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第17章. 愛です
【何度めの海か】
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久しぶりに気持ちも空模様も晴れやかだ
ようやく訪れた"何事もない週末"
僕は舞と釣りに行くことにしていた。
前日の深夜から準備を始めたものだから
また寝不足の状態で舞と会うことになるのだが
それはいつものことだった。
釣りの日の朝は早い、
まだ薄暗い国道に始発バスが走り始めた頃
僕は舞が降りるバス停でぼんやり待っていた。
ほどなく明け方のまだ凛とした透明な空気の中、1台のバスが停車し舞が降りてきた。
「おはよ」
鈍感な僕でもいつもと違うのはすぐにわかった。
「お!似合ってるね、その麦わら」
「でしょ?だってコウイチくんと選んだ帽子だもん」
お洒落なお店ではなく何故か釣具屋で売られている
地味なデザインの麦わら帽子を
舞がしげしげと眺めていたので
「そんなにお気に入りなら買ってあげるよ」
「え、いいの?」
安価な麦わら帽子でここまで喜んでもらえるなら
帽子もさぞかし喜ぶことだろう。
「朝ごはんどうする?」
「海に着いてからでいいよ、道具も準備出来てるから」
「じゃ、行こ、コウイチくん」
僕は部屋に釣具を取りに戻り
舞は例の赤い自転車と共に玄関で待っていた。
「さぁ、行こうかー!」
「うん」
もう何度か釣りには行ってるのに
舞はいつでも子供のようにはしゃいでいる
釣り好きな僕はもちろんなのだが
まさか舞がここまでハマるとは思っていなかった。
朝マズメの大物狙い…
こうして僕たちの長い1日が始まった。
舞は仕掛けも自分で準備出来るようになった
その器用さと順応力にはいつも感心させられるが
やはり凄いのはその飽くなき探求心だろう。
とにかく興味が芽生えたら
それなりに究めないと気が済まない性格のようだ
これは舞と付き合い始めて知った
新しい発見でもあった。
…なるほど、あの日僕が舞からされた
あんなことやこんなことも
きっと何かしらの手段で学んだのだろう。
もしかしたら咲良と二人で
そんなビデオを観て研究したのかも知れない。
そして今日、舞は大きな決意もしてきたはずだ
どのタイミングで僕がその方向に誘うか
そのシミュレーションを考えていたこともあり
なかなか眠りにつけなかったわけだ。
釣りはもちろん楽しいのだが
僕はそんなことも考えて悶々とした心境で
竿を投げていた…からか
釣れない…
全くと言っていいほどこの日は何も釣れない、
海の魚たちも
「今日はそれどころじゃないだろ」と
言わんばかりに全く針にかかることがないのだ。
「釣れないなぁ」
「そうだね」
「ご飯にする?」
「うん、わたしおなかすいてきちゃった」
「じゃ、ちょうどいいね」
「うん」
おそらく二人とも本心は釣りどころではないようだ。
ようやく訪れた"何事もない週末"
僕は舞と釣りに行くことにしていた。
前日の深夜から準備を始めたものだから
また寝不足の状態で舞と会うことになるのだが
それはいつものことだった。
釣りの日の朝は早い、
まだ薄暗い国道に始発バスが走り始めた頃
僕は舞が降りるバス停でぼんやり待っていた。
ほどなく明け方のまだ凛とした透明な空気の中、1台のバスが停車し舞が降りてきた。
「おはよ」
鈍感な僕でもいつもと違うのはすぐにわかった。
「お!似合ってるね、その麦わら」
「でしょ?だってコウイチくんと選んだ帽子だもん」
お洒落なお店ではなく何故か釣具屋で売られている
地味なデザインの麦わら帽子を
舞がしげしげと眺めていたので
「そんなにお気に入りなら買ってあげるよ」
「え、いいの?」
安価な麦わら帽子でここまで喜んでもらえるなら
帽子もさぞかし喜ぶことだろう。
「朝ごはんどうする?」
「海に着いてからでいいよ、道具も準備出来てるから」
「じゃ、行こ、コウイチくん」
僕は部屋に釣具を取りに戻り
舞は例の赤い自転車と共に玄関で待っていた。
「さぁ、行こうかー!」
「うん」
もう何度か釣りには行ってるのに
舞はいつでも子供のようにはしゃいでいる
釣り好きな僕はもちろんなのだが
まさか舞がここまでハマるとは思っていなかった。
朝マズメの大物狙い…
こうして僕たちの長い1日が始まった。
舞は仕掛けも自分で準備出来るようになった
その器用さと順応力にはいつも感心させられるが
やはり凄いのはその飽くなき探求心だろう。
とにかく興味が芽生えたら
それなりに究めないと気が済まない性格のようだ
これは舞と付き合い始めて知った
新しい発見でもあった。
…なるほど、あの日僕が舞からされた
あんなことやこんなことも
きっと何かしらの手段で学んだのだろう。
もしかしたら咲良と二人で
そんなビデオを観て研究したのかも知れない。
そして今日、舞は大きな決意もしてきたはずだ
どのタイミングで僕がその方向に誘うか
そのシミュレーションを考えていたこともあり
なかなか眠りにつけなかったわけだ。
釣りはもちろん楽しいのだが
僕はそんなことも考えて悶々とした心境で
竿を投げていた…からか
釣れない…
全くと言っていいほどこの日は何も釣れない、
海の魚たちも
「今日はそれどころじゃないだろ」と
言わんばかりに全く針にかかることがないのだ。
「釣れないなぁ」
「そうだね」
「ご飯にする?」
「うん、わたしおなかすいてきちゃった」
「じゃ、ちょうどいいね」
「うん」
おそらく二人とも本心は釣りどころではないようだ。
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