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Vol. Ⅰ ブラッディ・ファントム
【てっちり】
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びっくりした、なんてもんじゃない
ひと目見た瞬間に打ちのめされた女性が
その数分後、再び目の前に立っている。
こんなことってある?
神様だ、これは神様の仕業に違いない。
「あ、あ、あ…ありがとうございます」
「学生さん?お買い物、頼まれたんだ?」
「は、はい」
気づけば俺は無意識にヘッドホンを外していた、
もう音楽なんて耳に入る余地もなかった。
特筆すべき彼女のビジュアル…
今時の女性には珍しい黒髪…ながら
前髪の毛先は少し暗い紫色に染められている。
こぼれ落ちそうなくらいクリクリした大きな瞳は
ちょうどいい感じの切れ長な二重瞼で
マスク越しにではあるが間違いない、
俺の“ド”ストライクのビジュアルだ。
身長は…160センチに満たない?
171センチの俺が見下ろせるくらいだから。
彼女を見ているとクラスメイトの女子は
まるでお子ちゃまのようにすら思える、
と、言ってもまじまじと見つめる勇気はないが。
ほんの数秒間でここまで観察した俺は
“胸が…胸が”と大騒ぎする快斗のことなんて
どうこう言える立場じゃない、
すっかり舞い上がっている。
何か、話せるような話題はないか?
いやいや口下手な俺が
そんな器用な技を持ち合わせているはすがない。
その矢先、彼女から驚くべき一言が放たれた
「それ…」
「え…」
「今流れてるのって…」
「あ…うるさくてすみません」
「てっちり…だよね?」
え…!
それ、何だ?何なんだよ?
てっちりって…何のことだ?
あぁ、女子の話って何でこんなに掴み所がないんだろ…
いや待てよ!
これは音楽の話題ではなく
俺が買った商品についての話?
いやいや俺が買ったのは卵だぞ
てっちりは買っていない…
いや、そもそもてっちりって何だ?
「あ、え、そ、そうなんです…か?」
そう答える以外の選択肢はなかった
目を白黒させながら返す言葉も見つからず
俺はただ困惑の表情を浮かべていた。
「ブラッディ・ファントム…だよね!」
え?もしかしててっちりって
今、ヘッドホンから流れてるバンドのこと?
そして彼女はこの曲を…知っている?
俺もこの曲が1番好きでさっきから
同じ曲ばかりリピートしていた、
それが“ブラッディ・ファントム”だと知ったのは
ついさっきのことだが。
そしてようやく少しずつ状況を把握し始めた。
「あ、これ…さっき、ほんとにさっき買ってきたばっかなんで…」
すると"ながの"さんは一瞬ハッとした表情になり
ほんの少しだけ頬を赤らめてこう言った
「あははは!ごめんなさい…あたし、何かテンション上がっちゃって!」
ー 音漏れしてたからすぐわかったの
だってあたしの一番好きなバンドだから…
「え?そうなんですか?」
「お客さまが聴かれてた…Terrifying Chiliesってバンド、ファンの間では“てっちり”って呼ばれてるの」
「そ…そうなんですね…」
俺は気の利いた台詞どころか
返す言葉すら思い浮かばなかった
そもそも年頃の女性と話す機会なんて
ここ数年体験がない
クラスメイトの女子ですら
教室でろくに会話したことないくらいなのに…
こんな時快斗なら…何て返すんだろう?
彼のことだ、ここぞとばかり喋りまくるんだろうな…
「それじゃあたし戻りますね、卵、お買い上げありがとうございました」
「は、はい、こちらこそ…わざわざ届けてくれて…すみません」
この後、どうやって家まで帰ったのか全く覚えていない
“ながの”さんと過ごした束の間の心地よい時間
それだけを頭の中で何度も反芻していた。
そして唯一覚えていたことと言えば
卵が何個か割れていて
母親から小言を食らったことくらい。
それほどまでに俺の脳内は“ながの”さんで
占められていた。
ひと目見た瞬間に打ちのめされた女性が
その数分後、再び目の前に立っている。
こんなことってある?
