僕とあの娘

みつ光男

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第22章.  すれ違いの純情

【穏やかな日々】

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「わ、わたし、の、野﨑…野﨑のさき世利華せりかって言います、舞先輩は私の隣の部屋なんですぅ」

「そうなんだ、俺は中村、よろしくね。あ、そうだ、制服のデザインと言うか色が…」

「そうなの、私たちの代から二種類あって交替で着てってよくなったんですよ」

「そうなんだ、じゃ舞はそのタイプの制服持ってないんだね」

「多分新調して購入すれば順番に着るとは思いますよぉ」

「そっか、新しい情報だね、それは」

「あ、彼氏さん、どこまで行かれます?」

「俺は山野田で降りるから…看護学校の近くだよ」

「私も…学校に1回戻るので同じですね」

「あ、ありがとう、これ、助けてくれて」

僕は世利華が持ってくれているビデオデッキを
受け取った。 

「あ、いえいえ、落とさなくてよかったぁ」

「でも…野﨑さん、力持ちだね」

「あはっ、私、柔道やってたので力なら人より少しあるんです」

「へぇ!そんなに小柄なのに?」

「実は筋肉が落ちなくて困ってるんですぅ」

他愛ない会話をしているうちに
バスは山野田駅で停車した。

「それじゃ、野﨑さんありがとう」

「わ、私、先輩からはって呼ばれてます、あの、ほら業界用語みたいな…」

「あ、逆から読むパターンね?」

「そう!それです」

「またどこかで会ったらよろしくね」

「はい!おつかれさまですぅ」

まさかこんな所で舞の後輩に会うとは…

最近、自分への戒めもあって
舞に連絡出来てないけど久しぶりに電話、
かけてみようかな

世利華との遭遇は遠慮がちになりかけていた
舞との距離感を縮めてくれる、

そんな存在のように感じた。

 例の陽菜子と可鈴の一件以来
実に2週間ぶりに僕は舞衣に連絡を入れた。

「舞!舞っ~!ナカムラくんから!電話ー!」

受話器の向こうから電話を取った咲良の声が響き渡り
ほどなくパタパタと小さく控えめな足音が聞こえる

「はい、舞です!」

「あ、舞!ごめんななかなか連絡できなくて」

「うぅん大丈夫!コウイチくんこそ大丈夫?バイトとバンドが忙しいんじゃないの?」

「うん、ちょっと落ち着いたからさ、舞に…
見せたいものがあるんだ、明日…」

「うん、大丈夫、コウイチくんの授業終わったらすぐ行くから」

「時間…大丈夫?」

「大丈夫だよ、当直明けだから明日はおやすみなの」

「よかった、それじゃ明日、いつもの…」

「やだ!わたし待ちきれずに下宿まで行っちゃいそう」

 翌日、講義を終えて帰る僕を見つけた舞と
長らく二人で過ごすことのなかった
僕の部屋へと向かった。

「ほら、舞っ!見て、俺の部屋」

「わっ!珍しく片付いてるねコウイチくん!」

「ははは…じゃなくてさ、ほらテレビの周辺とか…」

「え?ビデオ買ったんだ?コンポも新しくなってる!」

「これでレンタルしたビデオ、この部屋で観れるよ」

「うん!」

帰り道、舞をバス停まで送りながら
空白の時間を埋めるかのようにお互い話し続けた。

「そう言えばさ、舞の後輩ちゃんにこの前会ったよ」

…ね?聞いた聞いた」

「あの娘、舞のこと憧れてるみたいだね」、

「そうなの?わたしにはそんな素振り見せないけど…でもかわいいでしょ?」

「そうだね」

「ん?」

怪訝そうな顔で舞は僕を見た。

「え?まさか?」

「ナンパしたの?かせりのこと?」

「いや、そうじゃないよ、俺がこのビデオデッキ買って帰る途中にバスの中で落としそうになってさ…」

「あはっ!そうなの?」

事情を話すと怪訝そうな顔をしていた舞は
ようやく納得した。
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