僕とあの娘

みつ光男

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第25章.  陽の当たる坂道で

【駅にて】

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 本当なら車で地元まで帰るつもりだった、
舞が隣に乗るはずだった例のポンコツ中古車は

卒業を数週間前に控えた2月の終わりに
エンジンがかからなくなってしまった。

なのでこうして電車とフェリーを乗り継いで
地元に帰ることになったんだ…なんて

昨日、咲良と電話で話したのを思い出した僕は

確信した。

あの自転車、あの真っ赤な自転車を忘れるわけがない


舞がここに…駅に来ている!!


弾けたピンボールのように僕は
おもむろにその小さな駅の構内へと駆け込んだ。

周りをきょろきょろしながら"その姿"を探す、が
まずは切符を買わなければ、と
改札近くの券売機に並んだ…その時

「ナっカムラ、くぅーん!」

僕を呼ぶ声が聞こえたと思った刹那
背中に誰かが抱きついてきた。

「うわ~!」

「もうー!全然変わってないじゃんー!」

恐る恐る振り返った僕の目と鼻の先に

「わ、わ、さ、さくちゃんー!」

「もぉう~!久しぶりなんだからぁ~!」

そう言うと咲良は何度も僕の顔に頬を擦り寄せた。

「ちょ、ちょっと!咲良!何してんの!」

「へへーん、いいでしょ、もう舞の彼氏じゃないんだから」

「ダメダメ!コウイチくんはコウイチくんは…」

「ほら咲良!大人気ないよ、離れなって」

「有香もどう?やってみる?」

「咲良!」

「ちぇっ、しょうがないな」

離れ際に咲良はこう言った

「あの時の続き、したかったのになぁ…」

「やめなさいその話」

「また玉の湯行こ」

「声がデカいって!」

「懐かしい思い出、へへへ」

意外な形での再会となったが
まさか有香と咲良、そして舞も…

ここまで見送りに来てくれるとは思ってもいなかった。

いつまでも密着したままの咲良を剥がしていると

「ムラコウ、私らがここに来てたの…わかってた?」

不思議そうな顔で有香が尋ねてきた。

「あの自転車…赤い自転車が停まっててさ、え?何で?ってなって」

「あ、あれね?」

実は有香と咲良は先に駅に来ていたのだが
舞だけが諏訪荘で鴻一を見送った後

下宿の駐輪場に未だに停められていた
あの自転車で駅に先回りしたのだと言う。

「それでかぁ」

「え?何が?コウイチくん」

「何か別れ際があっさりしてるなぁ、って思ったんだよ」

「あはっ、舞のせいで全部バレてる」

咲良が思わず吹き出した。

「ふふふ、だってぇ、そんな上手く演技できないよ」

「でね、せっかくだから寮の娘でムラコウ知ってる人たちに…ほら」

「お!寄せ書きだ!」

喜んで色紙を受け取ろうとした僕の頭を
有香はポンと軽く叩いた。

「いててて」

「ムラコウ…言ったよね?」

「え?」

「あの時…"舞のこと泣かせたらダメだからね"って」

「あ、そうだ」

「約束破った罰、これは舞の分!」

そう言って有香はもう一度色紙で僕の頭を軽く叩いた。

「有香、いいんだよ、わたしも悪かったんだから」

半べそをかきながら舞は有香を制した。

「…だって、舞が優しくてよかったね」

気づけばいつしか有香の目にも涙が浮かんでいた。

"あの日"から全てが変わってしまったのは
どうも僕だけではなかったようだ。
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