僕とあの娘

みつ光男

文字の大きさ
上 下
117 / 129
第25章.  陽の当たる坂道で

【drown】

しおりを挟む
 あれから1年半の時が流れ、4年間の大学生活も
あっという間に終わりを告げようとしている。

僕にとって舞と過ごせない時間はあまりにも味気なく
まるではずれくじを引いたような日々だった。

結局バンドも辞めてしまった、
貯まったバイト代で安い中古車を買ってみたが

舞が隣にいないのでは意味はなく
あまりにも乗らないため時々バッテリーが上がる始末

最終的には周りの友人と同じように
就職活動に勤しみ、夢は半ばで諦めた。

それでも大学と隣り合わせの看護学校の前を歩く度に
ふとあのシルエットを探してしまう、
そんな癖だけはなかなか直らなかった。

 もしももう少し先の未来に
僕たちがこの場所で会っていたとしたら

今とは違う結末を迎えていたのだろうか?

僕はもう少し舞に優しくなれただろうか?
傷つけたりはしなかっただろうか?

舞が僕の前からいなくなってからと言うもの
もう誰も好きになることはなく

世利華から何度かアプローチがありはしたが
とてもそんな気持ちにはなれなかった。

またしても僕は高校時代のように
恋愛に臆病になってしまったようだ

あの日を境に女子との関わりよりも
友人との時間を大切に過ごしていたように思う。

そのおかげだろうか?

辛い思い出も数多く残るこの街を去る日が近づくと
言い様のない寂しさに胸が締めつけられた

そう、明日は大学の卒業式だ

4年間同じ下宿で過ごした進一や悟志と過ごす
最後の夜を迎えていた

そんな卒業前夜の22時25分のことだった。

 思い出話で盛り上がる
3人の会話に割って入るかのように

聞き慣れた電話のベルが廊下に鳴り響く。

「中村さーん!電話です!」

今年から"電話番"となった諸橋もろはしの声が聞こえた。

「え?俺に?誰だろ?」

「隠岐田さんて女の人です」

「え?…マジで?」

「マジです」

もしかして、なんて一瞬だけ期待した僕は
まだ舞に未練があるのだと心が痛くなった

しかし有香と話すのも実に2年ぶりだ
卒業を知って連絡をくれたのかな?

階段から転げ落ちる勢いで掴んだ

「もしもし…」

ほどなく受話器の向こうから懐かしい声がした。

「ムラコウ!久しぶり!」

「お!おぅ…どしたの?有香、突然」

「あ、明日さ、卒業式でしょ?お見送りしてあげようかなと思ってさ、あ、ちょっと待って」

そう言って有香はおもむろに電話を保留にした
待つこと数秒・・・

「あ、元気ー?」

「え?だ…誰?」

「あのねぇ…忘れたの?いつも電話取り次いであげてたのに」

「あ!さくちゃん!さくちゃんだ!…さくちゃん、かぁ」

「ちょっと!あからさまにガッカリしないでよ、舞じゃなくてごめんねっ」

「あ、いやそう言うわけじゃないんだけど…」

「舞のこと、聞きたい?」

「あ、いや…別に」

「無理しないでいいから…舞、元気にしてるよ
国家試験も受かったし」

「そっかぁ、よかった、おめでとうって伝え…と…あ、俺から言われても、かぁ」

「そんなことないよ、喜ぶと思う」

「そっか、明日はさくちゃんも…」

「うちも行く!久しぶりに顔見たいから」

「ありがとう、何か元気出た」

1年半ぶりの邂逅だった

例え舞には会えなくとも
大学時代の思い出を彩ってくれた友人たちと会えるのは
最高のはなむけになるだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

もしもしお時間いいですか?

ベアりんぐ
ライト文芸
 日常の中に漠然とした不安を抱えていた中学1年の智樹は、誰か知らない人との繋がりを求めて、深夜に知らない番号へと電話をしていた……そんな中、繋がった同い年の少女ハルと毎日通話をしていると、ハルがある提案をした……。  2人の繋がりの中にある感情を、1人の視点から紡いでいく物語の果てに、一体彼らは何をみるのか。彼らの想いはどこへ向かっていくのか。彼の数年間を、見えないレールに乗せて——。 ※こちらカクヨム、小説家になろう、Nola、PageMekuでも掲載しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~

海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。 そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。 そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

処理中です...