119 / 129
第25章. 陽の当たる坂道で
【きっといつかどこかで】
しおりを挟む
大学へ向かう時いつも坂の途中で視界に入っていた
看護学校の名前が彫られた灰色の校門
今日、卒業の日その前に立っていたのは…
もう二度と会うことは叶わないと思っていた
それは紛れもなく舞だった。
「舞っっっっっ!」
いても立ってもいられなくて
僕は全力で舞のところへ駆け寄った。
涙が出るわけでもない
感情が溢れるわけでもない
ただただ鼓動が高鳴っていた、
舞と初めて話したあの日のように。
「コウイチくん…卒業、おめでとう」
「舞も…国家試験、受かったんだって?おめでとう」
そこから先は何を話したのか全く覚えていない
ここに舞がいたことで僕の精神的キャパシティは
オーバーヒートしてしまったらしい。
そして覚えているのはここからだ・・・
そこはいつも舞と待ち合わせたショッピングモール
「あのさ…荷物、諏訪荘に置いてんだけど…久しぶりに…あの古い下宿、見る?」
「うん、ちょっとだけお邪魔しようかな」
あの頃と同じように舞がそっと右手を差し出し
数年の時を経て2人の指が絡み合ったその瞬間
過去の記憶が巻き戻されるようにフラッシュバックされ
止まっていた時間が再び動き始めた。
僕たちは当たり前のように手を繋いだまま
何も話さず諏訪荘までの道を歩いた
あの頃の記憶を噛みしめるかのように。
その沈黙を破ったのは舞の方だった。
「今さらなんだけどね…コウイチくん?」
「え?どうしたの?」
「あの時、何で、これ…捨てちゃったの?」
舞が手にしていたのはあの日
僕がダストボックスに投げ入れた、であろう
くしゃくしゃに丸められた
“M”のページのアドレス帳だった。
「えっ!!何で?舞が、それを?」
舞は遠くを見るような視線で
「結構ショックだったん…だよね。何で捨てたの…って聞けるまで1年半、かかっちゃ・・・った」
押し寄せる感情の波で堤防が崩壊したかのように
舞は笑顔のまま大粒の涙をこぼしていた。
「その答えは…」
僕は涙に濡れる舞の横顔を見ながら
バッグの中を手探りで弄り続け
ようやくある物を見つけた。
「あの日から、ずっと渡せなくて持ってた」
それは僕のバッグの中で1年以上眠り続けていた誕生日に渡すはずだった例のスケジュール帳
ー ほら、舞が書いてくれたアドレス
“M”のページだっただろ?
だから名字のアルファベットの
"K"のページに書き直してもらおうと思ってさ…
スケジュール帳、お揃いにして、ね。
あそこにはほら、もう会うこともなくなった
職場の先輩のアドレスとか書いてたからさ
何かそう言うの残ってるとイヤだなって…
バカだろ?
こんなことしてなきゃ…
舞を傷つけることもなかったのに、ね。
「そっかぁ、じゃ、そこで…」
「ん?」
舞は身振り手振りを交えながらこう言った
「プチっ!と切られたわけだ」
「え?」
「神様に…運命の糸を、ね」
「と…しか、考えられないよね」
ー 私、もう立ち直れないかな、って思ってた
「俺も今日がなかったらずっと引きずったままで…帰ってた、だろうな」
「ここで会えたんだから…きっと」
「きっと…?」
「それなら…きっと…いつかどこかで…また…会えるよね?」
「うん、だといいね」
「それじゃ…その日まで」
「舞がそう言ってくれるなら…」
すると舞は突然、僕が付けていたイヤホンを
すっ、と手に取った。
「今…コウイチくん、何、聴いてんだろ?」
舞はイヤホンを取り付けて僕に尋ねた
「ねえ?どこ押したら始まるの?」
「ここだよ」
「あ、これ!使い方わかるよ」
「だって舞、よく聴いてたからね、これで」
「じゃ!スタート!」
舞はあの日と同じ仕草で
ヘッドホンステレオのスイッチを入れた。
♪Love you so long
離れても消えない 君との約束は
Love you so long
夢と隣り合わせ 日の当たる坂道で♪
「もう!何で…よ、うぅ・・・」
さすがに堪えきれなくなったのだろうか?
嗚咽と共に再び舞の瞳から涙が零れた。
看護学校の名前が彫られた灰色の校門
今日、卒業の日その前に立っていたのは…
もう二度と会うことは叶わないと思っていた
それは紛れもなく舞だった。
「舞っっっっっ!」
いても立ってもいられなくて
僕は全力で舞のところへ駆け寄った。
涙が出るわけでもない
感情が溢れるわけでもない
ただただ鼓動が高鳴っていた、
舞と初めて話したあの日のように。
「コウイチくん…卒業、おめでとう」
「舞も…国家試験、受かったんだって?おめでとう」
そこから先は何を話したのか全く覚えていない
ここに舞がいたことで僕の精神的キャパシティは
オーバーヒートしてしまったらしい。
そして覚えているのはここからだ・・・
そこはいつも舞と待ち合わせたショッピングモール
「あのさ…荷物、諏訪荘に置いてんだけど…久しぶりに…あの古い下宿、見る?」
「うん、ちょっとだけお邪魔しようかな」
あの頃と同じように舞がそっと右手を差し出し
数年の時を経て2人の指が絡み合ったその瞬間
過去の記憶が巻き戻されるようにフラッシュバックされ
止まっていた時間が再び動き始めた。
僕たちは当たり前のように手を繋いだまま
何も話さず諏訪荘までの道を歩いた
あの頃の記憶を噛みしめるかのように。
その沈黙を破ったのは舞の方だった。
「今さらなんだけどね…コウイチくん?」
「え?どうしたの?」
「あの時、何で、これ…捨てちゃったの?」
舞が手にしていたのはあの日
僕がダストボックスに投げ入れた、であろう
くしゃくしゃに丸められた
“M”のページのアドレス帳だった。
「えっ!!何で?舞が、それを?」
舞は遠くを見るような視線で
「結構ショックだったん…だよね。何で捨てたの…って聞けるまで1年半、かかっちゃ・・・った」
押し寄せる感情の波で堤防が崩壊したかのように
舞は笑顔のまま大粒の涙をこぼしていた。
「その答えは…」
僕は涙に濡れる舞の横顔を見ながら
バッグの中を手探りで弄り続け
ようやくある物を見つけた。
「あの日から、ずっと渡せなくて持ってた」
それは僕のバッグの中で1年以上眠り続けていた誕生日に渡すはずだった例のスケジュール帳
ー ほら、舞が書いてくれたアドレス
“M”のページだっただろ?
だから名字のアルファベットの
"K"のページに書き直してもらおうと思ってさ…
スケジュール帳、お揃いにして、ね。
あそこにはほら、もう会うこともなくなった
職場の先輩のアドレスとか書いてたからさ
何かそう言うの残ってるとイヤだなって…
バカだろ?
こんなことしてなきゃ…
舞を傷つけることもなかったのに、ね。
「そっかぁ、じゃ、そこで…」
「ん?」
舞は身振り手振りを交えながらこう言った
「プチっ!と切られたわけだ」
「え?」
「神様に…運命の糸を、ね」
「と…しか、考えられないよね」
ー 私、もう立ち直れないかな、って思ってた
「俺も今日がなかったらずっと引きずったままで…帰ってた、だろうな」
「ここで会えたんだから…きっと」
「きっと…?」
「それなら…きっと…いつかどこかで…また…会えるよね?」
「うん、だといいね」
「それじゃ…その日まで」
「舞がそう言ってくれるなら…」
すると舞は突然、僕が付けていたイヤホンを
すっ、と手に取った。
「今…コウイチくん、何、聴いてんだろ?」
舞はイヤホンを取り付けて僕に尋ねた
「ねえ?どこ押したら始まるの?」
「ここだよ」
「あ、これ!使い方わかるよ」
「だって舞、よく聴いてたからね、これで」
「じゃ!スタート!」
舞はあの日と同じ仕草で
ヘッドホンステレオのスイッチを入れた。
♪Love you so long
離れても消えない 君との約束は
Love you so long
夢と隣り合わせ 日の当たる坂道で♪
「もう!何で…よ、うぅ・・・」
さすがに堪えきれなくなったのだろうか?
嗚咽と共に再び舞の瞳から涙が零れた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
流星の徒花
柴野日向
ライト文芸
若葉町に住む中学生の雨宮翔太は、通い詰めている食堂で転校生の榎本凛と出会った。
明るい少女に対し初めは興味を持たない翔太だったが、互いに重い運命を背負っていることを知り、次第に惹かれ合っていく。
残酷な境遇に抗いつつ懸命に咲き続ける徒花が、いつしか流星となるまでの物語。
どん底韋駄天這い上がれ! ー立教大学軌跡の四年間ー
七部(ななべ)
ライト文芸
高校駅伝の古豪、大阪府清風高校の三年生、横浜 快斗(よこはま かいと)は最終七区で五位入賞。いい結果、古豪の完全復活と思ったが一位からの五人落ち。眼から涙が溢れ出る。
しばらく意識が無いような状態が続いたが、大学駅伝の推薦で選ばれたのは立教大学…!
これは快斗の東京、立教大学ライフを描いたスポーツ小説です。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~
海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。
そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。
そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)
チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。
主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。
ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。
しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。
その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。
「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」
これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。
イチゴ
高本 顕杜
ライト文芸
イチゴが落ちていく――、そのイチゴだけは!!
イチゴ農家の陽一が丹精込めて育てていたイチゴの株。その株のイチゴが落ちていってしまう――。必至で手を伸ばしキャッチしようとするも、そこへあるのモノが割りこんできて……。
恋と呼べなくても
Cahier
ライト文芸
高校三年の春をむかえた直(ナオ)は、男子学生にキスをされ発作をおこしてしまう。彼女を助けたのは、教育実習生の真(マコト)だった。直は、真に強い恋心を抱いて追いかけるが…… 地味で真面目な彼の本当の姿は、銀髪で冷徹な口調をふるうまるで別人だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる