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第20章. 「男」なんて
【make out】
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ぽつんと薄暗い街灯が灯るビルの裏側で
僕たちは捨て猫のように寒さに震えている。
「ヒナさん、好きなバンドってBUCK-TICKだけっすか?」
「そう…他にも結構聴くよそっち系のバンドは」
「デランジェ…とか、知ってます?」
「あ、聴くよ聴くよ!ビジュアル的にはそんなタイプじゃないんだけど」
「俺、CD持ってますよ、録音してきましょか?」
「ほんとに?」
「はい」
「ナカムラ、いいヤツだなぁ~」
そう言って陽菜子は僕を軽く抱きしめた。
まんざらでもなかった…
バイト先でいつもすれ違いざまに感じていた
陽菜子の仄かなコロンの香りは
まだ仕事に慣れていなかった頃の僕に
何とも言えない安心感をもたらしてくれた。
陽菜子がいるだけでホールが円滑に回る、
と言う不思議な安心感。
アルコールの匂いに紛れながらも
今日、この時もその芳香は持続されていた。
「寒い!ヒナさん帰りましょ、そろそろ」
「だぁって、あたしお酒抜けてないんだよ」
「ラーメン屋でも飲むからっすよ!自業自得なんです!」
寒さからか路地裏に腰かけたままの僕たちは
お互いほん少しだけ寄り添ったままの
距離感を保っていた。
「あ!そうだナカムラ、あれ食べたい」
「何すか?アレって」
「さっき買った…あれだよあれ」
「あ、チョコですか?」
僕はコンビニのナイロン袋から
アーモンドチョコを取り出して
陽菜子に手渡そうとした。
「え?食べさせてよ」
「何甘えてんすか?」
「ほら、こうやって・・・」
陽菜子はチョコを持った僕の指先を
自分の唇にそっと押し当てる
「ふふ、そうそう…」
僕が一瞬たじろいだのを見た陽菜子が
悪戯っぽく微笑んだ。
「んー…」
陽菜子の柔らかな唇がチョコを持つ僕の指ごと
そっと咥えこむ。
女性との甘い関係には
少しは慣れてきたつもりだったが
予想すら、いや妄想すらしなかった展開に
なす術もなかった。
陽菜子はニヤニヤしながら上目遣いで僕を見ている
まるで今の状況を楽しんでいる様子だ。
「ちょ、ちょっと酔っ払ってるんですか?」
「あたしは元々酔ってるよ」
そう言って軽く僕の指を噛む。
「もう!指噛まないでくださいよ」
「いいから言うこと聞きなさい!」
「急に先輩風、吹かせ始めたな」
「ほら、早く次のチョコ」
「はいはい、あっ!痛てててて!」
何を思ったか陽菜子はチョコを持つ僕の指に
これまでにないくらい思い切り噛みついた。
「あは、ごめんごめん」
こんなやり取りを続けながら
とうとうチョコは最後の1個を残すのみとなった。
「最後の1個、俺にくださいよ」
「ダーメ!これ、あたしのだから」
そう言うと陽菜子は自らチョコを手に取り
自分の口へと運んだ。
「ひどい先輩だ」
僕の言葉が耳に入ったのかどうかはわからないが
その直後、陽菜子はこう口にした
「そんなにほしいの?」
「もう…いいっすよ、食べたんでしょ?」
「じゃ、あげる…」
チョコを咥えた半開きの陽菜子の唇が
僕の口へ少しずつ近づいてきた。
「ん…」
僕の唇と重なった陽菜子の唇から
少し溶けかけたチョコが押し込まれた。
僕がそのチョコを受け入れると
「返して…やっぱ、それ、あたしの…だから」
チョコを含んだ僕の口の中に
陽菜子の舌先が入り込んできた。
重ねあった唇と唇の間を何度もチョコが行き来する
甘い唾液を感じながら恍惚の表情を浮かべる陽菜子
きっと僕も同じ顔をしていたことだろう。
