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第19章. TABOO
【あの娘】
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確かに門限があると舞と過ごす時間は
制約されてしまう
ならば一人暮らしを始めて部屋を行き来するのも
ひとつの案だ
まだ今は二人で暮らせる立場ではないわけだし。
そんなことを考えながら僕はバスの後部座席に
のんびり腰掛けてバイト先へと向かっていた。
"初日"があまり忙しくない火曜日だったのは
おそらくあの髪の薄い店長の計らいだったのだろう
洗い場に戻ってくる皿やジョッキの数は
素人の僕でも十分こなせるほどの数で
空き時間には料理長や他のパートの人たちと
話す余裕すらあった。
「どう?続きそう?」
寛は僕を心配してか休みなのに
わざわざ来店して声をかけてくれ
軽く夕食を済ませて帰っていった。
22時になりようやく5時間の皿洗いから解放され
すっかりふやけてしまった指先をさすりながら
タイムカードを押しに事務所に入ろうとした時
ふと目の前のドアが開きそのドアが僕の額を直撃した。
「あ、いてててて」
「あ、大丈夫?」
消え入りそうな声と共に僕を心配げに見上げたのは
南波陽菜子
そう、僕の高校時代の彼女
沙弥香と瓜二つの女性だった。
「あ、俺は大丈夫です、南波さんは…大丈夫ですか?」
「え?ちょっとあんた、何であたしの名前知ってんの?」
そう言えばバイト初日でこの日会話もなかった
彼女の名前を知っているのはあまりにも不自然だった。
茶色に染められたロングヘアーが
可愛らしく三編みに結ばれている
そして濃いめのアイラインと
明るい光沢の口紅、と言うド派手なメイク
そんな少しいかつい雰囲気の陽菜子に話しかけられ
僕は萎縮してしまった。
「あ、実はですね…」
恐る恐る事情を説明する
「ふふっ、そう言うことね、坂上くんの友達なんだ?」
事情を話すと陽菜子はようやく笑顔を見せた。
「評判悪いでしょ?あたし、ま、こんなナリだしね」
「あ、いや、でも、接客とかめっちゃ対応いいと思います」
「あれ?見てたの?何で?」
「ま、何と言うか視界に入っちゃいまして、ですね」
「あは、そうなんだ」
いささか拍子抜けした・・・
寛からは間違いなく元ヤンだから
話しかけるのにも勇気が要ると聞いていたので
以外にも気さくな先輩だったことに少し安心した。
「もう帰んの?」
「あ、はい、帰りは電車なんで駅まで」
「そう、あたしも駅に原チャ停めてるから…」
「原チャ…?」
「あ、バイクのことだよ、あたし原付で来てるからさ」
「そうなんすね」
「じゃ駅まで一緒に行こっか」
舞と付き合い始めてから
あのふわふわした雰囲気に慣れてしまったのか
陽菜子のあまりにも強面な喋り方や
振る舞いに少し押され気味だった。
「じゃ、おつかれ!」
「あ、おつかれさまです」
「続きそう?」
「そうすね、多分大丈夫…」
「そっか…がんばって」
バイクに腰かけた陽菜子は
ポケットから煙草を取り出して
おもむろに火を点け煙を吐き出した。
きょとんとする僕に向かって
「どしたの?びっくりした顔して」
「あ、いや、何か…カッコいいなと思って」
「はは、そんなこと言われたの初めて」
「いや、マジでカッコいいすわ」
「でもさ」
ー あそこではきっと愛想のない
ヤンキーだと思われるはずだから
「あ、『ジョッキー』の中では?」
「仕事場ではあんまあんたとも喋んないよ」
「あ、わかりました」
「じゃまた明日ね、明日も来るんでしょ?」
「は、はい、明日もバイトっす」
「おつかれー!」
そう言うと陽菜子はバイクをふかして
夜の街へ消えていった。
不思議な人だ
