神様、僕は恋をしました

みつ光男

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Vol. Ⅲ スタートライン

【青洋ラブストーリー】

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 玄関のドアを開けるや否や俺が何か聞く前から
興奮気味な母親に迎えられた

「ちょっと翔成!遂に我が大野ヶ原町にもスーパー出来るってさ」

正に渡りに船な案件だった

「え…もしかしてあの近くの空き地?」

「そ!あそこならうちから歩いて1分よ」

「また買い物行かされそうだな」

「近くだからいいでしょ?前までは油北ゆきた町か、ちょっと離れた門田町まで、ねぇ、行かなきゃならなかったのに」

「へえ、よかったじゃん、で?何てお店?」

「それがね…」


ーあんたの好きな“スーパー青洋”らしいよ

「べ、別に好きってわけじゃないけど」

「あと2ヶ月ほどでオープンだって」

「そうなんだ…」

快斗に悩みを打ち明けて帰宅した日の夜
母親からそう聞かされた時、一瞬気持ちが高揚したが

スーパー青洋…

あの青洋がうちの目と鼻の先に開店する…?
でもなぁ、例えそうだとして

そこに…“ながの”さんがいるわけじゃないし

まあ俺にはそんなに関係ないか…

少し冷静になるにつれそんなに心躍る案件では
ないことに少し落胆を覚えた。

一瞬でもテンション上がった俺、何かバカみたいだ
でも…これが恋してるって感覚、なんだろうか?

そんなことを考えながら真っ暗な寝室でまんじりともせず
ほの暗い天井とにらめっこしたまま朝を迎えた。

 翌朝、俺は少しだけ早く家を出た、
例の工事現場の看板を確認するためだ。

「ほんとに青洋なんだろうか?」

少し風の冷たい朝の空気を吸い込みながら
俺がまだ基礎工事中の現場に掲げられた
白い看板に視線を送ると…

そこには確かに“スーパー青洋”建設地
そう書かれていた。

本当に母さんが言った通りだ
でも…“ながの”さんはそこにいないわけだし

開店してもただのぬか喜びになるだけだろう
過度な期待はしないでおこう…

いや待てよ、

これが、これこそが昨日快斗が話していた
“運命の兆候”ってやつだとしたら

俺はこのチャンスをみすみす逃すことになる…
でも何もなければまたガッカリするだけだ。

そんな期待と不安を胸に2ヶ月が過ぎていった。

 年が明けて1月の中旬、
スーパー青洋大野ヶ原店がオープンした。

開店と同時に店内は
オープンセール品を求める客でごった返し

警備員まで出動するほどの盛況ぶり。

俺が授業を終えて帰宅する頃ですらまだ客足は途絶えず
満車の駐車場には空きスペースが出来る気配もない。

あまりの人の多さに胸焼けしそうな思いで
店の前を通り過ぎたその時、ふと立ち止まった。

ー ちょっと中、入ってみるか?

そんな風に思ったのは間違いなく初めてだった
しかし駐輪場はどこも自転車でいっぱい

俺は一旦帰宅してから歩いて行くことにした。


ー まさかな、そんなこと、あるわけないよな…

意を決して入り口の自動ドアの前に立ち
ヘッドホンをつけたままあてもなく店内を徘徊する

ま、まあとりあえず…レジくらいは見てみるか

右端から左端へとゆっくり歩を進めて
店員さんをチェックしてみるが

やはりそれらしい人はどこにもいない

ー そりゃそうだよな、そんな虫のいい話…

ヘッドホンから流れる曲が
ちょうど「ブラッディ・ファントム」に変わろうとした
その一瞬の静寂に切り込んでくるかのように

“ありがとうございます”

そんな声が聞こえた気がしてふと振り返る

"サービスカウンター"

そう書かれたレジの真横のスペースにその人はいた

え!え!えぇぇぇぇぇ~~!!!

これが3ヶ月ぶりに俺の前に現れた
“ながの”さんとの再会の瞬間だった。
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