僕とあの娘

みつ光男

文字の大きさ
上 下
109 / 129
第22章.  すれ違いの純情

【嵐のあと…】

しおりを挟む
 寮までの帰り道は舞との馴れ初めから今に至るまでを咲良に伝えるには充分な時間があった。

「付き合ってもうどれくらい?」

「去年の夏くらいからだからもうすぐ1年、かな」

「知り合ってからは?」

「初めて話したのは1年の秋、だったな」

「はっ?それから…半年も会ってなかったの?」

「だって連絡先とか知らないし」

「うちに聞いてよ、そんなこと!」

「さくちゃんのこと、あの頃知らないのに無理だろ」

「えへへ、それもそうか」

ー でもさ…

「舞は嬉しかっただろうね」

「え?」

「あの娘すごく消極的でしかもネガティブだから」

「そうなの?舞はいつも前向きに見えるけど」

外面そとづらがいいんだよ、弱いとこ見せたくないの」

「オレにも?」

「心配させるから…って、ね、だから」

咲良はそう言って舞に視線を送った。

「反省しなきゃ、だな」

「あ、ナカムラくんはそのままでいいよ」

「え?」

「そう言うさ、自由気ままなとこが好きなんだと思う、舞は」

「でもたまには、ねぇ、気遣いとかも」

「あ、そう言うのも大事だと思うけど、そこは二人で何とかしてよ」

「ははっ、そうだね」


ーあのぉ…

ここで突然会話に加わったのは世利華だった。

「な、何か浅川先輩と中村先輩の方が…お似…」

「世利華!」

珍しく咲良が語気を強めて世利華を|いさめた。

世利華が何を言おうとしたのかは
何となく見当がついた。


冗談のつもりで
似た者同士の僕と咲良の方がウマが合うと思う、
なんて言おうとしたのだろう、と
この時はそう思っていた。

 ジョッキーから歩いて20分ほどで寮に到着した。

「それじゃ、この先はうちらで連れてくから
ごめんねナカムラくん」

「うん、また明日にでも舞に連絡するよ、ありがとう」

「プレゼント、預かっとこうか?」

「あ、これも明日一緒に」

「うん、それじゃまたね」

「舞!ナカムラくん帰っちゃうよ!話さなくていいの?」

「コ…コ…コウイチくぅん…コウイチくん…ありがと」

「舞、また、明日な」

「コウイチくん…」

「ふふっ、まだ完全に酔っ払ってるよ」

 舞に肩を貸して部屋に戻る二人の後ろ姿を
僕はずっと見送っていた。

こんなことになるんじゃないか?
と、思い当たる節は何となくあった

数日前の舞の不可解な行動は
咲良には敢えて話さなかったが

この日、何事もなくあの心配が杞憂に終われば
笑い話になる、

そう思っていた。

だがしかし、嫌な予感はこのような形で
僕の心配に拍車をかけてきた。

明日になれば・・・

明日が来ればまたいつもの舞に会えるだろう、

何の根拠も無いがこの胸騒ぎを書き消すためには
そう思うしか出来ないほど今の僕は無力だった。

 寮から少し歩いた先に自販機を見つけた、
まだアルコールが抜けきらない僕は
冷たい紅茶を買いその場に腰かけて口にした。

その時だった

「あのぉ…せ、先輩・・・」

突然後ろから声をかけられた。

帰り道からそんな予感はしていた、

さっきから、と言うより
僕が合流してから帰る間際まで

一言も発さなかった世利華のことを
さすがの僕ですら不自然に感じていたのだから。

「先輩、少しだけ…お時間あります?」

「あ、いいよ、今日はほとんど話してないもんね」

「あのね先輩…」

 どこか甘えたような口調で
それでいて淡々と世利華は話し始めた。

自販機のライトに照らされた
世利華のあどけない横顔が

これまでよりずっと大人びて見えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~

海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。 そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。 そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

闇鍋【一話完結短編集】

だんぞう
ライト文芸
奇譚、SF、ファンタジー、軽めの怪談などの風味を集めた短編集です。 ジャンルを横断しているように見えるのは、「日常にある悲喜こもごもに非日常が少し混ざる」という意味では自分の中では同じカテゴリであるからです。アルファポリスさんに「ライト文芸」というジャンルがあり、本当に嬉しいです。 念のためタイトルの前に風味ジャンルを添えますので、どうぞご自由につまみ食いしてください。 読んでくださった方の良い気分転換になれれば幸いです。

処理中です...