僕とあの娘

みつ光男

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第19章.  TABOO

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 確かに陽菜子の言う通りに
彼女はバイト先では誰ともほとんど会話をしない
無論、僕もそのひとりだ。

ジョッキーでアルバイトを始めて
2ヶ月ほど過ぎたある日のこと

陽菜子が公休日だったからか
その場にいない彼女のことが職場で話題に上がった。

 まずは女性パートの福本さんが切り出した
そこに男性アルバイトの門脇さんが加わる。

「南波さん、今日お休みでしょ?何でか知ってる?」

「さあ、デートじゃないの?」

「いや彼氏いるなんて聞いたことないけど」

「え?福本さん、何でそんなに詳しいんすか?」

「新人くん、知らないと思うけど私、とは仲良しでさ」

「ひ、ひ、ひなちゃ…って!南波さんのこと?」

「あの娘、私の娘と同い年でね、それも娘と同じバンドのファンなの」

「え!マジですか?」

「新人くんも茶髪だからバンドマンなんじゃない?」

僕はここでアルバイトが決まってから
毛染めをして黒くしたのだが

ブリーチをしているせいで色落ちしたら
すぐに明るい茶髪に戻ってしまう

店長には地毛だとバレバレな言い訳をしていたが
何故か咎められることはなかった。

「あ、まあそれなりですけど、何聴くんすかね?南波さん」

「BUCK-TICKって知ってる?」

「し、知ってるも何も俺、ちょっと前までそのバンドのコピーしてましたよ!」

「へえ、そうなの?そんじゃひなちゃと話が合うんじゃない?私、伝えてあげよっか?」

「あ、あ、大丈夫っす、また聞いてみます」

少し間を置いて福本さんは陽菜子が今日
休みを取った理由を教えてくれた。

それは僕が驚くべき内容だった。

陽菜子が今日、休みを取っている理由

「今日ね、BUCK-TICKのライブ行くから、らしいよ」

「え!そうなんですか?じゃ、その話題なら会話出来るかなぁ?」

「さあね、あんま愛想なさげだからね」

「じゃ、俺も聞いてみようかな」

「あ、門脇くんは無理、話が合わなきゃ取り合ってくれないよ」

「何だよ、俺だって少しは知ってるぞ」

「その上っ面だけ、みたいなのをあの娘、一番嫌がるから」

「あ~あ、それじゃ脈なしだな」

「つ、付き合う気でいたんすか?門脇さん?」

「意外とかわいいだろ?中村くんはどう思う?」

「は、はい!それは認めます、でも俺は彼女が…」

「いるの?」

「はい!」

「いるの?」

「はい、います!」

「あぁ今どきの若いもんは…早いなぁ」

「いやいやそれ歳、関係ないから。門脇くんがモテないだけ」

「厳しいー!」

 後半の二人の会話などほとんど耳に入らなかった
少しマニアックなバンドの話を
共有できない寂しさは誰にも理解できないだろう。

現に彼女である舞ですら
BUCK-TICKの音楽性にはさほど興味がないらしく

話題として登場することはほとんど無い。

それがこんなにも身近に同じ境遇の人がいるなんて…

少し仕事に慣れてきて
翌日の出勤が億劫になりかけていた僕だったが

出勤するのが楽しみにすらなってきた。

ただ問題は…
どのタイミングでその話題を切り出そうか?

どこで話しかける?

果たして僕がそのバンドのファンであることに
賛同してくれるのか?

問題は山積していたが音楽と言う共通言語は
そんな壁も取り払ってくれるだろう

僕は陽菜子のことをひとりの女子としてではなく

共通の嗜好を持った"同志"のような感覚で
明日はその話題をしてみよう、

そう思いながら家路を急いだ。
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