僕とあの娘

みつ光男

文字の大きさ
上 下
125 / 129
第26章.  夢の続き

【夢じゃない】

しおりを挟む
「咲良、コウイチくんの付き添いありがとう」

勤務を終えた舞がやってきた。


「舞…」

「コウイチくん…よかった、ホントに」

「舞は実習が終わっても帰らずに一晩中ナカムラくんの手を握ってたんだって」

「もぅ!咲良、恥ずかしいからやめて」

「だってホントにそうだもん」

「舞は連勤だったから『付き添いは明日からにしなよ』って言ったら…」

「もう!咲良ったら!」

「『今日じゃないと!』って怒られちゃって」

「もぉ、わたしのイメージがぁ・・・」

…?
確か舞はどこかでそんなことを…言っていた

そうだ!夢の中で"初めて結ばれる日"になるはずの
あの日…舞が口にした言葉だ。

あれは全て夢の中の話、いや夢と現実の狭間だったのか?

安堵感が押し寄せた僕は二人のそんなやり取りを
微笑ましく見ながら会話に割って入った。

「ありがとう、舞…よかったぁ」

「え!何が?」

「夢…見てたみたいで」

「どんな夢?」

「舞が俺のとこからいなくなる…」

そこまで話した時、舞の表情が一変した。

「…もしかしてそれってわたしが手紙…置き手紙残していなくなる夢…じゃない?」

「え?何でそれ、知ってるの?」

「わたしも…多分、ここで…この病室で同じ夢見てた」

「うそっ、怖い怖い!この二人、どうなってんの?」

咲良は驚きのあまり廊下に飛び出してしまった。

「でさ…その夢って最後どんなだった?」

「海…海に来てた、で…」

「俺を見つけた…んだよね?」

「そう!」

「俺は…舞の麦わら帽子…を見て」

「えっ!待って!それってもしかして…」

舞衣が小さな紙袋から取り出したのは
僕が夢で見たのと寸分たがわぬ麦わら帽子だった。

「それ?どこで?」

「次、釣りに行く時に被ろうと思って実家から持って来てたんだけど…」

ーさっき、これ眠ってるコウイチくんの前で被って
"元気になったらまた釣りに行こうね"
って、言いながら音楽を流したんだ

そしたら・・・

「コウイチくんの体が…ね、反応して」

「舞さ、ナカムラくんの意識が無いのに
病室のドア、ノックして入ったりしてたしさ」

「もう!それはエチケットでしょ?」

 なるほど…昏睡状態に陥ってから僕は
随分と長い夢を見ていたらしい。

ドアをノックされる感覚や夢の中で聴いた曲…

所々で思い当たる節があるのは
きっと夢と現実がリンクした瞬間だったのだろう

「じゃ、うちはこれで帰るから後は二人で仲良く、ね」

そう言って咲良は病室から出ていった。

その直後、舞の顔が間近に迫ってきた。

「ねぇ、コウイチくん・・・」
「ど、どうしたの?急に…」

「早く退院出来るといいね」

「そうだね」

「コウイチくんが元気になったら・・・」

「ん?」

舞が耳元で囁く

「・・・しようね、ひとつになろ!」

「な、何言ってんだよ、そんなストレートに」

「ふふっ、わたし初めてだから…ちゃんとリードしてよね」

「え?あ…そっか…あれも夢…だったんだ?」

「え?何のこと?」

「あ、いや、何でもない…夢の話だよ」

「わたしね、悩んでたの」

「え?何を」

「もしもコウイチくんが前にわたしじゃない誰かと…そんなことしてたら」

「・・・」

「わたしなんかじゃ満足しないかも、なんて」

「そっかぁ」

「でも、そんなこと考えるのやめたんだ」

「え?」

「こうして元気になってくれたんだから、昔のことなんて気にするのやめよう、って」

「俺が逆の立場でも同じこと考えてたかもなぁ」

「だから、わたしなんかでも励みにして元気になってくれたらいいなって」

そう言って舞は両手で僕の手を強く握った。

舞の手の温もりを感じながら
ようやく僕は今生きていることを実感した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

ガラスの世代

大西啓太
ライト文芸
日常生活の中で思うがままに書いた詩集。ギタリストがギターのリフやギターソロのフレーズやメロディを思いつくように。

日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~

海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。 そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。 そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...