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第22章. すれ違いの純情
【嵐のあと…】
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寮までの帰り道は舞との馴れ初めから今に至るまでを咲良に伝えるには充分な時間があった。
「付き合ってもうどれくらい?」
「去年の夏くらいからだからもうすぐ1年、かな」
「知り合ってからは?」
「初めて話したのは1年の秋、だったな」
「はっ?それから…半年も会ってなかったの?」
「だって連絡先とか知らないし」
「うちに聞いてよ、そんなこと!」
「さくちゃんのこと、あの頃知らないのに無理だろ」
「えへへ、それもそうか」
ー でもさ…
「舞は嬉しかっただろうね」
「え?」
「あの娘すごく消極的でしかもネガティブだから」
「そうなの?舞はいつも前向きに見えるけど」
「外面がいいんだよ、弱いとこ見せたくないの」
「オレにも?」
「心配させるから…って、ね、だから」
咲良はそう言って舞に視線を送った。
「反省しなきゃ、だな」
「あ、ナカムラくんはそのままでいいよ」
「え?」
「そう言うさ、自由気ままなとこが好きなんだと思う、舞は」
「でもたまには、ねぇ、気遣いとかも」
「あ、そう言うのも大事だと思うけど、そこは二人で何とかしてよ」
「ははっ、そうだね」
ーあのぉ…
ここで突然会話に加わったのは世利華だった。
「な、何か浅川先輩と中村先輩の方が…お似…」
「世利華!」
珍しく咲良が語気を強めて世利華を|諫めた。
世利華が何を言おうとしたのかは
何となく見当がついた。
冗談のつもりで
似た者同士の僕と咲良の方がウマが合うと思う、
なんて言おうとしたのだろう、と
この時はそう思っていた。
ジョッキーから歩いて20分ほどで寮に到着した。
「それじゃ、この先はうちらで連れてくから
ごめんねナカムラくん」
「うん、また明日にでも舞に連絡するよ、ありがとう」
「プレゼント、預かっとこうか?」
「あ、これも明日一緒に」
「うん、それじゃまたね」
「舞!ナカムラくん帰っちゃうよ!話さなくていいの?」
「コ…コ…コウイチくぅん…コウイチくん…ありがと」
「舞、また、明日な」
「コウイチくん…」
「ふふっ、まだ完全に酔っ払ってるよ」
舞に肩を貸して部屋に戻る二人の後ろ姿を
僕はずっと見送っていた。
こんなことになるんじゃないか?
と、思い当たる節は何となくあった
数日前の舞の不可解な行動は
咲良には敢えて話さなかったが
この日、何事もなくあの心配が杞憂に終われば
笑い話になる、
そう思っていた。
だがしかし、嫌な予感はこのような形で
僕の心配に拍車をかけてきた。
明日になれば・・・
明日が来ればまたいつもの舞に会えるだろう、
何の根拠も無いがこの胸騒ぎを書き消すためには
そう思うしか出来ないほど今の僕は無力だった。
寮から少し歩いた先に自販機を見つけた、
まだアルコールが抜けきらない僕は
冷たい紅茶を買いその場に腰かけて口にした。
その時だった
「あのぉ…せ、先輩・・・」
突然後ろから声をかけられた。
帰り道からそんな予感はしていた、
さっきから、と言うより
僕が合流してから帰る間際まで
一言も発さなかった世利華のことを
さすがの僕ですら不自然に感じていたのだから。
「先輩、少しだけ…お時間あります?」
「あ、いいよ、今日はほとんど話してないもんね」
「あのね先輩…」
どこか甘えたような口調で
それでいて淡々と世利華は話し始めた。
自販機のライトに照らされた
世利華のあどけない横顔が
これまでよりずっと大人びて見えた。
「付き合ってもうどれくらい?」
「去年の夏くらいからだからもうすぐ1年、かな」
「知り合ってからは?」
「初めて話したのは1年の秋、だったな」
「はっ?それから…半年も会ってなかったの?」
「だって連絡先とか知らないし」
「うちに聞いてよ、そんなこと!」
「さくちゃんのこと、あの頃知らないのに無理だろ」
「えへへ、それもそうか」
ー でもさ…
「舞は嬉しかっただろうね」
「え?」
「あの娘すごく消極的でしかもネガティブだから」
「そうなの?舞はいつも前向きに見えるけど」
「外面がいいんだよ、弱いとこ見せたくないの」
「オレにも?」
「心配させるから…って、ね、だから」
咲良はそう言って舞に視線を送った。
「反省しなきゃ、だな」
「あ、ナカムラくんはそのままでいいよ」
「え?」
「そう言うさ、自由気ままなとこが好きなんだと思う、舞は」
「でもたまには、ねぇ、気遣いとかも」
「あ、そう言うのも大事だと思うけど、そこは二人で何とかしてよ」
「ははっ、そうだね」
ーあのぉ…
ここで突然会話に加わったのは世利華だった。
「な、何か浅川先輩と中村先輩の方が…お似…」
「世利華!」
珍しく咲良が語気を強めて世利華を|諫めた。
世利華が何を言おうとしたのかは
何となく見当がついた。
冗談のつもりで
似た者同士の僕と咲良の方がウマが合うと思う、
なんて言おうとしたのだろう、と
この時はそう思っていた。
ジョッキーから歩いて20分ほどで寮に到着した。
「それじゃ、この先はうちらで連れてくから
ごめんねナカムラくん」
「うん、また明日にでも舞に連絡するよ、ありがとう」
「プレゼント、預かっとこうか?」
「あ、これも明日一緒に」
「うん、それじゃまたね」
「舞!ナカムラくん帰っちゃうよ!話さなくていいの?」
「コ…コ…コウイチくぅん…コウイチくん…ありがと」
「舞、また、明日な」
「コウイチくん…」
「ふふっ、まだ完全に酔っ払ってるよ」
舞に肩を貸して部屋に戻る二人の後ろ姿を
僕はずっと見送っていた。
こんなことになるんじゃないか?
と、思い当たる節は何となくあった
数日前の舞の不可解な行動は
咲良には敢えて話さなかったが
この日、何事もなくあの心配が杞憂に終われば
笑い話になる、
そう思っていた。
だがしかし、嫌な予感はこのような形で
僕の心配に拍車をかけてきた。
明日になれば・・・
明日が来ればまたいつもの舞に会えるだろう、
何の根拠も無いがこの胸騒ぎを書き消すためには
そう思うしか出来ないほど今の僕は無力だった。
寮から少し歩いた先に自販機を見つけた、
まだアルコールが抜けきらない僕は
冷たい紅茶を買いその場に腰かけて口にした。
その時だった
「あのぉ…せ、先輩・・・」
突然後ろから声をかけられた。
帰り道からそんな予感はしていた、
さっきから、と言うより
僕が合流してから帰る間際まで
一言も発さなかった世利華のことを
さすがの僕ですら不自然に感じていたのだから。
「先輩、少しだけ…お時間あります?」
「あ、いいよ、今日はほとんど話してないもんね」
「あのね先輩…」
どこか甘えたような口調で
それでいて淡々と世利華は話し始めた。
自販機のライトに照らされた
世利華のあどけない横顔が
これまでよりずっと大人びて見えた。
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