僕とあの娘

みつ光男

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第26章.  夢の続き

【デジャブ的な何か】

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 もしかしたらあの夢、らしき記憶は
僕に与えられた"考える時間" だったのかも知れない。

そして舞もまた昏睡状態の僕が目を覚ますまでの間
夢と現実の狭間で自分の心の葛藤と戦いながら

ふたりの関係を再度考察したのだろう。

「俺、退院したらバイトでもやろうかな」

「え?今はバンド忙しいんじゃないの?」

「うん、そうなんだけど、音楽も含めて舞との時間を大切にしたくて」

「そう?わたし、負担にならない?」

「そう、そこなんだ、夢の中でさ、舞は自分の存在が俺の負担になってるかもって去って行ったんでね」

「ごめんね、心配性なのね夢の中でも、ふふ」

「これからは釣りも車で行きたいよね」

「ふふっ、確かにそれは思う」

「だから」

「うん」

「これからもずっと一緒にいてくれる?」

「うん」

舞はそっと僕に寄り添い
僕はそんな舞を優しく抱きしめた

一時は生死の境を彷徨ったこの病室が
ようやく安息の場所へと変わった。

 原因不明の昏倒状態から意識を取り戻した後
僕は奇跡的な回復を遂げこの数日後、無事退院した。

音楽活動は続けることにしたが
決して舞を置き去りにすることはなかった。

それはあの夢の二の舞は懲り懲りだと言う
自分への戒めでもあった。

そして何よりもまだ
大学生活が半分も終わってなかったことに
僕は喜びを感じていた。

アルバイトは亮二が働いている
駅前の居酒屋風レストランに面接が決まり

週3回程度の出勤で採用された…のだが
ここで気付くべきだった。

夢と現実が微妙にリンクし始めていることに…

なのに能天気な僕は先のことばかり
あれこれ考えていた。

 車の免許は高校卒業してすぐに取ってるので
これなら数ヶ月で中古の車が買えるし

本格的な日常が戻れば
舞の"初体験" のお相手も任されている、

などと。


そしてこの先、舞とひとつになることで

もう沙弥香とのトラウマや
美波との"過去" に振り回されることもないだろう

 しかしそれならばあの夢の中での
舞を含めた幾つかの誘惑や
数々のヤラしい行為は何の暗示だったのだろう?

僕の深層心理の現れだったのかも知れない、

一日も早く、いつかどこかで
舞とこんな関係になれたらいいな、と言う。

そんなことを考えながら
アルバイト初出勤の日を迎えてドアを開いた

その時

「あ、おはようございます、今日からの…中村さんですね?」

「え?、あ、はい…あ、あの?」

「どうしたんですか?そんなビックリした顔されて」

「あ、あの、お名前は?」

「あ、私ですか?ここで働いてる前田…前田玲可って言います、よろしくね」


嘘だろ…気付いたときはもう遅かった。

前田さん…前田玲可さんって言うのか?
彼女、夢に出てきたヒナさんと瓜二つじゃないか!

夢の続きが現実で始まってしまったのか?
僕と舞のこれからは・・・どうなるんだ?

"僕とあの娘"の未来を知るために
また僕はこの世界で生きていかなければ

…ならないようだ。
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