神様だ、これは神様の仕業に違いない。
「あ、あ、あ…ありがとうございます」
「学生さん?お買い物、頼まれたんだ?」
「は、はい」
気づけば俺は無意識にヘッドホンを外していた、
もう音楽なんて耳に入る余地もなかった。
特筆すべき彼女のビジュアル…
今時の女性には珍しい黒髪…ながら
前髪の毛先は少し暗い紫色に染められている。
こぼれ落ちそうなくらいクリクリした大きな瞳は
ちょうどいい感じの切れ長な二重瞼で
マスク越しにではあるが間違いない、
俺の“ド”ストライクのビジュアルだ。
身長は…160センチに満たない?
171センチの俺が見下ろせるくらいだから。
彼女を見ているとクラスメイトの女子は
まるでお子ちゃまのようにすら思える、
と、言ってもまじまじと見つめる勇気はないが。
ほんの数秒間でここまで観察した俺は
“胸が…胸が”と大騒ぎする快斗のことなんて
どうこう言える立場じゃない、
すっかり舞い上がっている。
何か、話せるような話題はないか?
いやいや口下手な俺が
そんな器用な技を持ち合わせているはすがない。
その矢先、彼女から驚くべき一言が放たれた
「それ…」
「え…」
「今流れてるのって…」
「あ…うるさくてすみません」
「てっちり…だよね?」
え…!
それ、何だ?何なんだよ?
てっちりって…何のことだ?
あぁ、女子の話って何でこんなに掴み所がないんだろ…
いや待てよ!
これは音楽の話題ではなく
俺が買った商品についての話?
いやいや俺が買ったのは卵だぞ
てっちりは買っていない…
いや、そもそもてっちりって何だ?
「あ、え、そ、そうなんです…か?」
そう答える以外の選択肢はなかった
目を白黒させながら返す言葉も見つからず
俺はただ困惑の表情を浮かべていた。
「ブラッディ・ファントム…だよね!」
え?もしかしててっちりって
今、ヘッドホンから流れてるバンドのこと?
そして彼女はこの曲を…知っている?
俺もこの曲が1番好きでさっきから
同じ曲ばかりリピートしていた、
それが“ブラッディ・ファントム”だと知ったのは
ついさっきのことだが。
そしてようやく少しずつ状況を把握し始めた。
「あ、これ…さっき、ほんとにさっき買ってきたばっかなんで…」
すると"ながの"さんは一瞬ハッとした表情になり
ほんの少しだけ頬を赤らめてこう言った
「あははは!ごめんなさい…あたし、何かテンション上がっちゃって!」
ー 音漏れしてたからすぐわかったの
だってあたしの一番好きなバンドだから…
「え?そうなんですか?」
「お客さまが聴かれてた…Terrifying Chiliesってバンド、ファンの間では“てっちり”って呼ばれてるの」
「そ…そうなんですね…」
俺は気の利いた台詞どころか
返す言葉すら思い浮かばなかった
そもそも年頃の女性と話す機会なんて
ここ数年体験がない
クラスメイトの女子ですら
教室でろくに会話したことないくらいなのに…
こんな時快斗なら…何て返すんだろう?
彼のことだ、ここぞとばかり喋りまくるんだろうな…
「それじゃあたし戻りますね、卵、お買い上げありがとうございました」
「は、はい、こちらこそ…わざわざ届けてくれて…すみません」
この後、どうやって家まで帰ったのか全く覚えていない
“ながの”さんと過ごした束の間の心地よい時間
それだけを頭の中で何度も反芻していた。
そして唯一覚えていたことと言えば
卵が何個か割れていて
母親から小言を食らったことくらい。
それほどまでに俺の脳内は“ながの”さんで
占められていた。
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