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第25章. 陽の当たる坂道で
【drown】
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あれから1年半の時が流れ、4年間の大学生活も
あっという間に終わりを告げようとしている。
僕にとって舞と過ごせない時間はあまりにも味気なく
まるではずれくじを引いたような日々だった。
結局バンドも辞めてしまった、
貯まったバイト代で安い中古車を買ってみたが
舞が隣にいないのでは意味はなく
あまりにも乗らないため時々バッテリーが上がる始末
最終的には周りの友人と同じように
就職活動に勤しみ、夢は半ばで諦めた。
それでも大学と隣り合わせの看護学校の前を歩く度に
ふとあのシルエットを探してしまう、
そんな癖だけはなかなか直らなかった。
もしももう少し先の未来に
僕たちがこの場所で会っていたとしたら
今とは違う結末を迎えていたのだろうか?
僕はもう少し舞に優しくなれただろうか?
傷つけたりはしなかっただろうか?
舞が僕の前からいなくなってからと言うもの
もう誰も好きになることはなく
世利華から何度かアプローチがありはしたが
とてもそんな気持ちにはなれなかった。
またしても僕は高校時代のように
恋愛に臆病になってしまったようだ
あの日を境に女子との関わりよりも
友人との時間を大切に過ごしていたように思う。
そのおかげだろうか?
辛い思い出も数多く残るこの街を去る日が近づくと
言い様のない寂しさに胸が締めつけられた
そう、明日は大学の卒業式だ
4年間同じ下宿で過ごした進一や悟志と過ごす
最後の夜を迎えていた
そんな卒業前夜の22時25分のことだった。
思い出話で盛り上がる
3人の会話に割って入るかのように
聞き慣れた電話のベルが廊下に鳴り響く。
「中村さーん!電話です!」
今年から"電話番"となった諸橋の声が聞こえた。
「え?俺に?誰だろ?」
「隠岐田さんて女の人です」
「え?…マジで?」
「マジです」
もしかして、なんて一瞬だけ期待した僕は
まだ舞に未練があるのだと心が痛くなった
しかし有香と話すのも実に2年ぶりだ
卒業を知って連絡をくれたのかな?
階段から転げ落ちる勢いで掴んだ
「もしもし…」
ほどなく受話器の向こうから懐かしい声がした。
「ムラコウ!久しぶり!」
「お!おぅ…どしたの?有香、突然」
「あ、明日さ、卒業式でしょ?お見送りしてあげようかなと思ってさ、あ、ちょっと待って」
そう言って有香はおもむろに電話を保留にした
待つこと数秒・・・
「あ、元気ー?」
「え?だ…誰?」
「あのねぇ…忘れたの?いつも電話取り次いであげてたのに」
「あ!さくちゃん!さくちゃんだ!…さくちゃん、かぁ」
「ちょっと!あからさまにガッカリしないでよ、舞じゃなくてごめんねっ」
「あ、いやそう言うわけじゃないんだけど…」
「舞のこと、聞きたい?」
「あ、いや…別に」
「無理しないでいいから…舞、元気にしてるよ
国家試験も受かったし」
「そっかぁ、よかった、おめでとうって伝え…と…あ、俺から言われても、かぁ」
「そんなことないよ、喜ぶと思う」
「そっか、明日はさくちゃんも…」
「うちも行く!久しぶりに顔見たいから」
「ありがとう、何か元気出た」
1年半ぶりの邂逅だった
例え舞には会えなくとも
大学時代の思い出を彩ってくれた友人たちと会えるのは
最高の餞になるだろう。
あっという間に終わりを告げようとしている。
僕にとって舞と過ごせない時間はあまりにも味気なく
まるではずれくじを引いたような日々だった。
結局バンドも辞めてしまった、
貯まったバイト代で安い中古車を買ってみたが
舞が隣にいないのでは意味はなく
あまりにも乗らないため時々バッテリーが上がる始末
最終的には周りの友人と同じように
就職活動に勤しみ、夢は半ばで諦めた。
それでも大学と隣り合わせの看護学校の前を歩く度に
ふとあのシルエットを探してしまう、
そんな癖だけはなかなか直らなかった。
もしももう少し先の未来に
僕たちがこの場所で会っていたとしたら
今とは違う結末を迎えていたのだろうか?
僕はもう少し舞に優しくなれただろうか?
傷つけたりはしなかっただろうか?
舞が僕の前からいなくなってからと言うもの
もう誰も好きになることはなく
世利華から何度かアプローチがありはしたが
とてもそんな気持ちにはなれなかった。
またしても僕は高校時代のように
恋愛に臆病になってしまったようだ
あの日を境に女子との関わりよりも
友人との時間を大切に過ごしていたように思う。
そのおかげだろうか?
辛い思い出も数多く残るこの街を去る日が近づくと
言い様のない寂しさに胸が締めつけられた
そう、明日は大学の卒業式だ
4年間同じ下宿で過ごした進一や悟志と過ごす
最後の夜を迎えていた
そんな卒業前夜の22時25分のことだった。
思い出話で盛り上がる
3人の会話に割って入るかのように
聞き慣れた電話のベルが廊下に鳴り響く。
「中村さーん!電話です!」
今年から"電話番"となった諸橋の声が聞こえた。
「え?俺に?誰だろ?」
「隠岐田さんて女の人です」
「え?…マジで?」
「マジです」
もしかして、なんて一瞬だけ期待した僕は
まだ舞に未練があるのだと心が痛くなった
しかし有香と話すのも実に2年ぶりだ
卒業を知って連絡をくれたのかな?
階段から転げ落ちる勢いで掴んだ
「もしもし…」
ほどなく受話器の向こうから懐かしい声がした。
「ムラコウ!久しぶり!」
「お!おぅ…どしたの?有香、突然」
「あ、明日さ、卒業式でしょ?お見送りしてあげようかなと思ってさ、あ、ちょっと待って」
そう言って有香はおもむろに電話を保留にした
待つこと数秒・・・
「あ、元気ー?」
「え?だ…誰?」
「あのねぇ…忘れたの?いつも電話取り次いであげてたのに」
「あ!さくちゃん!さくちゃんだ!…さくちゃん、かぁ」
「ちょっと!あからさまにガッカリしないでよ、舞じゃなくてごめんねっ」
「あ、いやそう言うわけじゃないんだけど…」
「舞のこと、聞きたい?」
「あ、いや…別に」
「無理しないでいいから…舞、元気にしてるよ
国家試験も受かったし」
「そっかぁ、よかった、おめでとうって伝え…と…あ、俺から言われても、かぁ」
「そんなことないよ、喜ぶと思う」
「そっか、明日はさくちゃんも…」
「うちも行く!久しぶりに顔見たいから」
「ありがとう、何か元気出た」
1年半ぶりの邂逅だった
例え舞には会えなくとも
大学時代の思い出を彩ってくれた友人たちと会えるのは
最高の餞になるだろう。
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