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第13章. スパイダー
【The Midnight Things】
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この街は何故かとても坂が多い
玉の湯から下宿へ戻るこの短い道ですら
なだらかな上り坂になっている。
街灯に照らされた二人の影のひとつが
漆黒のアスファルトの上で跳ねるように揺れる
小走りの咲良は僕の前を飛ぶように歩きながら
"♪初めての 口づけは 君が帰る坂の途中で
唇に触れただけの おやすみのキス~♪ "
そんな歌を口ずさんでいた。
「へぇ、よく知ってるね?バンド聴くの?」
「まぁね、元カレが結構バンド好きでさ」
「そっかぁ、音楽って聴くとその頃のこと…」
「思い出すよね!それわかるわかる!」
「何か前も思ったけど…」
「近いよね、感覚が」
舞には悪いがこう言う点において
咲良と共感するポイントがとても近いのは
やはり僕と咲良が似た者同士だからなのだろうか?
だからこそ咲良と気が合う舞は
僕といることに心地よさを感じているのだろう
「うちらは似すぎてて…」
「逆に合わないっていうか、、」
「近親憎悪みたいなの、ね」
咲良の言う通り、あまりにも感覚が近すぎて
それがプラスのことなら問題ないが
マイナスな部分だと耐えきれなくなるのだろう。
それにしても趣味や嗜好はかなり近いので
もしも咲良が同性ならば
大親友になっていたかも知れない。
話の続きは下宿に帰ってからも続いた
むしろこれは好都合だった
色んな話題で話をしている方が
艶っぽい雰囲気にはならないだろう。
沈黙は要注意だ
あと咲良がまるでクモの巣のように
無意識に張り巡らせるトラップに
足を突っ込まないようにしなければ。
とは言え、舞のことを
惜しみなく話してくれる咲良には
これまで以上に大きな信頼感が育まれていった。
男女同室ながら特に妖しいムードになることもなく
時間は既に深夜12時になっていた。
咲良は買ってきたビールでほろ酔いだし
僕も当初と比べるととても穏やかな心境で
時を過ごしていた。
そして12時半になった。
「俺は床にタオルケット敷いて寝るから
さくちゃんはベッドで寝ていいよ」
「え~、一緒に寝ようよー」
「キミはバカじゃないのか、隣に寝てたら変なことするからな、俺は!」
「またまた~、そんなのしないでしょ、絶対に」
どうもペースが崩される。
僕はある程度の距離感を保つため
ベッドから降りて座椅子に腰かけてテレビを観ていた。
「あ、そぉお?じゃ、うちはぁ、これでぇ、寝るから、ねぇ…」
「さくちゃん、飲み過ぎじゃない?明日
実習だろ?早く寝た方がいいよ」
「うん、おやすみぃ~」
ほどなく咲良はスースーと淡い寝息を立てながら
眠りについた。
後は朝まで何事もなければ咲良を送り出して
万事つつがなく一夜が明ける。
そこからは
別々にお互い学校と実習に行けばいいだけだ。
が、しかし
眠れない・・・
当たり前だ、この二日間僕は
体調不良のせいでそのほとんどを寝て過ごしていた。
眠れるわけがない。
まんじりともせず時間だけが過ぎて
その意識は全く薄れることはない。
仕方ない
僕は寝ている咲良には悪いと思いながら
テレビのスイッチを入れた
その瞬間、テレビから聞き覚えのある
テーマ曲が流れ始めた…
エマーソン・レイク・アンド・パウエルの
「ザ・スコアー」
深夜のプロレス放送が始まったのだ。
ー あ、これ観てから寝ることにしよう
そう思ってベッドの脇に腰掛けた。
すると咲良は寝返りを打ったのだろうか?
