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第19章. TABOO
【One night vallet】
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運のいいことに翌日は絡まれたら何かと面倒そうな門脇さんはおやすみだった。
決して高校時代の元カノ、沙弥香に似ているから
陽菜子と話がしたいわけではない
純粋に音楽の話をしたいだけだった、
それなら舞だってきっと怒らないだろう。
とは言え、どのタイミングで会話をするか
そのことばかり考えていると
「2番行ってきます」
蚊の泣くような陽菜子の声がした。
「2番」とは職場用語で「休憩」を意味する
ならば彼女が行く先は少し外れにある喫煙室だろう
ホールと洗い場の休憩時間は意外と被ることが多く
タイミングも不自然ではない。
「あ、俺、ちょっと2番行きます」
僕もそそくさと休憩に入り
小さく深呼吸をすると陽菜子がいるであろう
喫煙室へと歩を進めた。
コンコンッ!
小さくノックをすると中から
「はい」
小さな声で返事がした、間違いない。
「あ、南波さん、休憩中にすいませんー」
「あれ?ナカムラ?何で?どしたの?あんた煙草喫うんだった?」
先ほどまで能面のような表情で
ホールを歩いていた陽菜子とは
まるで別人の笑顔で迎えられた。
「あ、いや、南波さんいるかなと思いまして」
「どしたの?こんな煙たい部屋に来て」
「あ…南波さんってBUCK-TICK聴くんすか?」
こういう人には回りくどく話を切り出すよりは
ド直球だろう、僕の本能がそう察知した。
一瞬考え込むような素振りを見せた陽菜子は
こう言った。
「新しいの、どの曲が好き?」
「えーっと、『My Funny Valentine』っすね」
「そっかぁ?『M.A.D』は?」
「いいっすよね!ライブで盛り上がりそう!」
「あたし、ビデオ持ってるよ『M.A.D』貸してあげよっか?…って持ってるかぁ?」
僕だってファンの端くれ
そのミュージックビデオ、本当は持っていた…
が、しかし、ここはひと芝居…
「え?マジっすか?いいんです?」
「いいよ、明日持ってきてあげる」
僕はすっかり舞い上がっていた
ジョッキーで誰とも馴染んでいなかったあの陽菜子と
こうしてコンタクトを取っていることに。
その翌日
「2番行きまーす」
それが合言葉だった、
僕が喫煙室に入るとすぐにドアをノックする音が
「はい」
「ナカムラ!はいよ」」
無造作に投げ捨てるような素振りで
陽菜子がビデオを手渡してくれた。
「あっ!もう!投げちゃダメっすよ!」
「返すのいつでもいいから」
会話はそれだけだった。
その数日後、出勤した僕は
「ありがとございましたー、いつ渡しましょか?」
「あ、あのタバコの部屋に置いてていいから」
「喫煙室っすね」
そして僕は陽菜子より先に2番へ行き
喫煙室のテーブルに借りていたビデオと
その上にマルボロを1箱置いた。
陽菜子が喫っていた煙草は白と赤のデザイン
そう、あの有名なF1チームのマシンと同じだったから
すぐにわかった。
この日仕事を終えて帰ろうとすると
「ナカムラっ!ちょっと、ちょっと」
陽菜子に呼び止められた。
「どしたの?タバコなんか置いて」
「あ、あれ、ヒナさんが喫ってるタバコ、これだったなって思ったから」
「ナカムラー!いいとこあるじゃん、あんた!」
そう言って陽菜子は僕の肩に腕を回した、
その時、舞よりも更に随分控えめな
陽菜子の胸の膨らみと心地よい芳香が
僕の五感をやんわりと刺激した。
「ん?」
「な、何ですか?」
「さっきあんた、あたしのことヒナさんて呼んだでしょ?」
「え?あ、あ、そうでした?」
「よし!今日は飲みに行くか!」
「あ、いや、バイクどうすんすか?」
「んなもん、酔いが覚めてから乗りゃいいんだよ」
断る理由はなかった…
アルバイトに行き始めてからは舞も
僕が疲れてるだろうと気にかけて
電話をかけてくることもなかったから
帰宅時間を気にすることもない。
「そんじゃ行きましょか」
「お!じゃ、ついておいで」
まさかこんな展開になるなんて
誰が予想しただろうか?
きっと神様だってこんな筋書きは準備してなかった…
はずだ。
決して高校時代の元カノ、沙弥香に似ているから
陽菜子と話がしたいわけではない
純粋に音楽の話をしたいだけだった、
それなら舞だってきっと怒らないだろう。
とは言え、どのタイミングで会話をするか
そのことばかり考えていると
「2番行ってきます」
蚊の泣くような陽菜子の声がした。
「2番」とは職場用語で「休憩」を意味する
ならば彼女が行く先は少し外れにある喫煙室だろう
ホールと洗い場の休憩時間は意外と被ることが多く
タイミングも不自然ではない。
「あ、俺、ちょっと2番行きます」
僕もそそくさと休憩に入り
小さく深呼吸をすると陽菜子がいるであろう
喫煙室へと歩を進めた。
コンコンッ!
小さくノックをすると中から
「はい」
小さな声で返事がした、間違いない。
「あ、南波さん、休憩中にすいませんー」
「あれ?ナカムラ?何で?どしたの?あんた煙草喫うんだった?」
先ほどまで能面のような表情で
ホールを歩いていた陽菜子とは
まるで別人の笑顔で迎えられた。
「あ、いや、南波さんいるかなと思いまして」
「どしたの?こんな煙たい部屋に来て」
「あ…南波さんってBUCK-TICK聴くんすか?」
こういう人には回りくどく話を切り出すよりは
ド直球だろう、僕の本能がそう察知した。
一瞬考え込むような素振りを見せた陽菜子は
こう言った。
「新しいの、どの曲が好き?」
「えーっと、『My Funny Valentine』っすね」
「そっかぁ?『M.A.D』は?」
「いいっすよね!ライブで盛り上がりそう!」
「あたし、ビデオ持ってるよ『M.A.D』貸してあげよっか?…って持ってるかぁ?」
僕だってファンの端くれ
そのミュージックビデオ、本当は持っていた…
が、しかし、ここはひと芝居…
「え?マジっすか?いいんです?」
「いいよ、明日持ってきてあげる」
僕はすっかり舞い上がっていた
ジョッキーで誰とも馴染んでいなかったあの陽菜子と
こうしてコンタクトを取っていることに。
その翌日
「2番行きまーす」
それが合言葉だった、
僕が喫煙室に入るとすぐにドアをノックする音が
「はい」
「ナカムラ!はいよ」」
無造作に投げ捨てるような素振りで
陽菜子がビデオを手渡してくれた。
「あっ!もう!投げちゃダメっすよ!」
「返すのいつでもいいから」
会話はそれだけだった。
その数日後、出勤した僕は
「ありがとございましたー、いつ渡しましょか?」
「あ、あのタバコの部屋に置いてていいから」
「喫煙室っすね」
そして僕は陽菜子より先に2番へ行き
喫煙室のテーブルに借りていたビデオと
その上にマルボロを1箱置いた。
陽菜子が喫っていた煙草は白と赤のデザイン
そう、あの有名なF1チームのマシンと同じだったから
すぐにわかった。
この日仕事を終えて帰ろうとすると
「ナカムラっ!ちょっと、ちょっと」
陽菜子に呼び止められた。
「どしたの?タバコなんか置いて」
「あ、あれ、ヒナさんが喫ってるタバコ、これだったなって思ったから」
「ナカムラー!いいとこあるじゃん、あんた!」
そう言って陽菜子は僕の肩に腕を回した、
その時、舞よりも更に随分控えめな
陽菜子の胸の膨らみと心地よい芳香が
僕の五感をやんわりと刺激した。
「ん?」
「な、何ですか?」
「さっきあんた、あたしのことヒナさんて呼んだでしょ?」
「え?あ、あ、そうでした?」
「よし!今日は飲みに行くか!」
「あ、いや、バイクどうすんすか?」
「んなもん、酔いが覚めてから乗りゃいいんだよ」
断る理由はなかった…
アルバイトに行き始めてからは舞も
僕が疲れてるだろうと気にかけて
電話をかけてくることもなかったから
帰宅時間を気にすることもない。
「そんじゃ行きましょか」
「お!じゃ、ついておいで」
まさかこんな展開になるなんて
誰が予想しただろうか?
きっと神様だってこんな筋書きは準備してなかった…
はずだ。
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