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Vol. Ⅷ 神の戯れ その2
【雨の恩恵】
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午後1時半を過ぎて店内が閑散とし始めた頃、俺たちは
ゆみちゃんと大将を交えて賑やかに話し込んでいた。
初対面の印象ではクールで職人気質なイメージだった
大将が繰り出すオヤジギャグはミヤさんのツボらしく
涙を流しながら笑う彼女を見ていると
俺にもこんなスキルがあれば…と羨ましくもあった。
お店がお昼休みに入っても
ゆみちゃんは休憩に入るどころか
ずっと“てっちり”の話題で盛り上がり
まだメンバーのJellyさんが田梨迫町で暮らしていた頃の
エピソードを聞かせてくれたりもした。
俺は時々ミヤさんの様子を横目で瞥見してみたが
社交辞令やお愛想ではなく
心から楽しんでいる様に感じられたので
少し遠かったがやはり来てよかった
改めてそう思った。
午後2時を回った頃、俺がミヤさんに目配せをすると
“そうだね”と言う表情でミヤさんが頷く。
実はこの後、ミヤさんがお薦めのカフェに
連れて行ってくれることになっていた。
麺っ娘で過ごす時間はとても楽しかったが
次の予定も控えているので
俺たちはそろそろおいとますることにした。
「また来てなあ」
ゆみちゃんの優しい言葉に送り出されるように
俺たちはお店を後にすることにした。
―お二人は仲良さそうでいいね
やっぱりネットのフォローして知り合った…とか?
「あ…それは」
「それが…ほんと、不思議で縁で知り合って…」
少し躊躇した俺を制するような形で代わりにミヤさんが
俺たちの出会いのきっかけを話してくれた。
「へぇー、そんなこともあるんだね」
ゆみちゃんとしては決して2人の関係性を
探るつもりではなかったのだろうが
俺がぎこちない回答をする前に
ミヤさんがスマートに答えてくれたんだ…
その気遣いが嬉しかった。
こりゃやっぱり次のお店で何かしらアクションを…
そんな思いに拍車がかかっていくのがわかった。
「じゃあこれお土産、荷物になるかもだけど」
そう言ってゆみちゃんが渡してくれたのは
紙袋いっぱいに詰め込まれたお菓子とジュース
「えー!ご飯食べに来てお土産いただくの初めて!」
ミヤさんは心底嬉しそうな顔でそう言った。
名残惜しい気持ちに包まれながら俺たちはお店を後にした
到着時に降り始めた雨は更に激しさを増し
俺の手には使わないから返さなくて大丈夫、と
ゆみちゃんが渡してくれた傘…
願わずとも俺たちは相合傘で車を停めている
道の駅まで歩くことになった。
見えなくなるまで見送ってくれるゆみちゃん夫妻が
お店の中に入るのを見計らったように
「めっちゃいいお店だったね!」
開口一番、ミヤさんが俺を見てそう言った。
「めちゃめちゃいい人だったなぁ」
「うん、それね!」
美味しいお店ならそれこそいくらでもある
そこに人情と言うスパイスが加わるからこそ
麺っ娘のラーメンは美味しいんだろうな…
「うん、いいこと言うじゃんショーちゃん」
「あはは、そうっすかぁ?」
「そう…って!ちょっとショーちゃん!」
突然強い口調になったミヤさん
俺、何か悪いことしただろうか?
