僕とあの娘

みつ光男

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第17章.  愛です

【アイノカタチ】

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「帰ろっか…」
「…そうだね」

いつもなら釣れるまでもう少し粘る舞だが
今日は違った

「お昼は?」
「帰ってからでいいかな」

クーラーボックスが空っぽだったのは
かえって好都合だった

一旦下宿に戻ってわざわざ魚を捌く必要もない。

そしてもうひとつの理由は・・・

 いつものように舞を後部座席に乗せての帰り道
僕はある場所で自転車を止めた。

昼間だと言うのに派手な電飾が
せわしなく点滅しているそこは…

「・・・舞?」
「ここ…にするの?」

下宿の目と鼻の先にある
"Coast In" なる名前のホテルだった。

普段なら舞と歩く時ですら
気に留めることのないこの建物

今日はその前に立つだけで鼓動が高鳴る。

「あ…釣り道具、置いてからにしよう…か?」

「うぅん、入ろ」

 舞に促される形で僕たちは人目を気にしながら
ホテルの中へ一歩、足を踏み入れた。

「へぇ~、こんな感じなんだぁ」

舞は不思議そうに周りを見渡す。

パネル形式で展示されている部屋を見ながら
舞が考え込んでいた。

「お客様、お部屋はお決まりですかー?」

「もぅ、何言ってんの、コウイチくんも一緒に見ようよ」

このやり取り…美波とホテルに行った時

正に美波から言われたのと同じ言葉を僕は口にした…

そんな自分に少しだけ後悔した。


「ねぇ見て見て!この部屋ジャグジーついてるって!」

「舞、こっちはミニサウナがあるよ」

「悩むなぁ」

「さぁ、どうしよっか?」

結局、僕たちはジャグジーのついている
3階の部屋に決めた。

しかしどこのホテルも同じだ
揃いも揃ってどうしてこんなにエレベーターが
狭いのだろう?

この時間にお互いの体を密着し合うことで
より気持ちを高めるためなのだろうか?

「ねぇ、コウイチくん!ここご飯も食べれるって!」

どうも舞の方は 
別の意味で気持ちが高まっているようだ。

そんな無邪気な子供っぽさこそ
舞の魅力のひとつでもあるのだが。

「あ、『おもちゃあります』だって、ここで遊ぶ人いるのかな?」

「ぶっ!」

「あれっ?どうしたの?」

ー おもちゃはおもちゃでも
それはおもちゃだよ…

そう思ったが口にしなかった。

調子が狂う、と言うわけではないが
舞が一緒だとこんな艶っぽい空間ですら
レジャー施設のように思えるから不思議だ。

無駄に広い廊下を少し歩くと
ルームキーに書かれた312空室の前に来た。

「さっ、入ろうか」
「うん」

部屋に入ってもまだほんわりとした
穏やかな雰囲気は抜けきらなかった。

矢も盾もたまらず僕は
舞を後ろからそっと抱きしめた

舞は抵抗する素振りも見せず
僕の腕の中に包まれたまま

二人はもつれ合うようにベッドへと転がり込んだ。
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