2 / 40
Vol. Ⅰ ブラッディ・ファントム
【夕刻の愉しみ】
しおりを挟む
まず最初に言わせてもらうが
俺はとにもかくにも人込みがキライだ。
例え周囲にいるクラスメイトであろうと
見知らぬ人であろうと
喧騒の中に紛れるだけで
吐き気がするような嫌悪感を覚える。
だから俺はどこに行く時でもどこにいる時でも
常にヘッドホンから音楽を流している。
そんな俺の名は高科翔成
冴えない高校2年生。
見た目はそんなに悪くないとは思っているが
何せ人と話すのが何より億劫だ。
実はこのヘッドホン、あるドラマに出ていた
女優さんが使っていたので
わざわざネットで調べて同じものを購入した。
そう、俺だって少しは健全なわけで…
女子に興味があると言う点に関しては。
その対象が身近すぎるクラスメイトではない、
ただそれだけの話だ。
「ただいまー」
「あ、お帰り翔成、ちょっといい?」
「え?今から行くとこあるんだけど」
母親の声が部屋の向こうから聞こえる
思春期真っ只中の俺ではあるが
両親との関係はそんなに悪くはない。
そもそも俺が音楽好きになったのは父親の影響だし
学校に行っている時間以外は
何処にいようと常に音楽が流れている、
もちろん家にいる時でもそうだ。
そんな俺を母親は特に咎めるでもない。
「じゃ、ついでにお願い、買い物頼まれてよ」
「え…これから門田町のCDショップ行くんだけど」
そう、俺にとって最大の夕刻の愉しみ
それは放課後のCDショップ巡りだ。
「じゃ"スーパー青洋"が近くにあるよね、卵の特売日なの、今日」
「スーパー青洋…あそこいつもお客さん多いよね」
「大丈夫、レジもたくさんあるから」
「人混み、苦手なんだよね」
俺がそう言うと母親は幼い子供を諫めるように
「我が家が買い物するとスーパーも繁盛する…これも社会貢献だと思って」
「どんな理論だよ」
「とにかく頼んだよ、たまには親孝行してよ」
「俺がCD買うのも…社会貢献だと思うんだけどな」
「翔成、あんたも大変だねぇ、なけなしの小遣い全部CDにつぎ込んでさ」
「ま、形に残る財産だよ」
相変わらずだな、母さんは
いつも着地点のわからない会話になるんだけど
不思議と不快にさせないから不思議だ。
不快と言えば俺、大丈夫なんだろうか?
快斗にいつも冷たく当たって…
でもあいつが怒ったとこも見たことないよな、
そんなことを考えながら自転車を漕ぎ始めた。
正直、友達なんてそんなにいらない
広く浅くみたいな人間関係は苦手だ、
友達やフォロワーが多いのがステイタスみたいな
今の世の中
人付き合いとか本当にしんどい。
噂話や悪口なんてもってのほか、
そんなのに巻き込まれるくらいなら1人の方が随分楽だ。
だから外界からのつまらない情報は
ハードロックの轟音でシャットアウトする。
本当は高校も行くのも気が重いが、まあ仕方ない
とりあえず惰性で通っている、成績もそれなりだ。
お決まりの帰宅部で家に帰ると
CDショップへ新譜探しに行くのが日課になっている。
そして店内にいる時のみ俺はヘッドホンを外す
「何か新しいバンドのCD、出てないかな?」
おもむろにあるスペースに行くと
俺は再びヘッドホンを装着する。
そう、そこはCDの試聴コーナー
今日も数枚のサンプルCDを片っ端から聴いている
何か掘り出し物がないだろうか?
ここは正に音楽の宝庫とも言える場所
唯一俺が心を開いて過ごせる空間だ。
そしてここで隠れた名曲や凄いバンドを探し出すのが
唯一の俺の趣味だった。
今日も幾つか山積みにされたサンプルCDたちを
ランダムに聴いていた、その時だった。
「うわ!何だこれ!」
ギターが激しく鳴り響くロックでありながら
印象的なバイオリンの音色
こんなバンド、今まで聴いたことがない!
「これ…ヤバくね?」
気づけば俺はレジに並んでそのCDを購入していた。
中でもお気に入りの1曲は先ほど試聴した
「ブラッディ・ファントム」と言う曲だった。
当然ながらまだこの時点ではバンド名や
曲名すら把握していなかったので
歌詞カードと睨めっこしながらタイトルを確認していた。
俺はとにもかくにも人込みがキライだ。
例え周囲にいるクラスメイトであろうと
見知らぬ人であろうと
喧騒の中に紛れるだけで
吐き気がするような嫌悪感を覚える。
だから俺はどこに行く時でもどこにいる時でも
常にヘッドホンから音楽を流している。
そんな俺の名は高科翔成
冴えない高校2年生。
見た目はそんなに悪くないとは思っているが
何せ人と話すのが何より億劫だ。
実はこのヘッドホン、あるドラマに出ていた
女優さんが使っていたので
わざわざネットで調べて同じものを購入した。
そう、俺だって少しは健全なわけで…
女子に興味があると言う点に関しては。
その対象が身近すぎるクラスメイトではない、
ただそれだけの話だ。
「ただいまー」
「あ、お帰り翔成、ちょっといい?」
「え?今から行くとこあるんだけど」
母親の声が部屋の向こうから聞こえる
思春期真っ只中の俺ではあるが
両親との関係はそんなに悪くはない。
そもそも俺が音楽好きになったのは父親の影響だし
学校に行っている時間以外は
何処にいようと常に音楽が流れている、
もちろん家にいる時でもそうだ。
そんな俺を母親は特に咎めるでもない。
「じゃ、ついでにお願い、買い物頼まれてよ」
「え…これから門田町のCDショップ行くんだけど」
そう、俺にとって最大の夕刻の愉しみ
それは放課後のCDショップ巡りだ。
「じゃ"スーパー青洋"が近くにあるよね、卵の特売日なの、今日」
「スーパー青洋…あそこいつもお客さん多いよね」
「大丈夫、レジもたくさんあるから」
「人混み、苦手なんだよね」
俺がそう言うと母親は幼い子供を諫めるように
「我が家が買い物するとスーパーも繁盛する…これも社会貢献だと思って」
「どんな理論だよ」
「とにかく頼んだよ、たまには親孝行してよ」
「俺がCD買うのも…社会貢献だと思うんだけどな」
「翔成、あんたも大変だねぇ、なけなしの小遣い全部CDにつぎ込んでさ」
「ま、形に残る財産だよ」
相変わらずだな、母さんは
いつも着地点のわからない会話になるんだけど
不思議と不快にさせないから不思議だ。
不快と言えば俺、大丈夫なんだろうか?