「え…何かした?俺」
「傘!」
「え?」
「ショーちゃんの右側、全然傘に入ってないよ!」
「あ…あ?そうかな?」
「ほら!もっとこっち来てって!」
その瞬間、ミヤさんの柔らかな二の腕が
俺の左手と重なった。
仄かな香りと同時に素肌と素肌が触れる感覚、
女子に免疫のない俺には正に未知の世界だ
その瞬間、ふと体が熱くなるのを感じた。
「だ、だ、大丈夫だから、それよりミヤさんが濡れ…」
「何言ってんの?ほら!袖がびしょびしょだよ!」
これまでほんわりとした距離感で接していた俺とミヤさん
今後もこのような接近や接触があるのかと考えると
男女の仲って想像以上に大変なんだなと
思わざるを得なかった。
思春期真っ只中の俺には刺激が強すぎる、
実際に付き合ったりしたらこんなもんじゃ…
全く男と言う生き物は困ったものだ
俺の頭の中はあらぬ想像で支配されていた。
これは雨の恩恵だな…
恋愛の神はまたひとつ俺に“試練”を与えた
でもこんな試練ならばいくらでも受けよう…
そんなことを考えている間に俺の右の袖は
ますます濡れていくのだった。
ゆみちゃんと大将を交えて賑やかに話し込んでいた。
初対面の印象ではクールで職人気質なイメージだった
大将が繰り出すオヤジギャグはミヤさんのツボらしく
涙を流しながら笑う彼女を見ていると
俺にもこんなスキルがあれば…と羨ましくもあった。
お店がお昼休みに入っても
ゆみちゃんは休憩に入るどころか
ずっと“てっちり”の話題で盛り上がり
まだメンバーのJellyさんが田梨迫町で暮らしていた頃の
エピソードを聞かせてくれたりもした。
俺は時々ミヤさんの様子を横目で瞥見してみたが
社交辞令やお愛想ではなく
心から楽しんでいる様に感じられたので
少し遠かったがやはり来てよかった
改めてそう思った。
午後2時を回った頃、俺がミヤさんに目配せをすると
“そうだね”と言う表情でミヤさんが頷く。
実はこの後、ミヤさんがお薦めのカフェに
連れて行ってくれることになっていた。
麺っ娘で過ごす時間はとても楽しかったが
次の予定も控えているので
俺たちはそろそろおいとますることにした。
「また来てなあ」
ゆみちゃんの優しい言葉に送り出されるように
俺たちはお店を後にすることにした。
―お二人は仲良さそうでいいね
やっぱりネットのフォローして知り合った…とか?
「あ…それは」
「それが…ほんと、不思議で縁で知り合って…」
少し躊躇した俺を制するような形で代わりにミヤさんが
俺たちの出会いのきっかけを話してくれた。
「へぇー、そんなこともあるんだね」
ゆみちゃんとしては決して2人の関係性を
探るつもりではなかったのだろうが
俺がぎこちない回答をする前に
ミヤさんがスマートに答えてくれたんだ…
その気遣いが嬉しかった。
こりゃやっぱり次のお店で何かしらアクションを…
そんな思いに拍車がかかっていくのがわかった。
「じゃあこれお土産、荷物になるかもだけど」
そう言ってゆみちゃんが渡してくれたのは
紙袋いっぱいに詰め込まれたお菓子とジュース
「えー!ご飯食べに来てお土産いただくの初めて!」
ミヤさんは心底嬉しそうな顔でそう言った。
名残惜しい気持ちに包まれながら俺たちはお店を後にした
到着時に降り始めた雨は更に激しさを増し
俺の手には使わないから返さなくて大丈夫、と
ゆみちゃんが渡してくれた傘…
願わずとも俺たちは相合傘で車を停めている
道の駅まで歩くことになった。
見えなくなるまで見送ってくれるゆみちゃん夫妻が
お店の中に入るのを見計らったように
「めっちゃいいお店だったね!」
開口一番、ミヤさんが俺を見てそう言った。
「めちゃめちゃいい人だったなぁ」
「うん、それね!」
美味しいお店ならそれこそいくらでもある
そこに人情と言うスパイスが加わるからこそ
麺っ娘のラーメンは美味しいんだろうな…
「うん、いいこと言うじゃんショーちゃん」
「あはは、そうっすかぁ?」
「そう…って!ちょっとショーちゃん!」
突然強い口調になったミヤさん
俺、何か悪いことしただろうか?
「え…何かした?俺」
「傘!」
「え?」
「ショーちゃんの右側、全然傘に入ってないよ!」
「あ…あ?そうかな?」
「ほら!もっとこっち来てって!」
その瞬間、ミヤさんの柔らかな二の腕が
俺の左手と重なった。
仄かな香りと同時に素肌と素肌が触れる感覚、
女子に免疫のない俺には正に未知の世界だ
その瞬間、ふと体が熱くなるのを感じた。
「だ、だ、大丈夫だから、それよりミヤさんが濡れ…」
「何言ってんの?ほら!袖がびしょびしょだよ!」
これまでほんわりとした距離感で接していた俺とミヤさん
今後もこのような接近や接触があるのかと考えると
男女の仲って想像以上に大変なんだなと
思わざるを得なかった。
思春期真っ只中の俺には刺激が強すぎる、
実際に付き合ったりしたらこんなもんじゃ…
全く男と言う生き物は困ったものだ
俺の頭の中はあらぬ想像で支配されていた。
これは雨の恩恵だな…
恋愛の神はまたひとつ俺に“試練”を与えた
でもこんな試練ならばいくらでも受けよう…
そんなことを考えている間に俺の右の袖は
ますます濡れていくのだった。
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