僕とあの娘

みつ光男

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第13章.  スパイダー

【長い夜】

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 しばらく憮然とした表情で
一言も喋らずにテレビを観る僕を見て

さすがに咲良も少し反省したようだ。

僕も少し気持ちが落ち着いたので

「どうするさくちゃん?送って行こうか」

すると咲良は

「でももうこんな時間だよ、寮に着いたら門限過ぎてるもん」

「じゃ、舞に連絡して・・・」

「いいのぉ?うちがここにいること、舞に知られても?」

間違いなく確信犯だ。

「鬼じゃないなぁ、悪魔だよ」

「こんな悪魔ならかわいいもんでしょ?」

「はぁ…何でだよ」

「悪意はないんだよ、ほんとこれだけは信じて」

そう言われるとさすがに女子を部屋から追い出して
ひとりのほほんと過ごすのは気が引ける。

「わかった、じゃあ俺は隣のシンちゃんの部屋で寝るから、さくちゃんはここで一人・・・」

「えー!!そんな冷たいこと言わないでよ、舞のこと何でも教えてあげるから!」

 これはもう逃げ切れない気がする
下手につれなくして舞衣に告げ口でもされたら

いやいやさすがに咲良もそこまでしないだろう
ならばどうする?

「わかったよ、じゃあここにいていいから、その代わりお互い節度を守って…」

「うん、合格!」

「合格?合格って?」

ー ちょっと試してみたの…

「え…試した?何を?」

ー ナカムラくんがほいほいと女の子
泊めるような人なら問題ありだなって。

「まさか舞も知ってるの?さくちゃんがここに…」

「あはは!知るわけないじゃん、だから・・・」

ー 今日のことは舞には内緒だよ

あの娘、素直すぎるから騙されたり
うまくしてやられたり

そんなの見てきてるからさ…

「あ、そう言う話が聞きたいんだよ」

「じゃ後でゆっくりと、ね」

何だかよくわからないがうやむやのうちに結局咲良は
僕の部屋で一晩過ごすことになった。

 何はさておきとにかくお風呂に入りたかった
寝込んでいる間、入ることが出来なかったので
かなりストレスになっていた。

「俺、お風呂入ってきていいかな?さくちゃんはどうする?」

「うちもお風呂入りたーい!」

さすがにこの下宿のお風呂を
咲良に使わせるわけにはいかない。

「歩いてすぐのとこに『玉の湯』って銭湯があるんだけど、そこに行く?」

「いいねぇ銭湯!行く行く!」

「じゃ、行ってらっしゃい」

「え~?一人で~?」

何で下宿に無料ただで入れるお風呂があるのに
わざわざ僕までも銭湯に…と思いつつ

結局、咲良に付き合って
玉の湯へ行くことになった。

 二人並んで歩くのはまだ抵抗がある
周囲の目と言うよりも舞に対する罪悪感のような感情

銭湯に到着するなり看板を見た咲良は

「『玉の湯』だってー!何かヤラしい名前だな」

「下ネタやめんかーい!」

舞と違う感覚に若干戸惑いながらも
この状況に飲み込まれないようにしなければ…

咲良はどちらかと言うと有香に近いタイプだ。

 何だか昔のフォークソングの歌詞のように
先にお風呂から出た僕は

咲良が出てくるまで涼みながら
銭湯の玄関で待っていた。

待つこと5分ほど

「お待たせ~!」

瓶入りのコーヒー牛乳を二本手にして
頬を紅潮させたすっぴんの咲良が現れた。

「ははは」

「え?うち見て笑ってるんだけど…何かおかしい?」

「すっぴんのさくちゃんは子供みたいだな」

「もう!これでも同い年なんだから!」

あどけない少年のようで天真爛漫な
"彼女の親友"はそう言ってふてくされた。

「そんなこと言う人にはこれあげない!」

頬を紅潮させながら
コーヒー牛肉を後ろに隠す咲良

「あ、ごめんごめん、からかったわけじゃないから」

「褒めてる?」

「どちらかと言えば」

「なーんか、不思議なシチュエーションだよねぇ」

ー その状況を作ったのはさくちゃんじゃないか…

そう言いたかったけど口にしなかった
いや、そう思いながら心のどこかで

こう感じていたのだろう。


悪くないかも…

咲良のペースにすっかり巻き込まれた僕は
遂にそんなことまで考え始めた。

長い夜が始まる・・・
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