僕とあの娘

みつ光男

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第22章.  すれ違いの純情

【終焉の刻】

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ー私、舞先輩のことが大好きです
だから中村先輩とは仲良くしてほしいんです

でもね、私、もしかしたら二人が別れてくれる結末を
ずっと望んでたのかも知れない…

そんな自分がイヤになりました

その理由は…
言わなくてもわかりますよね?


どうして、いつから
こんな気持ちになっちゃったんだろ?

わかんないの

私にもわかんないの

もうどうすることも出来なくて…

だから…ごめんなさいって
ひと言謝りたかった

でもね…私をこんな気持ちにさせて
どうしてくれるんですか…って怒りたい気持ちもあって

あのね先輩

こんな時にズルいのはわかってるけど

もしもこの先、舞先輩と何かあったら
私を選んでくれますか?

「え…?」

「・・・あ!何言ってんだろ、私」

ー あ、あ、今の忘れてください。

そう!舞先輩とのことで悩むことがあったら
わ…私なんかでも何か力になれますか?

それが言いたくて…
ご、ごめんなさい、ごめんなさい!

バカ…ですよね

それじゃ、し、失礼します・・・


「かせりちゃん…」

「は、はい!!」

「ありがとう、今の話、自分に都合よく解釈しとくよ」

「え?」

「オレはそんなにいいヤツ…じゃないよ」

月も見えない漆黒の空を見上げながら
ポツリと呟くと、何だか泣きそうな気持ちになった。

この感情を何に例えていいのかわからない…
舞への罪悪感か、それとも自責の念だろうか?

「先輩…」

「オレはいいヤツなんかじゃない…」

「みんな…同じですよ…私だって、ほら…」

体の力が抜けたようにもたれかかってきた
世利華の体温と駆け抜けるような心音を

僕は黙ったまましばらく感じていた。

「今だけ…今だけでいいから」

ふと頬に触れた世利華の柔らかな髪の毛は
やはり柑橘の香りだった。

あの日、バスから転げ落ちそうになった時よりも
落としかけたビデオを支えてくれた時よりも

やはり僕は故郷のような不思議な安心感に包まれながら
世利華の柑橘系のコロンの香りを近くで感じていた。

「私、ズルい女…ですよね」

舞と僕の、そして世利華も含めたそれぞれの純情は
切ないくらいにすれ違い続けていた。

 そして"翌日"は当然ながら
当たり前のように何事もなく訪れた…が

僕の隣にはまだ舞がいない。

1限から講義に出席して
昼休みはライブの件で打ち合わせ

それが終わるとバイト先へ向かう。

アルバイトが終わって
駅近くの公衆電話に駆け込み

かけ慣れたダイヤルを回したが

「ごめんね、舞まだ帰ってないの、急に当直になったらしくて…」

咲良が申し訳なさそうにそう答えた。

舞と話せない…
もやもやした思いを抱えながら1日を終えた。

ー 明日はバイト休みだから
早めに舞に連絡しなきゃ…

僕は焦っていた

こんなことをしている間に
舞の気持ちが僕から離れてしまうのでは
ないだろうか、と思ったからだ。

 そして"その日"はあまりにも唐突に訪れた

講義を終えて夕方、部屋に戻った僕の視線は
ベッドの上に置かれている

丁寧に折り畳まれた便箋に吸い寄せられていた。

まさか?

いつものように僕がいない間に
舞が夜食を持ってきたのではない事はすぐにわかった。

いつもの置き手紙よりも少しだけかさ張っている便箋、
それが何よりの証拠だ

いつか僕が渡した部屋の合鍵が包まれた
この手紙を開くことによって

あの日、僕の背中で感じた舞の最後の体温を

もう二度と共有することは出来ないのだ、と
悟ることになった。

そして僕の隣にもう舞はいない
明日からそんな日々が始まるのだろう、

手紙の最初の一行を読んだ瞬間
そう実感せざるを得なかった。


ーコウイチくんへ

そんな文面でしたためられた舞からの
"最後の手紙"の文頭は

コウイチくん、
わたしのことはもう忘れてください・・・

このような言葉で始まった。
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