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第20章. 「男」なんて
【Just one more kiss】
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雑居ビルの片隅にある非常階段の階下、
ここの今にも消えそうな街灯の下で
二つのシルエットが妖しく揺らめく。
「あれー?こんなことしていいのかなー?彼女がいるのにナカムラったら…」
「だってヒナさんが」
「こんなこと…したってぇ?」
そう言って陽菜子は再び柔らかな舌先を
僕の口の中へと遠慮なく忍ばせてきた。
普段Sっ気丸出しの陽菜子が囁く
甘えたような声に僕は興奮が抑えきれず
陽菜子の髪を時に激しく時に優しく撫でながら
その行為を受け入れている。
しばし僕たちは唇を重ね無心で舌と舌を絡め合いながら
甘い吐息を感じていた。
「ナカムラのベロはチョコの味がする」
「そりゃそうでしょ」
「ふふ、感じてるの?」
「な、なんすか?いきなり?」
「続きは今度ね」
「続きはないです!」
「じゃ、何で拒まなかったの?」
「そ、それはですね…」
「あたし…ほんとは男なんてキライなんだ」
「え?じゃ、何で?」
「あんた、女の子みたいなんだもん」
「意味がわかりません」
「また今度教えたげる」
「何だかなぁ、もう」
わざと素っ気なく振る舞ってはみたものの
僕は決して陽菜子を拒んでいたわけではなかった。
「また…さ、飲みに付き合ってくれる?」
「あ、はい、今度はほどほどにしてくださいね」
こうして人知れず始まった
淡い逢瀬はここで終わりを告げたのだ、と
この時僕にようやく安堵感が押し寄せたが
心のどこかではまだ何かに期待している
そんな気持ちもあったのかも知れない。
その数分後、陽菜子は僕にもたれかかったまま
スースーと淡い寝息を立て始めた。
左手は非常階段の手すりが当たって冷たかったが
右手は頬を寄せる陽菜子の体温を直に感じていた。
しかし、陽菜子は何がどうしたの言うのだろう?
同じバンドが好きだから?
バイト先で話せる男子が見つかったから?
それとも何かしら好意のような感情を?
どのタイミングで陽菜子が「女性の部分」を
出してきたのかわからない。
僕はと言えば初めて陽菜子を見た時
瓜二つな高校時代の彼女、沙弥香を思い出した。
そして意外にも気さくな陽菜子の一面を垣間見た
それだけの理由でこんな行為に及ぶだろうか?
いや、そもそも行為を仕掛けたのは陽菜子だ
しかも男なんてキライだと言いながら。
訳がわからない
流れに任せてこんな雰囲気になってしまったのだと
自分に思い込ませた。
それでも隣で穏やかに眠る陽菜子を見ると
舞への罪悪感など微塵も感じないまま
その寝顔をしげしげと眺めてしまう。
「あぁ髪がボサボサだよ、しかし可愛い顔して寝るもんだなぁ」
陽菜子の肩に回していた左手で彼女の頬を
そっと撫でてみた…
すると陽菜子は突然目を覚まし
「ナカムラ…寒い」
「だから、もう帰りましょ、夜中の2時にこんなとこにいたら凍死しますって!」
「あっためて」
「…え?」
「あったかい…とこに行こ」
誘ってるのか?
それとも試してるのか?
「はい…って言ったら?」
「帰る」
「ホントですか?」
「ホントだよ」
「じゃ、行きましょ」
「ねえ、おんぶしてよ」
「歩いてくださいよー」
「やだ」
「もう!わかりました、じゃ乗っかってください」
「よいしょ」
僕の背中でようやく陽菜子は大人しくなった。
「あれ?駅どっちでした?」
「その角曲がって、その向こう」
「えっとこの先は…」
「あぁ、あったかーい、ナカムラの背中」
そう言いながら僕の耳元に頬を擦り寄せる。
しかし先ほどから歩けど歩けど駅には着かない
「ヒナさん、道、合ってます?」
「あ、ナカムラ、そこ、入って」
"ホテル リバーサイド"
そう書かれた派手な看板の前で陽菜子は言った。
「ねぇ、あっためてよ」
ここの今にも消えそうな街灯の下で
二つのシルエットが妖しく揺らめく。
「あれー?こんなことしていいのかなー?彼女がいるのにナカムラったら…」
「だってヒナさんが」
「こんなこと…したってぇ?」
そう言って陽菜子は再び柔らかな舌先を
僕の口の中へと遠慮なく忍ばせてきた。
普段Sっ気丸出しの陽菜子が囁く
甘えたような声に僕は興奮が抑えきれず
陽菜子の髪を時に激しく時に優しく撫でながら
その行為を受け入れている。
しばし僕たちは唇を重ね無心で舌と舌を絡め合いながら
甘い吐息を感じていた。
「ナカムラのベロはチョコの味がする」
「そりゃそうでしょ」
「ふふ、感じてるの?」
「な、なんすか?いきなり?」
「続きは今度ね」
「続きはないです!」
「じゃ、何で拒まなかったの?」
「そ、それはですね…」
「あたし…ほんとは男なんてキライなんだ」
「え?じゃ、何で?」
「あんた、女の子みたいなんだもん」
「意味がわかりません」
「また今度教えたげる」
「何だかなぁ、もう」
わざと素っ気なく振る舞ってはみたものの
僕は決して陽菜子を拒んでいたわけではなかった。
「また…さ、飲みに付き合ってくれる?」
「あ、はい、今度はほどほどにしてくださいね」
こうして人知れず始まった
淡い逢瀬はここで終わりを告げたのだ、と
この時僕にようやく安堵感が押し寄せたが
心のどこかではまだ何かに期待している
そんな気持ちもあったのかも知れない。
その数分後、陽菜子は僕にもたれかかったまま
スースーと淡い寝息を立て始めた。
左手は非常階段の手すりが当たって冷たかったが
右手は頬を寄せる陽菜子の体温を直に感じていた。
しかし、陽菜子は何がどうしたの言うのだろう?
同じバンドが好きだから?
バイト先で話せる男子が見つかったから?
それとも何かしら好意のような感情を?
どのタイミングで陽菜子が「女性の部分」を
出してきたのかわからない。
僕はと言えば初めて陽菜子を見た時
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そして意外にも気さくな陽菜子の一面を垣間見た
それだけの理由でこんな行為に及ぶだろうか?
いや、そもそも行為を仕掛けたのは陽菜子だ
しかも男なんてキライだと言いながら。
訳がわからない
流れに任せてこんな雰囲気になってしまったのだと
自分に思い込ませた。
それでも隣で穏やかに眠る陽菜子を見ると
舞への罪悪感など微塵も感じないまま
その寝顔をしげしげと眺めてしまう。
「あぁ髪がボサボサだよ、しかし可愛い顔して寝るもんだなぁ」
陽菜子の肩に回していた左手で彼女の頬を
そっと撫でてみた…
すると陽菜子は突然目を覚まし
「ナカムラ…寒い」
「だから、もう帰りましょ、夜中の2時にこんなとこにいたら凍死しますって!」
「あっためて」
「…え?」
「あったかい…とこに行こ」
誘ってるのか?
それとも試してるのか?
「はい…って言ったら?」
「帰る」
「ホントですか?」
「ホントだよ」
「じゃ、行きましょ」
「ねえ、おんぶしてよ」
「歩いてくださいよー」
「やだ」
「もう!わかりました、じゃ乗っかってください」
「よいしょ」
僕の背中でようやく陽菜子は大人しくなった。
「あれ?駅どっちでした?」
「その角曲がって、その向こう」
「えっとこの先は…」
「あぁ、あったかーい、ナカムラの背中」
そう言いながら僕の耳元に頬を擦り寄せる。
しかし先ほどから歩けど歩けど駅には着かない
「ヒナさん、道、合ってます?」
「あ、ナカムラ、そこ、入って」
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そう書かれた派手な看板の前で陽菜子は言った。
「ねぇ、あっためてよ」
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