十代半ばか少し経っているぐらいじゃないかな、こんなに若い子が僕の事生んだの??
事件性とかない?少しばかり心配。僕「ただの村人」になりに来たのに大丈夫かな。
表情が少しきつい感じ。目元が動物の猫に似ている。それが少しばかり垂れ美味になっていて愛嬌がある感じ。
あの優しい気や声とは少し印象が違う。こういう顔していたんだね。
向こうも僕と目が合って驚いてい。そんなに驚くのって位驚いているから、以前の僕は目も合わない子供だったらしい。
一体どんな状況だったの小さい僕。
「リュウキ?」
「うん、僕!おはよう、母さん。」
「リュウキ?」
「うん、僕だよ、僕。」
「…」
うん、固まっちゃっている。もう少し「僕大丈夫だよ」的な主張してみるかな。
「母さん、僕元気だよ、ほら。」
上半身を起こしてパタパタと手を振る。
彼女呆然としている、意識がまるで戻ってこない。
ええどうしよう。全く起動しないよ、おかあさーん。
もう少し攻めてみる?僕は立ち上がってくるりとベットの上で回ってみた。
「ほら、こんなことも出来るよ。体とかもう大丈『可愛いいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!』
え、なに事と思うのと同時に目の前が塞がれて見えなくなる。
顔面全体に柔らかな感触、これ胸、胸だよこれ!!しかもすごく苦しい、息できない、これ僕がやっちゃダメなやつ!!!絶対にダメなやつ!!!
引きはがしたくても尋常じゃない力で抱き寄せられていて引き剥がせない。力づくでなんてもちろんできないから僕は焦る。
「可愛い、可愛いいい!!!喋るリュウキ可愛いいいい!!!!天使いいい!!!!」
「っか、さ、苦し…」
「あああ、話さなくても可愛かったけれど、話すとこんなにも可愛いんだねぇお前は!!!」
「くる、死。」
「ああ動いてる、動いて回るリュウキとかどれだけ可愛いんだよおおお!!!」
お願い、離して、僕停止しちゃう。
ねぇ僕もう何回死にかけているの?さすがにもういいよね?
とうとう息が限界で、僕は彼女の背を軽く叩いた。
何度か叩いているうちに彼女は気が付き、僕から離れてくれた。
危ない危ない、この死に方をするのは高度過ぎるよ。
「ああ、ごめんね嬉しくて…お母さんだよ、わかるリュウキ?」
「うん、わかるよ。でもそれ以外はよくわからないかな。」
今回は正直に言った方がいいよね、駆け引きが必要なわけじゃないから。
僕の言葉に彼女は微笑む、きつめの表情のはずなのにとても柔和で、心から僕の言葉を喜んでくれていた。
「いいんだよ、ゆっくりで。ゆっくり覚えていけばいいんだよリュウキ。」
「ありがとう母さん。」
「ああ、お礼言うリュウキも可愛いね…可愛い、我が子がこんなにも可愛い子だったなんて…」
あまり言われなれないかも。可愛いって言葉。
よくある母親特有の、どんなに不細工でも我が子ならば可愛いっていう感覚だよね。
わかっていてもちょっとだけムズムズとする、僕可愛い?本当に可愛いかな??なんてね。大丈夫わかっているから。
浮世離れしているとはよく言われた、特に煌陽の国の人から。
髪や目の色がね、僕の色はどこの国に行ってもないんだよ。現実じゃない色だから。
どこに行っても人として認められていない気がした。ランゲツと彼女だけだった、僕の事をちゃんと一人の人間として見てくれたのは。
みれば彼女、母さんの目の色は華河に咲く花の色に似ていた。桜って言ったっけ、あの色にそっくりだ。
髪の色もとても明るい茶色で僕の色に少しだけ近い、あの世界には決してない色だった。
本当に僕は違う世界に来たんだなって、あの世界から別の場所に生を受けたんだなって少しずつ実感をし始めて…
「リュウキ?!どこか痛むのかい??」
「え、わからない。」
わからないけれど涙があふれていた。
大人の姿だったらきっとこんな事はなかった。死にかけもしなかっただろうし、今頃楽しく散策とかしていたと思う。
今自分は子供だから、母親という存在の前だからかもしれない。こんな自分があったんだとこの時初めて知ってしまった。
絶えず流れる涙にどうしようかと思っていれば、母さんは優しく微笑みながら手を広げる。
えっと、おいでってこと?
