神様、僕は恋をしました

みつ光男

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Vol. Ⅴ 年の差Fantasy

【猫の目】

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 約束を反古ほごにされたと勘違いして帰ろうとしたこと
昨日からLAINの返信がなかったこと

もうそんなことどうでもよかった

俺は半分渡りかけていた横断歩道できびすを返し
息を切らしながら再び“あの場所”へ向けて駆け出した。

もちろん返信なんてする余裕はない。

「ミヤさん!」

「あ、ショーちゃん、ごめんね遅くなって」

「あ、全然大丈夫っす」

「どうしたの?来ないから帰ってた?」

「あ、いや、忘れ物、肝心のCDを家に置き忘れてて…」

咄嗟に嘘をついてしまった俺だったが
京は疑う余地もなかったようで

「あははは、ショーちゃん何やってんの!」

もうこの笑顔を見るとこれまでのモヤモヤは
全て吹き飛んでしまう。

 袖口がモコモコなスエードのコートを羽織り
赤いマフラーを巻いたミヤさんは
これまで見た中で一番キレイだった。

「待たせたよね…残業だったの、連絡出来なくてごめんね」

「あ、いえ、そんなの大丈夫っすよ」

「昨日もバタバタしてて返信出来なくって…」

社会人ともなると時間や気持ちの余裕もなくなるだろう
それを責めるのは酷なことだと自分に言い聞かせた。

「あとねあたし…」

「はい」

「実はね…」

「はい」

あぁ何てもどかしい時間なんだろう
これが“女子のペース”なのだろうか?

「何だと思う?」

「え…そんな」

独特の“間”から生まれる何とも言えない空気感に
胸がしめつけられそうだ。

「あたしLAINの通知みただけで読んだ気になっちゃうの、ふふっ」

「あ、それで朝まで既読スルー…」

と、そこまで言いかけてふと口をつぐんだ

これ以上続けるとまるでミヤさんを責めている
そんな罪悪感に襲われたからだ。

「そ!既読スルーしちゃうの、よく友達にも怒られるんだ」

 ようやく胸のつかえが取れた気がした
俺がこれまで気に病んでいたことは

今、ミヤさんが全て釈明してくれた
そんな思いになったからだ。

「何か全ての謎が解けた気分…」

「もしかして…気にしてた?」

「あ、いえ、全然…」

「正直に…言いなさーい!」

おどけた口調で回答を迫られたが
それがあまりにもフレンドリーな感じだったので

この瞬間一気に心の距離が縮まった、
そんな思いにさせられた。

「俺、実はけっこう気にするタイプなんです」

「正直でよろしい、あたしが悪いんだから…何かお詫びしなくちゃね」

「え…お詫びだなんて…」

 この時、ふと猫のイラストが描かれた
俺のスマホケースに目をやった京は

笑顔で俺にこう問いかけてきた。

「猫、好きなの?」

「あ、はい、めちゃめちゃ好きです」

「でも…昨日は」

「はい」

「ワンちゃんの散歩してたよね?」

「うち、家族全員猫アレルギーなんですけど…」

「じゃワンちゃんだけなんだ?」

「この前、子猫保護してそのままうちにいます」

すると京は昨日同様に爆笑しながら

「家族全員猫アレルギーなのに猫ちゃんいるんだぁ、あはははは」

何故か俺もつられて笑っていた

彼女の笑顔は本当に人を幸せにするんだなと
この時実感した。

「じゃあ大丈夫だね?」

「え…何が?」

「猫カフェ…行かない?今度」

「はい!…ってえ!えええええええっ!それって…」

「デートしよ、遅刻のお詫びになるかな?」

「あ…もう、そりゃ、え?いいん…すか?マジで」

思わぬ展開に俺は冬だと言うのに
背中にうっすら汗をかいていた。

「あとさ…今日ここで出来るお詫び…何かあるかな?」

突然の問いかけだったが俺は迷わずこう答えた。
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