これまで会ったことのないタイプの女性の登場に
妙な胸の高まりを感じずにはいられなかった。
制約されてしまう
ならば一人暮らしを始めて部屋を行き来するのも
ひとつの案だ
まだ今は二人で暮らせる立場ではないわけだし。
そんなことを考えながら僕はバスの後部座席に
のんびり腰掛けてバイト先へと向かっていた。
"初日"があまり忙しくない火曜日だったのは
おそらくあの髪の薄い店長の計らいだったのだろう
洗い場に戻ってくる皿やジョッキの数は
素人の僕でも十分こなせるほどの数で
空き時間には料理長や他のパートの人たちと
話す余裕すらあった。
「どう?続きそう?」
寛は僕を心配してか休みなのに
わざわざ来店して声をかけてくれ
軽く夕食を済ませて帰っていった。
22時になりようやく5時間の皿洗いから解放され
すっかりふやけてしまった指先をさすりながら
タイムカードを押しに事務所に入ろうとした時
ふと目の前のドアが開きそのドアが僕の額を直撃した。
「あ、いてててて」
「あ、大丈夫?」
消え入りそうな声と共に僕を心配げに見上げたのは
南波陽菜子
そう、僕の高校時代の彼女
沙弥香と瓜二つの女性だった。
「あ、俺は大丈夫です、南波さんは…大丈夫ですか?」
「え?ちょっとあんた、何であたしの名前知ってんの?」
そう言えばバイト初日でこの日会話もなかった
彼女の名前を知っているのはあまりにも不自然だった。
茶色に染められたロングヘアーが
可愛らしく三編みに結ばれている
そして濃いめのアイラインと
明るい光沢の口紅、と言うド派手なメイク
そんな少しいかつい雰囲気の陽菜子に話しかけられ
僕は萎縮してしまった。
「あ、実はですね…」
恐る恐る事情を説明する
「ふふっ、そう言うことね、坂上くんの友達なんだ?」
事情を話すと陽菜子はようやく笑顔を見せた。
「評判悪いでしょ?あたし、ま、こんなナリだしね」
「あ、いや、でも、接客とかめっちゃ対応いいと思います」
「あれ?見てたの?何で?」
「ま、何と言うか視界に入っちゃいまして、ですね」
「あは、そうなんだ」
いささか拍子抜けした・・・
寛からは間違いなく元ヤンだから
話しかけるのにも勇気が要ると聞いていたので
以外にも気さくな先輩だったことに少し安心した。
「もう帰んの?」
「あ、はい、帰りは電車なんで駅まで」
「そう、あたしも駅に原チャ停めてるから…」
「原チャ…?」
「あ、バイクのことだよ、あたし原付で来てるからさ」
「そうなんすね」
「じゃ駅まで一緒に行こっか」
舞と付き合い始めてから
あのふわふわした雰囲気に慣れてしまったのか
陽菜子のあまりにも強面な喋り方や
振る舞いに少し押され気味だった。
「じゃ、おつかれ!」
「あ、おつかれさまです」
「続きそう?」
「そうすね、多分大丈夫…」
「そっか…がんばって」
バイクに腰かけた陽菜子は
ポケットから煙草を取り出して
おもむろに火を点け煙を吐き出した。
きょとんとする僕に向かって
「どしたの?びっくりした顔して」
「あ、いや、何か…カッコいいなと思って」
「はは、そんなこと言われたの初めて」
「いや、マジでカッコいいすわ」
「でもさ」
ー あそこではきっと愛想のない
ヤンキーだと思われるはずだから
「あ、『ジョッキー』の中では?」
「仕事場ではあんまあんたとも喋んないよ」
「あ、わかりました」
「じゃまた明日ね、明日も来るんでしょ?」
「は、はい、明日もバイトっす」
「おつかれー!」
そう言うと陽菜子はバイクをふかして
夜の街へ消えていった。
不思議な人だ
これまで会ったことのないタイプの女性の登場に
妙な胸の高まりを感じずにはいられなかった。
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