神様、僕は恋をしました

みつ光男

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Vol. Ⅰ ブラッディ・ファントム

【夕刻の愉しみ】

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 まず最初に言わせてもらうが
俺はとにもかくにも人込みがキライだ。

例え周囲にいるクラスメイトであろうと
見知らぬ人であろうと

喧騒の中に紛れるだけで
吐き気がするような嫌悪感を覚える。

だから俺はどこに行く時でもどこにいる時でも
常にヘッドホンから音楽を流している。

そんな俺の名は高科たかしな翔成しょうせい
冴えない高校2年生。

見た目はそんなに悪くないとは思っているが
何せ人と話すのが何より億劫だ。

 実はこのヘッドホン、あるドラマに出ていた
女優さんが使っていたので
わざわざネットで調べて同じものを購入した。

そう、俺だって少しはなわけで…
女子に興味があると言う点に関しては。

その対象が身近すぎるクラスメイトではない、
ただそれだけの話だ。


「ただいまー」

「あ、お帰り翔成、ちょっといい?」

「え?今から行くとこあるんだけど」

母親の声が部屋の向こうから聞こえる
思春期真っ只中の俺ではあるが

両親との関係はそんなに悪くはない。

そもそも俺が音楽好きになったのは父親の影響だし
学校に行っている時間以外は
何処にいようと常に音楽が流れている、

もちろん家にいる時でもそうだ。

そんな俺を母親は特にとがめるでもない。

「じゃ、ついでにお願い、買い物頼まれてよ」

「え…これから門田町のCDショップ行くんだけど」

 そう、俺にとって最大の夕刻の愉しみ
それは放課後のCDショップ巡りだ。

「じゃ"スーパー青洋"が近くにあるよね、卵の特売日なの、今日」

「スーパー青洋…あそこいつもお客さん多いよね」

「大丈夫、レジもたくさんあるから」

「人混み、苦手なんだよね」

俺がそう言うと母親は幼い子供をいさめるように

「我が家が買い物するとスーパーも繁盛する…これも社会貢献だと思って」

「どんな理論だよ」

「とにかく頼んだよ、たまには親孝行してよ」

「俺がCD買うのも…社会貢献だと思うんだけどな」

「翔成、あんたも大変だねぇ、なけなしの小遣い全部CDにつぎ込んでさ」

「ま、形に残る財産だよ」


相変わらずだな、母さんは
いつも着地点のわからない会話になるんだけど

不思議と不快にさせないから不思議だ。

 不快と言えば俺、大丈夫なんだろうか?
快斗にいつも冷たく当たって…

でもあいつが怒ったとこも見たことないよな、
そんなことを考えながら自転車を漕ぎ始めた。


正直、友達なんてそんなにいらない


広く浅くみたいな人間関係は苦手だ、
友達やフォロワーが多いのがステイタスみたいな
今の世の中

人付き合いとか本当にしんどい。

噂話や悪口なんてもってのほか、
そんなのに巻き込まれるくらいなら1人の方が随分楽だ。

だから外界からのつまらない情報は
ハードロックの轟音でシャットアウトする。

 本当は高校も行くのも気が重いが、まあ仕方ない
とりあえず惰性で通っている、成績もそれなりだ。

お決まりの帰宅部で家に帰ると
CDショップへ新譜探しに行くのが日課になっている。

そして店内にいる時のみ俺はヘッドホンを外す

「何か新しいバンドのCD、出てないかな?」

おもむろにあるスペースに行くと
俺は再びヘッドホンを装着する。

そう、そこはCDの試聴コーナー
今日も数枚のサンプルCDを片っ端から聴いている

何か掘り出し物がないだろうか?
ここは正に音楽の宝庫とも言える場所

唯一俺が心を開いて過ごせる空間だ。

そしてここで隠れた名曲や凄いバンドを探し出すのが
唯一の俺の趣味だった。

今日も幾つか山積みにされたサンプルCDたちを
ランダムに聴いていた、その時だった。

「うわ!何だこれ!」

ギターが激しく鳴り響くロックでありながら
印象的なバイオリンの音色

こんなバンド、今まで聴いたことがない!

「これ…ヤバくね?」

気づけば俺はレジに並んでそのCDを購入していた。

中でもお気に入りの1曲は先ほど試聴した
「ブラッディ・ファントム」と言う曲だった。

当然ながらまだこの時点ではバンド名や
曲名すら把握していなかったので

歌詞カードと睨めっこしながらタイトルを確認していた。
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