神様、僕は恋をしました

みつ光男

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Vol. Ⅲ スタートライン

【ベリーの功績】

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 早起きは苦手だ、いつでもギリギリまで寝ていたい
なのにいつも夜更かしなんかするもんだから

朝はいつでもどんな時でも起きるのが辛い、
なのに頭の上から母親の声が聞こえる

「ちょっと翔成!起きてよ、ベリーの散歩お願い!」

昨日から澪が学校行事でキャンプに行っている

おかげでダイエット中な妹の日課だった我が家の柴犬、
ベリーの散歩を数日間俺が任されているんだった。

「マジかよ、もう朝になってんのか?」

眠い目をこすりながら低血圧の体を無理に起こして
何とかベリーの首にリードを装着した。

「じゃ行ってきます、ふわぁ…」

「15分は歩くんだよ、ベリー最近なかなか用を足してくれないから…」

「ベリー、頼んだ、後で納豆あげるから」

「だ、か、ら!柴犬に納豆で交渉すんじゃないの!」

 朝もやが霞む細い道を抜けると
昨日オープンしたばかりのスーパー青洋が
視界に飛び込んでくる。

今なら何の躊躇いもなくこの辺り
我が物顔で歩けるんだけどな…

そう言や“ながの”さん、何でレジにいないんだろ?
もしかして部署が変わったとか…?

に、してもあそこにずっといられたら
レジに並んで買い物して、その流れで一言話す

そんな展開には期待できないな…

 母さんが言ってたみたいに何かしら用事を作って
行くしか方法はないだろうな

あとは俺の存在をどうやって認識してもらおっか?
たった1回レジに並んだ客のことなんて

絶対覚えてないだろうからなぁ。

とりあえず歩きながらあれこれ策を練るか…

「あ、あれ、ベリー…」

 おばあちゃん犬のベリーは散歩に疲れたのか
その場にしゃがみこんでしまい動かなくなった。

これは長い“戦い”になりそうだ…

スーパー青洋の駐車場の真横にある歩道で
ベリーは微動だにせずのんきにあくびなんかしている

時間はもうすぐ7時になろうとしている
出勤で行き交う人たちの姿が視界に入るようになり

少しずつ“今日”が始まろうとしている。

例に洩れずスーパー青洋に出勤する職員の人たちも
姿を現し始めた。

スーパーの店員さんってこんな時間から出勤してるのか?

それもそうだな、9時にオープンなら
精肉や鮮魚、惣菜だって仕込みもあるし陳列もある

開店2時間前に出勤なんて当たり前なんだろうな。

「おはようございます」
「おはようございます」

スーパー青洋に向かう従業員の人たちは誰もが
見ず知らずの俺に対しても挨拶をしてくれる。

その度に俺は少しうつむきながら

「…おはよございます」

最初こそ所在なさげにそう返していたものの

何度かそんなことを繰り返すうちに
さすがの俺も少しずつ慣れてきた。

ベリーは相変わらず動く気配もない、

持久戦に持ち込まれるのは問題ないが
このままだと遅刻どころか朝食の時間すらない。

「ベリー、そろそろ頼むよ、動いてくれよ」

ベリーの隣に腰かけていた俺が
しびれを切らして立ち上がろうとした

その時だった

「おはようございまーす!」

ひときわ快活な声で挨拶をされ
ふと見上げた視線の先に…

「おはようご…え!え!え!…さん!」

俺と目を合わせたその女性は
不思議そうな表情でこう尋ねてきた。

「え…?何で…あたしの名前、知ってるんですか?」

これが俺と“ながの”さんとの3度目の対面
ここから一度止まっていた時計の針が再び動き始めた。
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