快斗にいつも冷たく当たって…
でもあいつが怒ったとこも見たことないよな、
そんなことを考えながら自転車を漕ぎ始めた。
正直、友達なんてそんなにいらない
広く浅くみたいな人間関係は苦手だ、
友達やフォロワーが多いのがステイタスみたいな
今の世の中
人付き合いとか本当にしんどい。
噂話や悪口なんてもってのほか、
そんなのに巻き込まれるくらいなら1人の方が随分楽だ。
だから外界からのつまらない情報は
ハードロックの轟音でシャットアウトする。
本当は高校も行くのも気が重いが、まあ仕方ない
とりあえず惰性で通っている、成績もそれなりだ。
お決まりの帰宅部で家に帰ると
CDショップへ新譜探しに行くのが日課になっている。
そして店内にいる時のみ俺はヘッドホンを外す
「何か新しいバンドのCD、出てないかな?」
おもむろにあるスペースに行くと
俺は再びヘッドホンを装着する。
そう、そこはCDの試聴コーナー
今日も数枚のサンプルCDを片っ端から聴いている
何か掘り出し物がないだろうか?
ここは正に音楽の宝庫とも言える場所
唯一俺が心を開いて過ごせる空間だ。
そしてここで隠れた名曲や凄いバンドを探し出すのが
唯一の俺の趣味だった。
今日も幾つか山積みにされたサンプルCDたちを
ランダムに聴いていた、その時だった。
「うわ!何だこれ!」
ギターが激しく鳴り響くロックでありながら
印象的なバイオリンの音色
こんなバンド、今まで聴いたことがない!
「これ…ヤバくね?」
気づけば俺はレジに並んでそのCDを購入していた。
中でもお気に入りの1曲は先ほど試聴した
「ブラッディ・ファントム」と言う曲だった。
当然ながらまだこの時点ではバンド名や
曲名すら把握していなかったので
歌詞カードと睨めっこしながらタイトルを確認していた。
1
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
冬の水葬
束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。
凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。
高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。
美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた――
けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。
ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
私の隣は、心が見えない男の子
舟渡あさひ
青春
人の心を五感で感じ取れる少女、人見一透。
隣の席の男子は九十九くん。一透は彼の心が上手く読み取れない。
二人はこの春から、同じクラスの高校生。
一透は九十九くんの心の様子が気になって、彼の観察を始めることにしました。
きっと彼が、私の求める答えを持っている。そう信じて。
先輩に振られた。でも、いとこと幼馴染が結婚したいという想いを伝えてくる。俺を振った先輩は、間に合わない。恋、デレデレ、甘々でラブラブな青春。
のんびりとゆっくり
青春
俺、海春夢海(うみはるゆめうみ)。俺は高校一年生の時、先輩に振られた。高校二年生の始業式の日、俺は、いとこの春島紗緒里(はるしまさおり)ちゃんと再会を果たす。彼女は、幼い頃もかわいかったが、より一層かわいくなっていた。彼女は、俺に恋している。そして、婚約して結婚したい、と言ってきている。戸惑いながらも、彼女の熱い想いに、次第に彼女に傾いていく俺の心。そして、かわいい子で幼馴染の夏森寿々子(なつもりすずこ)ちゃんも、俺と婚約して結婚してほしい、という気持ちを伝えてきた。先輩は、その後、付き合ってほしいと言ってきたが、間に合わない。俺のデレデレ、甘々でラブラブな青春が、今始まろうとしている。この作品は、「小説家になろう」様「カクヨム」様にも投稿しています。「小説家になろう」様「カクヨム」様への投稿は、「先輩に振られた俺。でも、その後、いとこと幼馴染が婚約して結婚したい、という想いを一生懸命伝えてくる。俺を振った先輩が付き合ってほしいと言ってきても、間に合わない。恋、デレデレ、甘々でラブラブな青春。」という題名でしています。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンスポット【完結】
中畑 道
青春
校内一静で暗い場所に部室を構える竹ヶ鼻商店街歴史文化研究部。入学以来詳しい理由を聞かされることなく下校時刻まで部室で過ごすことを義務付けられた唯一の部員入間川息吹は、日課の筋トレ後ただ静かに時間が過ぎるのを待つ生活を一年以上続けていた。
そんな誰も寄り付かない部室を訪れた女生徒北条志摩子。彼女との出会いが切っ掛けで入間川は気付かされる。
この部の意義、自分が居る理由、そして、何をすべきかを。
※この物語は、全四章で構成されています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる