僕とあの娘

みつ光男

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第26章.  夢の続き

【夢じゃない】

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「咲良、コウイチくんの付き添いありがとう」

勤務を終えた舞がやってきた。


「舞…」

「コウイチくん…よかった、ホントに」

「舞は実習が終わっても帰らずに一晩中ナカムラくんの手を握ってたんだって」

「もぅ!咲良、恥ずかしいからやめて」

「だってホントにそうだもん」

「舞は連勤だったから『付き添いは明日からにしなよ』って言ったら…」

「もう!咲良ったら!」

「『今日じゃないと!』って怒られちゃって」

「もぉ、わたしのイメージがぁ・・・」

…?
確か舞はどこかでそんなことを…言っていた

そうだ!夢の中で"初めて結ばれる日"になるはずの
あの日…舞が口にした言葉だ。

あれは全て夢の中の話、いや夢と現実の狭間だったのか?

安堵感が押し寄せた僕は二人のそんなやり取りを
微笑ましく見ながら会話に割って入った。

「ありがとう、舞…よかったぁ」

「え!何が?」

「夢…見てたみたいで」

「どんな夢?」

「舞が俺のとこからいなくなる…」

そこまで話した時、舞の表情が一変した。

「…もしかしてそれってわたしが手紙…置き手紙残していなくなる夢…じゃない?」

「え?何でそれ、知ってるの?」

「わたしも…多分、ここで…この病室で同じ夢見てた」

「うそっ、怖い怖い!この二人、どうなってんの?」

咲良は驚きのあまり廊下に飛び出してしまった。

「でさ…その夢って最後どんなだった?」

「海…海に来てた、で…」

「俺を見つけた…んだよね?」

「そう!」

「俺は…舞の麦わら帽子…を見て」

「えっ!待って!それってもしかして…」

舞衣が小さな紙袋から取り出したのは
僕が夢で見たのと寸分たがわぬ麦わら帽子だった。

「それ?どこで?」

「次、釣りに行く時に被ろうと思って実家から持って来てたんだけど…」

ーさっき、これ眠ってるコウイチくんの前で被って
"元気になったらまた釣りに行こうね"
って、言いながら音楽を流したんだ

そしたら・・・

「コウイチくんの体が…ね、反応して」

「舞さ、ナカムラくんの意識が無いのに
病室のドア、ノックして入ったりしてたしさ」

「もう!それはエチケットでしょ?」

 なるほど…昏睡状態に陥ってから僕は
随分と長い夢を見ていたらしい。

ドアをノックされる感覚や夢の中で聴いた曲…

所々で思い当たる節があるのは
きっと夢と現実がリンクした瞬間だったのだろう

「じゃ、うちはこれで帰るから後は二人で仲良く、ね」

そう言って咲良は病室から出ていった。

その直後、舞の顔が間近に迫ってきた。

「ねぇ、コウイチくん・・・」
「ど、どうしたの?急に…」

「早く退院出来るといいね」

「そうだね」

「コウイチくんが元気になったら・・・」

「ん?」

舞が耳元で囁く

「・・・しようね、ひとつになろ!」

「な、何言ってんだよ、そんなストレートに」

「ふふっ、わたし初めてだから…ちゃんとリードしてよね」

「え?あ…そっか…あれも夢…だったんだ?」

「え?何のこと?」

「あ、いや、何でもない…夢の話だよ」

「わたしね、悩んでたの」

「え?何を」

「もしもコウイチくんが前にわたしじゃない誰かと…そんなことしてたら」

「・・・」

「わたしなんかじゃ満足しないかも、なんて」

「そっかぁ」

「でも、そんなこと考えるのやめたんだ」

「え?」

「こうして元気になってくれたんだから、昔のことなんて気にするのやめよう、って」

「俺が逆の立場でも同じこと考えてたかもなぁ」

「だから、わたしなんかでも励みにして元気になってくれたらいいなって」

そう言って舞は両手で僕の手を強く握った。

舞の手の温もりを感じながら
ようやく僕は今生きていることを実感した。
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