ベッドがギシギシときしむ音がした
その刹那
すぐ近くに人の気配を感じた。
しかも背中に何だかとても柔らかな感触を覚える。
「あ、プロレスだぁ!」
身を乗り出した咲良が僕に寄りかかっていて
その決して小さくはない二つの胸が
僕の背中にその体温と鼓動を伝えていた。
玉の湯から下宿へ戻るこの短い道ですら
なだらかな上り坂になっている。
街灯に照らされた二人の影のひとつが
漆黒のアスファルトの上で跳ねるように揺れる
小走りの咲良は僕の前を飛ぶように歩きながら
"♪初めての 口づけは 君が帰る坂の途中で
唇に触れただけの おやすみのキス~♪ "
そんな歌を口ずさんでいた。
「へぇ、よく知ってるね?バンド聴くの?」
「まぁね、元カレが結構バンド好きでさ」
「そっかぁ、音楽って聴くとその頃のこと…」
「思い出すよね!それわかるわかる!」
「何か前も思ったけど…」
「近いよね、感覚が」
舞には悪いがこう言う点において
咲良と共感するポイントがとても近いのは
やはり僕と咲良が似た者同士だからなのだろうか?
だからこそ咲良と気が合う舞は
僕といることに心地よさを感じているのだろう
「うちらは似すぎてて…」
「逆に合わないっていうか、、」
「近親憎悪みたいなの、ね」
咲良の言う通り、あまりにも感覚が近すぎて
それがプラスのことなら問題ないが
マイナスな部分だと耐えきれなくなるのだろう。
それにしても趣味や嗜好はかなり近いので
もしも咲良が同性ならば
大親友になっていたかも知れない。
話の続きは下宿に帰ってからも続いた
むしろこれは好都合だった
色んな話題で話をしている方が
艶っぽい雰囲気にはならないだろう。
沈黙は要注意だ
あと咲良がまるでクモの巣のように
無意識に張り巡らせるトラップに
足を突っ込まないようにしなければ。
とは言え、舞のことを
惜しみなく話してくれる咲良には
これまで以上に大きな信頼感が育まれていった。
男女同室ながら特に妖しいムードになることもなく
時間は既に深夜12時になっていた。
咲良は買ってきたビールでほろ酔いだし
僕も当初と比べるととても穏やかな心境で
時を過ごしていた。
そして12時半になった。
「俺は床にタオルケット敷いて寝るから
さくちゃんはベッドで寝ていいよ」
「え~、一緒に寝ようよー」
「キミはバカじゃないのか、隣に寝てたら変なことするからな、俺は!」
「またまた~、そんなのしないでしょ、絶対に」
どうもペースが崩される。
僕はある程度の距離感を保つため
ベッドから降りて座椅子に腰かけてテレビを観ていた。
「あ、そぉお?じゃ、うちはぁ、これでぇ、寝るから、ねぇ…」
「さくちゃん、飲み過ぎじゃない?明日
実習だろ?早く寝た方がいいよ」
「うん、おやすみぃ~」
ほどなく咲良はスースーと淡い寝息を立てながら
眠りについた。
後は朝まで何事もなければ咲良を送り出して
万事つつがなく一夜が明ける。
そこからは
別々にお互い学校と実習に行けばいいだけだ。
が、しかし
眠れない・・・
当たり前だ、この二日間僕は
体調不良のせいでそのほとんどを寝て過ごしていた。
眠れるわけがない。
まんじりともせず時間だけが過ぎて
その意識は全く薄れることはない。
仕方ない
僕は寝ている咲良には悪いと思いながら
テレビのスイッチを入れた
その瞬間、テレビから聞き覚えのある
テーマ曲が流れ始めた…
エマーソン・レイク・アンド・パウエルの
「ザ・スコアー」
深夜のプロレス放送が始まったのだ。
ー あ、これ観てから寝ることにしよう
そう思ってベッドの脇に腰掛けた。
すると咲良は寝返りを打ったのだろうか?
ベッドがギシギシときしむ音がした
その刹那
すぐ近くに人の気配を感じた。
しかも背中に何だかとても柔らかな感触を覚える。
「あ、プロレスだぁ!」
身を乗り出した咲良が僕に寄りかかっていて
その決して小さくはない二つの胸が
僕の背中にその体温と鼓動を伝えていた。
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