僕とあの娘

みつ光男

文字の大きさ
上 下
118 / 129
第25章.  陽の当たる坂道で

【最後の夜と終わりの朝】

しおりを挟む
 有香と咲良、二人代わる代わる
約30分ほどの会話ではあったが

電話を終えた僕が満面の笑みを浮かべながら部屋に戻ると
その表情を見た悟志がいぶかしげに言った

「どうした?何か"昔"みたいな顔してさ」

「あ、俺、前はいつもこんな顔してた?」

「もしかして例の元カノからか?」

「あ、そうじゃないけど、ま、昔の…友達だね」

「そうだな、コウイチとこには色んな娘が来てたからな」

「彼女は一人だけだったよ」

「でも変わるもんだな」

「何が?」

「彼女と別れてからコウイチ、すっかり女っ気なくなったよな」

「こう見えて一途なんだよ」

 こうして尽きぬ話題は一晩中続いた
そしていつしか夜は明け東の空が白み始めた頃

「ちょっと歩いてくる、思い出に浸りたくなったんで」

僕がそう言って外に出ようとすると

「俺も行くわ、喉、乾いたからな」
「じゃ俺も」

3人で薄暗い坂道を登り一番近くの自販機へと向かった。

「今日でラストかぁ」

何とも言えない感傷的な気持ちに襲われた

4年前、何も知らずにこの街へやってきて
こうして同じ下宿で過ごした4年間

いつしか僕たちの間には家族以上の絆が
芽生えていた。

そして東の空から太陽が昇り始める
僕はこの街の朝日が好きだった、

舞と釣りに行く時はいつもこの朝日を全身に浴びながら
自転車を漕いだんだった。

「ちょっと学校まで歩いてみるか」

「お、いいね」
「卒業の予行演習、てか?」

坂道の多い大学までの道を歩くのは
今日で本当に最後だ。

朝が来るのがこんなに惜しいと思ったのは
生まれて初めてだった。

そして卒業式は無事に始まり、終わった。

 式が終わった後、僕はゼミの研究室に顔を出して
苦楽を共にした同期の友人と少し話した。

「あ、そろそろだな」

そう言って僕は研究室を後にした。

有香と咲良が見送りに来てくれる
"約束の時間"が近づいていたので

気もそぞろに僕は校門の前まで来た・・・が
そこには誰もいなかった。

昨日の電話ではあんなに盛り上がったが
やはり1年半のブランクは大きかったのだろうか?

「やっぱ気まずいよな、久しぶり過ぎて」

何だかホッとした思いで僕はイヤホンをつけた
音楽でも聞きながら下宿に戻ろう

管理人さんに挨拶して進一や悟志に別れを告げてそれぞれバラバラにこの街を後にする、

何か映画のラストシーンみたいでカッコいい
それだけで十分ステキな思い出じゃないか…

そう自分に言い聞かせながら
僕はこの通い慣れた陽の当たる坂道を
ゆっくりと下り始めた…時


「・・・くんー!」

イヤホンから流れる音楽に紛れて聞こえる
誰かの声に気づいた僕はふと立ち止まった。

有香?咲良?
どちらかが見送りに来てくれた?

振り返るがそこには誰もいない。

「あれ?空耳かな?」

そして再び歩き始めた時

「・・・チくんっ!」

え?

僕のことを呼んでいる?
それも名前で?

誰だ?

きょろきょろと辺りを見渡したその時

その声の主は看護学校の入り口近くから
僕にもう一度呼びかけた

「コウイチくんっ!」

わかった…

懐かしいその声はあの頃と全く変わっていなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

処理中です...