口の中ですっかり溶けてしまった後も
陽菜子は僕と舌を絡めながら
チョコの余韻を味わっていた。
僕たちは捨て猫のように寒さに震えている。
「ヒナさん、好きなバンドってBUCK-TICKだけっすか?」
「そう…他にも結構聴くよそっち系のバンドは」
「デランジェ…とか、知ってます?」
「あ、聴くよ聴くよ!ビジュアル的にはそんなタイプじゃないんだけど」
「俺、CD持ってますよ、録音してきましょか?」
「ほんとに?」
「はい」
「ナカムラ、いいヤツだなぁ~」
そう言って陽菜子は僕を軽く抱きしめた。
まんざらでもなかった…
バイト先でいつもすれ違いざまに感じていた
陽菜子の仄かなコロンの香りは
まだ仕事に慣れていなかった頃の僕に
何とも言えない安心感をもたらしてくれた。
陽菜子がいるだけでホールが円滑に回る、
と言う不思議な安心感。
アルコールの匂いに紛れながらも
今日、この時もその芳香は持続されていた。
「寒い!ヒナさん帰りましょ、そろそろ」
「だぁって、あたしお酒抜けてないんだよ」
「ラーメン屋でも飲むからっすよ!自業自得なんです!」
寒さからか路地裏に腰かけたままの僕たちは
お互いほん少しだけ寄り添ったままの
距離感を保っていた。
「あ!そうだナカムラ、あれ食べたい」
「何すか?アレって」
「さっき買った…あれだよあれ」
「あ、チョコですか?」
僕はコンビニのナイロン袋から
アーモンドチョコを取り出して
陽菜子に手渡そうとした。
「え?食べさせてよ」
「何甘えてんすか?」
「ほら、こうやって・・・」
陽菜子はチョコを持った僕の指先を
自分の唇にそっと押し当てる
「ふふ、そうそう…」
僕が一瞬たじろいだのを見た陽菜子が
悪戯っぽく微笑んだ。
「んー…」
陽菜子の柔らかな唇がチョコを持つ僕の指ごと
そっと咥えこむ。
女性との甘い関係には
少しは慣れてきたつもりだったが
予想すら、いや妄想すらしなかった展開に
なす術もなかった。
陽菜子はニヤニヤしながら上目遣いで僕を見ている
まるで今の状況を楽しんでいる様子だ。
「ちょ、ちょっと酔っ払ってるんですか?」
「あたしは元々酔ってるよ」
そう言って軽く僕の指を噛む。
「もう!指噛まないでくださいよ」
「いいから言うこと聞きなさい!」
「急に先輩風、吹かせ始めたな」
「ほら、早く次のチョコ」
「はいはい、あっ!痛てててて!」
何を思ったか陽菜子はチョコを持つ僕の指に
これまでにないくらい思い切り噛みついた。
「あは、ごめんごめん」
こんなやり取りを続けながら
とうとうチョコは最後の1個を残すのみとなった。
「最後の1個、俺にくださいよ」
「ダーメ!これ、あたしのだから」
そう言うと陽菜子は自らチョコを手に取り
自分の口へと運んだ。
「ひどい先輩だ」
僕の言葉が耳に入ったのかどうかはわからないが
その直後、陽菜子はこう口にした
「そんなにほしいの?」
「もう…いいっすよ、食べたんでしょ?」
「じゃ、あげる…」
チョコを咥えた半開きの陽菜子の唇が
僕の口へ少しずつ近づいてきた。
「ん…」
僕の唇と重なった陽菜子の唇から
少し溶けかけたチョコが押し込まれた。
僕がそのチョコを受け入れると
「返して…やっぱ、それ、あたしの…だから」
チョコを含んだ僕の口の中に
陽菜子の舌先が入り込んできた。
重ねあった唇と唇の間を何度もチョコが行き来する
甘い唾液を感じながら恍惚の表情を浮かべる陽菜子
きっと僕も同じ顔をしていたことだろう。
口の中ですっかり溶けてしまった後も
陽菜子は僕と舌を絡めながら
チョコの余韻を味わっていた。
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