僕とあの娘

みつ光男

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第20章.  「男」なんて

【黎明】

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 第2どころか、陽菜子との第3ラウンドを終えた頃には
朝日が顔を出そうとしていた。

「帰ろう、ナカムラ」

「もう朝じゃないすか」

「今日は楽しかったね」

「そうですね…疲れたけど」

「気持ちよかったぁ!何でだろ?あんたのなら平気なんだよね」

「それって俺のが小さい…とか」

「あ、そのサイズとかじゃなくて、ふふ、触れられても大丈夫、ってこと」

「やっぱ、相手によりけり…なんですよ」

「そうだね、ちょっとメイク直してくる」

ひとりぽつねんとベッドに残されて
短い時間で色々と考えた。

 もし舞よりも早く陽菜子と出会っていたら
僕は何を悩むでもなく躊躇いもせずこんな関係になり

過去の呪縛やトラウマを引きずることなく
心も体も解放したのだろうか?

何故、今になって、こんな時に陽菜子が現れた?
そして僕が音楽の話をしさえしなければ
話す機会もなかっただろうに。

あぁ!やめたやめた
深く考えるのはやめにしよう

始発の電車に乗り、いつもの世界に戻れば

僕には舞と言う可愛い彼女が隣にいる
ただの学生に戻るだけ…

そう思わないことには今日のことを延々と引きずって
舞に要らぬ心配をかけることになる、
知らないと言うのはある意味幸せなことなんだ

そう言い聞かせることで
自分を肯定しようと必死だった。

「お待たせ、帰ろう!ナカムラ」

 だがひとたびバイト先に行くと
体の関係が出来てしまった陽菜子がいる

いや正確にはバイトが終わって共に行動する時は、だ。

このような沼に足を踏み入れたの僕自身だ
ならばこの先どのような道を歩むのか決めるのも

また僕自身なのだから。

「大体実は男なんて自分勝手で…頭に来る~♪」

「何ですかそれ?」

「あたしのテーマ曲」

「何じゃそりゃ」

「ふふ、ありがとね、ナカムラ」

「じゃ、出ましょ…ん、ん」

僕の声は再び陽菜子の柔らかな唇に塞がれた

僕たちはホテルのドアの前で
長い時間抱き合ったまま互いの唇を求め合った。

そして思い出したように唾液にまみれた僕の唇を
そっと指でなぞる陽菜子

「はい、おしまい、帰るよ」

「ヒナさん!何すか?急に我に返って!」

「いいじゃん、もう気、遣う仲でもないでしょ」

 外に出ると眩しい朝日が
少し湿ったアスファルトに反射して

寝起きで朝帰りの僕たちを迎えてくれた。

既に出勤中なのだろうか?
何人かのスーツ姿の男性とすれ違った

「ねえねえ、この人たちってさ」

「何ですか?」

「さっきまであたしたちがどこにいたのかなんて、知らないんだよね」

「でしょうね」

「何してたのか、ってのも」

「そりゃそうですよ」

「でもあの人たちももしかしたらさっきまで…」

「え?」

「あたしたちと同じことしてたかも知れないんだよね?」

「え、ええ、そりゃあ、まあ」

「人生って人それぞれだよね」

「そうですね」

「あたしの人生に関わってくれて…ありがとねナカムラ」

「あ、いや、俺なんて何にも…」

陽菜子は小さく首を横に振った

「『男』も悪くないかも…ふふっ」

「も、もしかして…?」

「今日はここまで…ふふふ」

そう言って陽菜子は
タバコをふかしながらバイクにまたがった

こうして僕たちの関係は
黎明期から人知れず少し先へと進んだ。
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