僕とあの娘

みつ光男

文字の大きさ
上 下
84 / 129
第17章.  愛です

【アイノカタチ】

しおりを挟む
「帰ろっか…」
「…そうだね」

いつもなら釣れるまでもう少し粘る舞だが
今日は違った

「お昼は?」
「帰ってからでいいかな」

クーラーボックスが空っぽだったのは
かえって好都合だった

一旦下宿に戻ってわざわざ魚を捌く必要もない。

そしてもうひとつの理由は・・・

 いつものように舞を後部座席に乗せての帰り道
僕はある場所で自転車を止めた。

昼間だと言うのに派手な電飾が
せわしなく点滅しているそこは…

「・・・舞?」
「ここ…にするの?」

下宿の目と鼻の先にある
"Coast In" なる名前のホテルだった。

普段なら舞と歩く時ですら
気に留めることのないこの建物

今日はその前に立つだけで鼓動が高鳴る。

「あ…釣り道具、置いてからにしよう…か?」

「うぅん、入ろ」

 舞に促される形で僕たちは人目を気にしながら
ホテルの中へ一歩、足を踏み入れた。

「へぇ~、こんな感じなんだぁ」

舞は不思議そうに周りを見渡す。

パネル形式で展示されている部屋を見ながら
舞が考え込んでいた。

「お客様、お部屋はお決まりですかー?」

「もぅ、何言ってんの、コウイチくんも一緒に見ようよ」

このやり取り…美波とホテルに行った時

正に美波から言われたのと同じ言葉を僕は口にした…

そんな自分に少しだけ後悔した。


「ねぇ見て見て!この部屋ジャグジーついてるって!」

「舞、こっちはミニサウナがあるよ」

「悩むなぁ」

「さぁ、どうしよっか?」

結局、僕たちはジャグジーのついている
3階の部屋に決めた。

しかしどこのホテルも同じだ
揃いも揃ってどうしてこんなにエレベーターが
狭いのだろう?

この時間にお互いの体を密着し合うことで
より気持ちを高めるためなのだろうか?

「ねぇ、コウイチくん!ここご飯も食べれるって!」

どうも舞の方は 
別の意味で気持ちが高まっているようだ。

そんな無邪気な子供っぽさこそ
舞の魅力のひとつでもあるのだが。

「あ、『おもちゃあります』だって、ここで遊ぶ人いるのかな?」

「ぶっ!」

「あれっ?どうしたの?」

ー おもちゃはおもちゃでも
それはおもちゃだよ…

そう思ったが口にしなかった。

調子が狂う、と言うわけではないが
舞が一緒だとこんな艶っぽい空間ですら
レジャー施設のように思えるから不思議だ。

無駄に広い廊下を少し歩くと
ルームキーに書かれた312空室の前に来た。

「さっ、入ろうか」
「うん」

部屋に入ってもまだほんわりとした
穏やかな雰囲気は抜けきらなかった。

矢も盾もたまらず僕は
舞を後ろからそっと抱きしめた

舞は抵抗する素振りも見せず
僕の腕の中に包まれたまま

二人はもつれ合うようにベッドへと転がり込んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

流星の徒花

柴野日向
ライト文芸
若葉町に住む中学生の雨宮翔太は、通い詰めている食堂で転校生の榎本凛と出会った。 明るい少女に対し初めは興味を持たない翔太だったが、互いに重い運命を背負っていることを知り、次第に惹かれ合っていく。 残酷な境遇に抗いつつ懸命に咲き続ける徒花が、いつしか流星となるまでの物語。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~

海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。 そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。 そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

瑞稀の季節

compo
ライト文芸
瑞稀は歩く 1人歩く 後ろから女子高生が車でついてくるけど

処理中です...