僕とあの娘

みつ光男

文字の大きさ
上 下
88 / 129
第18章.  A Little Piece of Heaven

【ほんとのはじめて】

しおりを挟む
 シーツの奥から聞こえる舞の声は
心なしか涙で滲んでいるように思える。

「舞、どうしたんだよ?何かイヤなことでもあった?」

「コウイチくん…もう、、わかってるよね?」

「え?何が?」

「わたし、わたし、うぅぅ…」

舞は大粒の涙を流しながら泣き崩れた。

「怒ってるよ…ね?」

「どうしたんだよ、怒ってないから何があったか話してくれよ」

「わたし、わたし、じゃないこと…わかった…よね?」

そう言うことか…

思いの外スムーズに挿入出来たのも
終わった後にシーツが朱に染まらなかったのも

舞が初体験じゃないから、ってことか。

「何だよ、何事かと思ったら」

「えっ?」

「舞の過去を問い詰めたりしないよ」

「お、怒らないの?」

「何で?舞は俺とは初めて、それでいいんだよ」

「な、何で?」

「だって人生、いろいろあるから」

「コウイチ…くん」

しばらく舞は僕の胸の中で泣き続けていた。

泣くことで過去の恋愛を清算するのなら
それでいいじゃないか

「でもね…」

「うん」

「もしも俺と付き合い始めてからの体験だったら怒るよ」

「うぅん、それはないよ、実はね…」

ー 高校の時に付き合ってた先輩がいて
ある時、半ば強引にそんなことされて…

「凄く痛かったの」

「そうなんだ、下手くそなんだね、その先輩」

「ふふ」

だからコウイチくんとの時にも痛かったら
せっかく結ばれるのに何か辛いな、ってのと

初めてじゃないのがバレたら…
絶対に嫌われちゃうと思った

付き合い始めて何ヶ月も経つのにね
いつまでもそんな関係にならないなら
そのうち嫌われるかも、って思ったし

過去を知られると、それもまた怖いし

「それで悩んでたんだ」

「うん」

ー 大丈夫だよ、
過去も全部オレで上書きしちゃえばいいよ

「ありがとうコウイチくん」

その時心から思った
亮二の件で予行演習しといてよかった、と。

もしもあの話を聞いてなかったら
僕はこんな寛大になれてただろうか?

ようやく舞にいつもの笑顔が戻った、その時

グゥ~…

体は正直だ、二人とも空腹が限界まで来ていた。

「コウイチくん、お昼何にする?」

「そうだなぁ、ここで頼めるなら楽だね」

「たくさん頼んじゃう?」

物珍しそうに二人でメニュー表を覗きこむ。

「じゃ、これとこれとこれで!」

「えー!そんなに食べれるかな?」

「大丈夫、舞が食べきれなかったら俺が全部食べるから」

「そっか、コウイチくんなら大丈夫だね」

 部屋を妖しく照らすあでやかなライトの色など
気にもならないほどに僕たちは普段のままだった。

これまでの激しさと切なさが同居したような
重苦しい時間はそこにはもう無かった。

「わたしたち、この部屋に何時までいていいのかな?」

「えっとね、さっき確認したら20時まではフリータイムなんだって」

「じゃ、それまでゆっくりしてっていい?」

「いいよ、舞が最終に間に合う時間で」

「やったぁ!」

時計はまだお昼を少しまわったばかり

 空腹が満たされた僕たちは
また当たり前のように何度も求め合った

これまで貯め込んできた想いを
この日全てお互いの体で確かめ合うかのように。

誰の目を憚る必要もなく、ありのまま
生まれたままの姿で僕たちは何度も何度もひとつになる

この部屋はまるで小さな天国と化していた。

その中でわかったことは

僕の舞に対する揺るぎなき想いと
舞の僕へ対する愛情の深さだった。

ベッドの上でたくさん語り合いそしてまた愛し合う…
気付けばもう舞を送っていく時間が
少しずつ近づいていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

流星の徒花

柴野日向
ライト文芸
若葉町に住む中学生の雨宮翔太は、通い詰めている食堂で転校生の榎本凛と出会った。 明るい少女に対し初めは興味を持たない翔太だったが、互いに重い運命を背負っていることを知り、次第に惹かれ合っていく。 残酷な境遇に抗いつつ懸命に咲き続ける徒花が、いつしか流星となるまでの物語。

もしもしお時間いいですか?

ベアりんぐ
ライト文芸
 日常の中に漠然とした不安を抱えていた中学1年の智樹は、誰か知らない人との繋がりを求めて、深夜に知らない番号へと電話をしていた……そんな中、繋がった同い年の少女ハルと毎日通話をしていると、ハルがある提案をした……。  2人の繋がりの中にある感情を、1人の視点から紡いでいく物語の果てに、一体彼らは何をみるのか。彼らの想いはどこへ向かっていくのか。彼の数年間を、見えないレールに乗せて——。 ※こちらカクヨム、小説家になろう、Nola、PageMekuでも掲載しています。

僕とメロス

廃墟文藝部
ライト文芸
「昔、僕の友達に、メロスにそっくりの男がいた。本名は、あえて語らないでおこう。この平成の世に生まれた彼は、時代にそぐわない理想論と正義を語り、その言葉に負けない行動力と志を持ち合わせていた。そこからついたあだ名がメロス。しかしその名は、単なるあだ名ではなく、まさしく彼そのものを表す名前であった」 二年前にこの世を去った僕の親友メロス。 死んだはずの彼から手紙が届いたところから物語は始まる。 手紙の差出人をつきとめるために、僕は、二年前……メロスと共にやっていた映像団体の仲間たちと再会する。料理人の麻子。写真家の悠香。作曲家の樹。そして画家で、当時メロスと交際していた少女、絆。 奇数章で現在、偶数章で過去の話が並行して描かれる全九章の長編小説。 さて、どうしてメロスは死んだのか?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~

海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。 そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。 そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

処理中です...