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第22章. すれ違いの純情
【異変】
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「あれ?さくちゃん、どしたの?」
「舞が…舞がね、大変なの、早めに終われたらすぐ来て!」
「え?何が?」
「酔っ払ってんの、バカみたいに…」
舞の様子がおかしいと言うのは
何度か追加のオーダーを取りに行った
久代さんからも聞かされていた。
「中村くん、もう上がっても大丈夫だから彼女のとこに行ってあげたら?」
「あ、すみません、それじゃ、これで…」
「中村くんの彼女は酒豪なんだな…さっきから…いててて!」
「こんな時に余計なこと言わないの!門脇くん、だからあんたは彼女も出来ないのよ!」
ー 舞、どうしたんだ?
門脇さんの横やりすら気にならないほどに
動転した僕は更衣室でエプロンと蝶ネクタイを外し
大慌てで舞のもとへと向かった。
するとそこには…
「コウイチくぅ~ん?コウイチ…くん?遅かったじゃない!もう舞ちゃんどんだけ待たせんの!」
舞は泥酔していた…こんな時は叱責するよりも
彼女のペースに合わせてあげるのがベストだ
僕は瞬時にそう察知した。
「ごめんごめん、これでもがんばって早く終わらせたんだよ」
「そ、そっかぁ…偉いぞぉ、コウイチ…くん」
舞はそのまま着席した僕に力なくもたれかかると
意識を失うように眠り始めた。
「ナカムラくん…何かあったの?舞と」
心配そうな表情の咲良に問いかけられた。
確かにジョッキーでアルバイトを始めてから
以前のように頻繁に舞と会う機会は減った。
もしも表沙汰にされていない
陽菜子との秘め事を知っているとしたら…
いや、そんなはずはない
僕は自分の過失を棚に上げて
都合のいい逃げ道ばかりを考えていた。
察しのいい舞のことだから具体的な内容は知らなくとも
"何かしらの変化"に気づいていたのかも知れない。
"バレてないから大丈夫だろう"などと言う
身勝手で軽率な自分に対し、
今になって押し潰されんばかりの罪悪感にかられた。
「俺が…悪いんだろうなぁ、舞のために始めたバイトだったんだけど」
「でもね、舞はナカムラくんのこと全然悪くなんて言ってなかった…」
「そっかぁ、舞も病院で色々大変だろうに、もっと話聞いてあげなきゃ、な」
「バイト…まだ続けんの?」
「実は…ね」
決してここでのアルバイトが嫌になった…
わけではないが
目標だった中古の車を買えるくらいの貯金も増えたので
もう潮時だろう、と
今月いっぱいで辞める話を既にしていて
店長からは承諾されていた。
「そうなんだ!舞もきっと喜ぶね」
「その話を今日して、これを渡そうと思ってたんだけどな」
僕は小さな紙袋に入った舞への贈り物を
咲良に見せた。
「もうそれはさ、明日にでも舞が起きてからにしなよ、今渡しても忘れたり落としたりしたら意味ないから、ふふふ」
そんな僕たちの会話を
目の前に座る世利華は何も言わずに
ただ黙って聞いていた。
ラストオーダーの時間になった、
後から合流した僕もとりあえず空腹は満たされ
膝の上で眠る酩酊状態の舞を寮まで送ることにした。
「こんな時でもたらふく食べるオレって…」
「それもナカムラくんらしいよ!舞はそんなとこが好きなんだと思う」
僕は子供のように眠り続ける舞を背負い
咲良や世利華と共にジョッキーを後にした。
「ここから寮までなら…」
「歩いて帰れるよね~」
「ま、舞なら軽いから…ね、さくちゃん」
「な、何でうちの方、見ながら言うのよ!」
「ははは、冗談だよ」
帰り道、舞とのことを咲良とあれこれ話した。
「舞が…舞がね、大変なの、早めに終われたらすぐ来て!」
「え?何が?」
「酔っ払ってんの、バカみたいに…」
舞の様子がおかしいと言うのは
何度か追加のオーダーを取りに行った
久代さんからも聞かされていた。
「中村くん、もう上がっても大丈夫だから彼女のとこに行ってあげたら?」
「あ、すみません、それじゃ、これで…」
「中村くんの彼女は酒豪なんだな…さっきから…いててて!」
「こんな時に余計なこと言わないの!門脇くん、だからあんたは彼女も出来ないのよ!」
ー 舞、どうしたんだ?
門脇さんの横やりすら気にならないほどに
動転した僕は更衣室でエプロンと蝶ネクタイを外し
大慌てで舞のもとへと向かった。
するとそこには…
「コウイチくぅ~ん?コウイチ…くん?遅かったじゃない!もう舞ちゃんどんだけ待たせんの!」
舞は泥酔していた…こんな時は叱責するよりも
彼女のペースに合わせてあげるのがベストだ
僕は瞬時にそう察知した。
「ごめんごめん、これでもがんばって早く終わらせたんだよ」
「そ、そっかぁ…偉いぞぉ、コウイチ…くん」
舞はそのまま着席した僕に力なくもたれかかると
意識を失うように眠り始めた。
「ナカムラくん…何かあったの?舞と」
心配そうな表情の咲良に問いかけられた。
確かにジョッキーでアルバイトを始めてから
以前のように頻繁に舞と会う機会は減った。
もしも表沙汰にされていない
陽菜子との秘め事を知っているとしたら…
いや、そんなはずはない
僕は自分の過失を棚に上げて
都合のいい逃げ道ばかりを考えていた。
察しのいい舞のことだから具体的な内容は知らなくとも
"何かしらの変化"に気づいていたのかも知れない。
"バレてないから大丈夫だろう"などと言う
身勝手で軽率な自分に対し、
今になって押し潰されんばかりの罪悪感にかられた。
「俺が…悪いんだろうなぁ、舞のために始めたバイトだったんだけど」
「でもね、舞はナカムラくんのこと全然悪くなんて言ってなかった…」
「そっかぁ、舞も病院で色々大変だろうに、もっと話聞いてあげなきゃ、な」
「バイト…まだ続けんの?」
「実は…ね」
決してここでのアルバイトが嫌になった…
わけではないが
目標だった中古の車を買えるくらいの貯金も増えたので
もう潮時だろう、と
今月いっぱいで辞める話を既にしていて
店長からは承諾されていた。
「そうなんだ!舞もきっと喜ぶね」
「その話を今日して、これを渡そうと思ってたんだけどな」
僕は小さな紙袋に入った舞への贈り物を
咲良に見せた。
「もうそれはさ、明日にでも舞が起きてからにしなよ、今渡しても忘れたり落としたりしたら意味ないから、ふふふ」
そんな僕たちの会話を
目の前に座る世利華は何も言わずに
ただ黙って聞いていた。
ラストオーダーの時間になった、
後から合流した僕もとりあえず空腹は満たされ
膝の上で眠る酩酊状態の舞を寮まで送ることにした。
「こんな時でもたらふく食べるオレって…」
「それもナカムラくんらしいよ!舞はそんなとこが好きなんだと思う」
僕は子供のように眠り続ける舞を背負い
咲良や世利華と共にジョッキーを後にした。
「ここから寮までなら…」
「歩いて帰れるよね~」
「ま、舞なら軽いから…ね、さくちゃん」
「な、何でうちの方、見ながら言うのよ!」
「ははは、冗談だよ」
帰り道、舞とのことを咲良とあれこれ話した。
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