神様、僕は恋をしました

みつ光男

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Vol. Ⅰ ブラッディ・ファントム

【ながのさん】

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 思わぬ掘り出し物に興奮気味だった俺は
もうひとつのミッション、そう母親から頼まれていた
特売の卵を買うのをを忘れて帰るところだった。

スーパー青洋の前を通り過ぎてしばらくしてから
そのことに気づいたのだが

「ま、さっきのCD聴きながら行けばいいか…」

そんなことを考えながら
夕刻の最も賑やかな時間帯と言える
スーパーの自動ドアの前に立った。

 慣れないスーパーの生鮮コーナーをうろうろして
ようやく見つけた特売の卵、Mサイズ78円

狭い通路、人混みをすり抜けながら2パックを手に取り
買い物かごに入れると俺はそそくさとレジを目指した

もちろんヘッドホンはつけたまま。

「え…っと一番空いてるレジは…と」

比較的人の列が少なめなレジに並んだ俺がふと顔を上げた

その時だった

え…?

そこに立っていたのは店員さんではない…
それは正に“天使”だった…

そう言っても過言ではないくらい美しい女性が
笑顔でレジを打っていたのだ。

 スーパーのレジの店員さん…?
今までそんなこと気にしたこともなかった

むしろ人の少ないレジを探して
会計が終わればさっさと帰るのが常だった俺…

俺の中で何が起きた?

とりあえず名前、チェックしとかなきゃ

名前を知ったところでどうと言うわけではないが
あまり胸元を凝視するのも気が引けたので

さらっと流すような感じで名札に視線を送る。

“ながの”

そう平仮名で書かれた名前を確認するのがやっとだった

ヘッドホンをつけたまま間抜けな顔で立ち尽くす俺
轟音でさっき買ったCDの曲が流れていたが
もうそれすらどうでもよかった。

「…聞こえてますか?」

彼女の唇がそう動いたように思えた俺は
慌ててヘッドホンを外す

「あ、はい!聞こえました!」

音楽を聴いていたせいで
俺の声が必要以上に大きかったからか

一瞬ハッとした表情に変わった“ながの”さんだったが
すぐにさっきの笑顔に戻ると

「お会計は三番のセルフレジでお願いします」

「あ、、ありがとうございます!」

緊張がマックスまで高まった俺は
訳のわからない返事をしてしまった

「ふふ、それじゃお願いしますね、ありがとうございました」

「は、はいー!」

この後、どうやってお店から出たのか覚えていない

 日暮れ時のほんのり薄暗い駐輪場で
俺は自転車のかごの中を覗き込んで
あることに気づいた。


「ヤベっ!卵、忘れてきた!」

またお店戻らなきゃいけないのか…
何だか顔、合わせ辛いな…

なんならサービスカウンターに届けられてないかな?
などと不届きなことを考えていた時だった

「あのー、すみません」

どこかで声が聞こえたような気がした。


例によってあいつの時…そう、快人の時と同様に
俺は聞こえないふりをして俯いた…その時

「あ、見ぃつけた!」

その視線の先、いや、目と鼻の先に再び“女神”が現れた

「お買い上げの商品…お忘れですよぉ」

「あ、え、え、ありがとうございます…!」


何と言うことだ、目の前に立っていたのは
俺を一瞬で虜にしてしまった

“ながの”さんだった。

もう、しどろもどろなんてレベルはとっくに超え
これまでの人生で一番の鼓動の高鳴りを感じていた。
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