迷うことなく僕は母さんの腕に飛びこんだ。今は精神面がとても不安定。
普段の自分であったならそれでも上手く扱えていた、今はどうしてもそれができない。
飛びこんだ先はとても暖かくて優しくて、先程と違って壊れ物を扱うように優しく抱きしめてゆっくり僕の背を撫でる。
身体を密着させれば心臓の音、耳元にトクトクと静かに動いて心地がいい。なんで女の人ってこんなにいい香りがするのかな。
恥ずかしいとか、大の男がとか、そんなのもうどこかしらに吹っ飛んでしまっていた。
ただただ安心する、ここにだけは自分の敵はいないと、そんな安心ができる場所。
ああこんな感じなのかな。
ランゲツが言ってた事、確か「男にはないものを女は持っている、それが欲しいけれどどうしても手に入らない。」っていう話だったかな。
だからと言って色んな人と肌を合わせる感覚が僕には理解ができないけれど。
今初めて、僕はランゲツがずっと求めているものをうっすらとだけれど理解できてしまった。
こんなにも抗い難いぬくもりってない。ましてや母親のぬくもりって他の女性では得難いものがあるんじゃないだろうか。
僕は涙が止まるまでぴたりと母さんにくっついたままでいた。
自分からこのぬくもりを離れるのは惜しい、背を撫でる手も優しくて気持ちがいいなあと思っていたら。
ド ン ド ン ド ン
「おーい、エルザ!!今帰ったぞー!!!」
どこから声出しているのって位の大きな若い男の声がした。
扉も力強く叩かれている、ちょっと叩きすぎじゃないだろうか。
彼は父親かな。もし不審人物なら僕「全力」出しちゃうよ。安心してね母さん。
僕は体のつくりというか、気を扱う関係で、長時間作業することはそこまで苦ではない。
どんな事をしていても異能を使うことに比べれば全然楽で、大量の作業も平気でこなせるし、いっそ数日起きていることだって可能だ。
ただし勉強等は之に非ず、興味がないことやる気が起きないことをやれと言うのは別の意味で苦行である。
ようするに単純作業なら問題はないってことだ。
だからランゲツが倒れた時だってずっと一人で看病できた、でも彼女は違うよね?訓練積んでいる感じの女性ではないと思うんだけれど。
僕の方が心配になってしまう程彼女は僕につきっきりだ。
傍にいてずっと僕の容態を見ている。また僕を寝かせて撫でたり、体をふいたり、服を替えたり、傍にいてあやす様に歌ったり。
疲れるよね、凄く疲れるよねこれ。母親ってここまで子供を見るものなんだろうか…凄く大変じゃない?
胸に広がるこの感覚、こんな感情いままで感じたことはない、なんだかとてもむず痒い不思議。
多少放置していても僕死なないよ多分だけれど、もう峠のようなものは先程の核づくりで越えてきたからさ。
今の僕がそんな言葉かけたら頭のおかしい子だと心配されるかもしれないから黙っている。
先程の彼女の態度から見ても、僕はどうやら普通の状態の子ではなかったらしいから。
そろそろ体力が大分回復してきた。指先に力を入れればピクリと反応する。
もう少しだ、『核』が定着する。思っていた以上に時間がかかったけれどよかった。
早い気もしたけれど少しばかり僕は体に気を流し循環させ始めようとした。
少しでも早く起きないと彼女ずっと僕にかかりきりになってしまう気がしたからだ。
片手からゆっく…えっ、熱っ!!
どくりと体が震える、僕今そんなに気を流していない、少しだけ、ほんの少しだけだ。なのにこの量の『気』はいったい何?
