僕とあの娘

みつ光男

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第23章.  M

【いつも一緒にいたかった…】

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 "その日"から遡ること数日前、の午後に
一旦時計の針を戻すことにしよう。

僕がに舞とバイト先の事務所前で遭遇したあの日
家を出る数時間前のことだ、

僕は部屋であることに没頭していた
それはアドレス帳の整理。

大学生活が始まって3年が過ぎ
僕のアドレス帳の中身は非常に混沌としていた。

なので住所変更があったり
音信不通になった友人、知人を一旦リセットしてしまおう

そんな狙いがあった。

本来なら新たな1冊を買って書き換えればいいのだが
まだ余白も残っているため
こちらを継続して使おう、そう考えた。

 50音順ではなくアルファベットで並んでいる
ページを確認していると…

舞の名前が見当たらない。

確かに勝手知ったる番号ゆえ
わざわざアドレスを確認することはないのだが

「あれ?どこに書いてたかな?舞のアドレス」

ページをめくるに連れ思い出した、

あの日、2年前の6月3日の夜
直接僕のアドレス帳に連絡先を書き込んでくれた舞は

名字である北浜きたまはの「K」ではなく
名前である舞の「M」のページに書いたことを。

「ははは、何だか舞らしいな」

と、その時舞のページの裏側に書かれた
アドレスを見た瞬間思わず鼓動が早くなった。





 バイト先のジョッキーで知り合い
いつしか男女の関係になった
そして今はもう会うことのない女性ひと

今でもその名前を目にする度に
あの艶めかしく生々しい記憶が頭をよぎる。

アドレス帳の中とは言え
陽菜子と舞の名前が同じページにあることに
どこか罪悪感を感じた

「また舞には書いてもらえばいいか…」

僕は思い切ってこのページを処分することに決めた。

せっかく舞が書いてくれたアドレス・・・

何度か躊躇いながらも
僕はそのページをアドレス帳から剥がし
目の前のダストボックスに向けて投げた。

「やべっ、急がなきゃ!もうこんな時間だ」

慌ててバイトに行く支度をして
僕は大急ぎで玄関を飛び出した。

 舞が鴻一の部屋を訪れたのは
それからほんの数分後のことだった。

コンコン…!

ー コウイチくん、もうバイトに行ったんだね

きっと今日も遅いだろうから
夜食のサンドイッチ冷蔵庫にあるよ、って
置き手紙しとかなきゃ…

舞は例の合鍵でコウイチの部屋に入った。

「もう、服も脱ぎ散らかしてるよ」

これまではある程度整理されていた
鴻一の部屋は随分と乱れていた。

ベッドの上には取り込まれた洗濯物が重ねられ
テレビの前には無造作にビデオが置かれている。

「部屋、片付ける暇もないんだろな」

ひと通り部屋を片付けた舞はメモ用紙を探した。

「ごめんね、勝手に開けちゃうよ」

ベッドの下の引き出しを開けようとしたその時
ゴミ箱の隣に落ちている
くしゃくしゃに丸められた1枚の紙切れを見つけた。

何だろ?
メモ用紙かな?

それを手に取って開いた舞の表情が
一瞬にして凍りついた。

全身から血の気が引いてゆく

「な…何で?」

何でコウイチくん、わたしの連絡先
こんなことに丸めて捨ててるの?

しかも舞の連絡先の裏側には
見慣れない名前も書かれている。

誰?この人?

女の人の名前だ…
バイト先の同僚の人?

もしかして…?

舞の中である記憶が甦ってきた。
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