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第22章. すれ違いの純情
【合鍵】
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やはりしばらく連絡しなかったことで
舞は少しナーバスになっている様子だった。
「何か…最近なかなか連絡できなかったけど
これからは、さ、前みたいに…」
「うん!コウイチくんさえ大丈夫なら」
「俺は大丈夫だよ、もうバイトもシフト、少し減らそうかと思ってるくらいだし」
「ほほぉ、そのこころは?」
「貯まりましたから…お金も…こっちも」
そう言って僕が下半身を指差すと
「やだぁ!もう!」
真っ赤になって照れる舞がとても新鮮に感じた。
「あ!そうだ!舞、これを…」
「なにぃ?」
停留所のベンチに腰かける舞の手にある物を握らせた。
「え?これって?」
「下宿の部屋の鍵だよ」
「…いいの?」
「うん、もっと早く渡せばよかったね」
「コウイチくん…」
舞は人目も憚らず停留所のベンチに座ったまま
そっと肩を寄せてきた。
いつもなら人前だと照れくさくて躊躇してしまうのだが
今日は僕も躊躇うことなく舞に体を預けた。
舞の知らない場所で僕の中で起きた
様々な出来事はもう忘れてしまおう
その鍵になるのが今、手渡した部屋の鍵だ
これでようやく平穏な関係が戻ってくる、
そう確信した瞬間だったのだが
やはり心のほころびはそう簡単には
元に戻ってはくれなかった。
舞は病院での実習が更に多忙を極め
僕は僕で講義以外にもバンドとアルバイトに追われ
すれ違いの日々が続いた。
それでも舞は時間を作って例の合鍵で
夜食を届けてくれたり
脱ぎ散らかした衣類を片付けたりしてくれる、
その健気さに何も返してあげられない僕は心が傷んだ。
実際、舞と会う回数は付き合い始めた頃と比べると
格段に少なくなってしまった。
舞は決してそんなことはないのだろうが
僕は"会えないこと"に少しずつ慣れ始めていた。
皮肉なことに舞のために始めたアルバイトのせいで
結果的に舞との距離が
少しずつ離れていく結果になっていった。
やがて季節は夏の訪れを予感させる5月を迎え
来月、舞の生誕祭をしようと言う話を
咲良から聞かされていたのだが
二人のスケジュールが合わないので
僕のバイト先で開催して
途中から僕が合流する、と言うことに決まった。
日程は6月3日、ちょうど舞の誕生日
思えば舞衣と"再会"した記念日は
ちょうど1年前のこの日だった。
久しぶりに舞を囲んで
賑やかな宴の席が設けられる、と
僕の気持ちも高揚していた。
そんな舞衣の誕生日当日を数日後に控えた
5月の終わりの事だった
僕はいつものようにバイト先であるジョッキーに着いて
タイムカードを押して事務所から出た
その時、
「コウイチくんっ!」
聞き覚えのある声に振り返ると
そこに立っていたのは舞だった。
「ねぇ、コウイチくん」
「どうしたの?」
「遊びに行かない?、今から」
ー えっ?舞は何を言ってるんだ?
僕がこれからバイトなのは知ってるだろうし
何故わざわざここまで足を伸ばして
僕にそれを伝えに来た?
「ふふっ、ビックリした?冗談だよ」
「だよね?ホント、ビックリしたよ」
「あのね、部屋に夜食、置いてるから帰ったら食べてね」
「あ、ありがとう、合鍵、活用してくれてるね」
「そ!ふふっ」
何だそう言うことか…
そのことを伝えるためだけに
実習帰り、ここに来てくれたのか?
舞は少しナーバスになっている様子だった。
「何か…最近なかなか連絡できなかったけど
これからは、さ、前みたいに…」
「うん!コウイチくんさえ大丈夫なら」
「俺は大丈夫だよ、もうバイトもシフト、少し減らそうかと思ってるくらいだし」
「ほほぉ、そのこころは?」
「貯まりましたから…お金も…こっちも」
そう言って僕が下半身を指差すと
「やだぁ!もう!」
真っ赤になって照れる舞がとても新鮮に感じた。
「あ!そうだ!舞、これを…」
「なにぃ?」
停留所のベンチに腰かける舞の手にある物を握らせた。
「え?これって?」
「下宿の部屋の鍵だよ」
「…いいの?」
「うん、もっと早く渡せばよかったね」
「コウイチくん…」
舞は人目も憚らず停留所のベンチに座ったまま
そっと肩を寄せてきた。
いつもなら人前だと照れくさくて躊躇してしまうのだが
今日は僕も躊躇うことなく舞に体を預けた。
舞の知らない場所で僕の中で起きた
様々な出来事はもう忘れてしまおう
その鍵になるのが今、手渡した部屋の鍵だ
これでようやく平穏な関係が戻ってくる、
そう確信した瞬間だったのだが
やはり心のほころびはそう簡単には
元に戻ってはくれなかった。
舞は病院での実習が更に多忙を極め
僕は僕で講義以外にもバンドとアルバイトに追われ
すれ違いの日々が続いた。
それでも舞は時間を作って例の合鍵で
夜食を届けてくれたり
脱ぎ散らかした衣類を片付けたりしてくれる、
その健気さに何も返してあげられない僕は心が傷んだ。
実際、舞と会う回数は付き合い始めた頃と比べると
格段に少なくなってしまった。
舞は決してそんなことはないのだろうが
僕は"会えないこと"に少しずつ慣れ始めていた。
皮肉なことに舞のために始めたアルバイトのせいで
結果的に舞との距離が
少しずつ離れていく結果になっていった。
やがて季節は夏の訪れを予感させる5月を迎え
来月、舞の生誕祭をしようと言う話を
咲良から聞かされていたのだが
二人のスケジュールが合わないので
僕のバイト先で開催して
途中から僕が合流する、と言うことに決まった。
日程は6月3日、ちょうど舞の誕生日
思えば舞衣と"再会"した記念日は
ちょうど1年前のこの日だった。
久しぶりに舞を囲んで
賑やかな宴の席が設けられる、と
僕の気持ちも高揚していた。
そんな舞衣の誕生日当日を数日後に控えた
5月の終わりの事だった
僕はいつものようにバイト先であるジョッキーに着いて
タイムカードを押して事務所から出た
その時、
「コウイチくんっ!」
聞き覚えのある声に振り返ると
そこに立っていたのは舞だった。
「ねぇ、コウイチくん」
「どうしたの?」
「遊びに行かない?、今から」
ー えっ?舞は何を言ってるんだ?
僕がこれからバイトなのは知ってるだろうし
何故わざわざここまで足を伸ばして
僕にそれを伝えに来た?
「ふふっ、ビックリした?冗談だよ」
「だよね?ホント、ビックリしたよ」
「あのね、部屋に夜食、置いてるから帰ったら食べてね」
「あ、ありがとう、合鍵、活用してくれてるね」
「そ!ふふっ」
何だそう言うことか…
そのことを伝えるためだけに
実習帰り、ここに来てくれたのか?
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