今まで感じたことのない量の気が一気に体内に流れて、僕はコントロールが出来ずにとても焦り始める。
熱い、熱いから。熱湯に思わず片足を突っ込んだ感覚にとても良く似ていた。あの「ひゃっ」てなるやつに。
これ本当に僕の『気』なの?!ちょっと多すぎるし前と変わっている。えっと、もっと少し?もっともっと…
意識を少し掘り下げる、もっと繊細に、丁寧に…少しずつ流して…うう、難しい…
僕は元々の気がランゲツよりもずっと少ない。だから気の扱い方が少しばかりおおざっぱだ。
ガンガン流して、どんどん量増やしてが基本。おかげで循環させるのはとても得意。
こんな繊細な作業求められるとか思わないから。僕とても雑なんだよランゲツと違って。
ランゲツはそう、口とは違って凄く繊細な作業が得意だ。異能に関してだけでなく、彼は生まれながらにして『天才』だと僕は思っている。
天才でかつ、人の何倍もの努力をするのだ。僕はそんな人間ランゲツ以外知らない。
そして彼は『異能愛』あふれる人間で、こんなにきつい能力をあれ程までに楽しげに昇華し使いこなせる『狂人』だ。
僕も正直に言えば彼の現在の異能変化数は把握できていないのだ。
これ位楽々とこなせなければ、決して彼には、「剣仙」には近づけない。
僕だってこの能力をランゲツみたいに使いこなしたい。変化させたい、自分だけのものだって胸を張って言いたいから。僕は頑張らないといけない。
一気に流れた気が少しずつ落ち着いてくる。徐々に慣れてきた。前と違い扱う気の量がごくごく少量だ、こんなに少ない量で僕の身体は間に合うらしい。
身体に異変が起きない量に気が調節ができたところで、僕はほっと胸を撫でおろす。
今度は『核』はどうなっているんだろうと意識を集中して確認してみたところ…
えええ、なにこれ、ちょっと!!
とりあえず後、後にする。時間ちゃんととって確認する、今はとりあえず後!!!
もう今は考えるのを止める、現状最優先は彼女のことだ。
身体が動くし、もう立てるし、目も開けられる。
僕は視界を開き、目の前の彼女を見ると、彼女とばっちりと目が合った。
え、若 い 。
第一印象がそれ。若い、凄く若いんだけれど、本当に母親なのと思う程の若い少女が目の前に座っていた。
十代半ばか少し経っているぐらいじゃないかな、こんなに若い子が僕の事生んだの??
事件性とかない?少しばかり心配。僕「ただの村人」になりに来たのに大丈夫かな。
表情が少しきつい感じ。目元が動物の猫に似ている。それが少しばかり垂れ美味になっていて愛嬌がある感じ。
あの優しい気や声とは少し印象が違う。こういう顔していたんだね。
向こうも僕と目が合って驚いてい。そんなに驚くのって位驚いているから、以前の僕は目も合わない子供だったらしい。
一体どんな状況だったの小さい僕。
「リュウキ?」
「うん、僕!おはよう、母さん。」
「リュウキ?」
「うん、僕だよ、僕。」
「…」
うん、固まっちゃっている。もう少し「僕大丈夫だよ」的な主張してみるかな。
「母さん、僕元気だよ、ほら。」
上半身を起こしてパタパタと手を振る。
彼女呆然としている、意識がまるで戻ってこない。
ええどうしよう。全く起動しないよ、おかあさーん。
もう少し攻めてみる?僕は立ち上がってくるりとベットの上で回ってみた。
「ほら、こんなことも出来るよ。体とかもう大丈『可愛いいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!』
え、なに事と思うのと同時に目の前が塞がれて見えなくなる。
顔面全体に柔らかな感触、これ胸、胸だよこれ!!しかもすごく苦しい、息できない、これ僕がやっちゃダメなやつ!!!絶対にダメなやつ!!!
引きはがしたくても尋常じゃない力で抱き寄せられていて引き剥がせない。力づくでなんてもちろんできないから僕は焦る。
「可愛い、可愛いいい!!!喋るリュウキ可愛いいいい!!!!天使いいい!!!!」
「っか、さ、苦し…」
「あああ、話さなくても可愛かったけれど、話すとこんなにも可愛いんだねぇお前は!!!」
「くる、死。」
「ああ動いてる、動いて回るリュウキとかどれだけ可愛いんだよおおお!!!」
お願い、離して、僕停止しちゃう。
ねぇ僕もう何回死にかけているの?さすがにもういいよね?
とうとう息が限界で、僕は彼女の背を軽く叩いた。
何度か叩いているうちに彼女は気が付き、僕から離れてくれた。
危ない危ない、この死に方をするのは高度過ぎるよ。
「ああ、ごめんね嬉しくて…お母さんだよ、わかるリュウキ?」
「うん、わかるよ。でもそれ以外はよくわからないかな。」
今回は正直に言った方がいいよね、駆け引きが必要なわけじゃないから。
僕の言葉に彼女は微笑む、きつめの表情のはずなのにとても柔和で、心から僕の言葉を喜んでくれていた。
「いいんだよ、ゆっくりで。ゆっくり覚えていけばいいんだよリュウキ。」
「ありがとう母さん。」
「ああ、お礼言うリュウキも可愛いね…可愛い、我が子がこんなにも可愛い子だったなんて…」
あまり言われなれないかも。可愛いって言葉。
よくある母親特有の、どんなに不細工でも我が子ならば可愛いっていう感覚だよね。
わかっていてもちょっとだけムズムズとする、僕可愛い?本当に可愛いかな??なんてね。大丈夫わかっているから。
浮世離れしているとはよく言われた、特に煌陽の国の人から。
髪や目の色がね、僕の色はどこの国に行ってもないんだよ。現実じゃない色だから。
どこに行っても人として認められていない気がした。ランゲツと彼女だけだった、僕の事をちゃんと一人の人間として見てくれたのは。
みれば彼女、母さんの目の色は華河に咲く花の色に似ていた。桜って言ったっけ、あの色にそっくりだ。
髪の色もとても明るい茶色で僕の色に少しだけ近い、あの世界には決してない色だった。
本当に僕は違う世界に来たんだなって、あの世界から別の場所に生を受けたんだなって少しずつ実感をし始めて…
「リュウキ?!どこか痛むのかい??」
「え、わからない。」
わからないけれど涙があふれていた。
大人の姿だったらきっとこんな事はなかった。死にかけもしなかっただろうし、今頃楽しく散策とかしていたと思う。
今自分は子供だから、母親という存在の前だからかもしれない。こんな自分があったんだとこの時初めて知ってしまった。
絶えず流れる涙にどうしようかと思っていれば、母さんは優しく微笑みながら手を広げる。
えっと、おいでってこと?
迷うことなく僕は母さんの腕に飛びこんだ。今は精神面がとても不安定。
普段の自分であったならそれでも上手く扱えていた、今はどうしてもそれができない。
飛びこんだ先はとても暖かくて優しくて、先程と違って壊れ物を扱うように優しく抱きしめてゆっくり僕の背を撫でる。
身体を密着させれば心臓の音、耳元にトクトクと静かに動いて心地がいい。なんで女の人ってこんなにいい香りがするのかな。
恥ずかしいとか、大の男がとか、そんなのもうどこかしらに吹っ飛んでしまっていた。
ただただ安心する、ここにだけは自分の敵はいないと、そんな安心ができる場所。
ああこんな感じなのかな。
ランゲツが言ってた事、確か「男にはないものを女は持っている、それが欲しいけれどどうしても手に入らない。」っていう話だったかな。
だからと言って色んな人と肌を合わせる感覚が僕には理解ができないけれど。
今初めて、僕はランゲツがずっと求めているものをうっすらとだけれど理解できてしまった。
こんなにも抗い難いぬくもりってない。ましてや母親のぬくもりって他の女性では得難いものがあるんじゃないだろうか。
僕は涙が止まるまでぴたりと母さんにくっついたままでいた。
自分からこのぬくもりを離れるのは惜しい、背を撫でる手も優しくて気持ちがいいなあと思っていたら。
ド ン ド ン ド ン
「おーい、エルザ!!今帰ったぞー!!!」
どこから声出しているのって位の大きな若い男の声がした。
扉も力強く叩かれている、ちょっと叩きすぎじゃないだろうか。
彼は父親かな。もし不審人物なら僕「全力」出しちゃうよ。安心してね母さん。
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