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第12章. ささやかな誘惑
【あの日】
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「あ!コウイチくん?…大丈夫だった?」
「うん、俺の方こそ連絡できなくてごめん…」
「あ、ちょっとごめんね、またすぐかけ直すから」
ガチャン!
そう言うと舞はそそくさと電話を切った
受話器の向こう側が何となく騒がしい。
『何か』が起きているのは間違いない、
今は待つことしか出来ない僕は
痛む体を引きずって部屋に戻ろうとした。
すると電話の横の部屋のドアが開いた
出てきたのは1年の三浦だった。
「あ!中村さん!いたんですか?俺、てっきり帰ってないのかと思って…」
「お、2日ほど寝込んでたからな」
「たぶん…彼女さんですかね?ずっと電話がありましたよ、昨日なんて10回くらい」
「え?そうなのか?三浦、お前俺のこと呼びに来なかったのかよ?」
「あ、そう言うことなんすね、俺が『いないです』って言ったら何度も確認されたんすよねー」
「で?何て答えたんだ、三浦?」
「いやぁ『帰ってないんじゃないすか?』って」
「お前!バカじゃねえのか!ちゃんと確認しろよ!!俺はずっといたよ!この下宿に!」
「え、あ、すみません、呼んでも返事がなかったから、ですね」
「何でドア開けて確認しないんだよ、もうお前は電話番クビだ!」
シンちゃんなら部屋まで呼びに来てくれるし
同期の絆もあって信頼関係も成立している。
こんなちゃらんぽらんな男に任せていたら
繋がるものも繋がらなくなってしまう。
「あ、何かすいませーん」
「…で、その後、舞…俺の彼女から連絡は?」
「もうなかった、っす」
何てことだ…適当人間の三浦のせいで
舞にあらぬ疑いを抱かせた可能性がある。
今日、一歩も動けない姿を咲良が見てはいるが
穏やかならぬ空気になった直後
咲良は舞に"真実"を伝えてくれるだろうか?
もやもやとした思いで部屋に戻ろうとした
その時…
申し合わせたように電話のベルが鳴った
「あ、彼女さんからじゃないすか?」
「俺が出るから、お前はどっか行ってろ!」
「あ、どーも、すみませーん」
三浦を部屋に追い返して受話器を取る。
「・・・あ、コウイチくん? わたし!舞衣だよ!」
それは聞き慣れた舞の声だった。
先ほどの重いトーンとは打って変わって
明るい声の舞に少し安心した。
「舞、ごめんな連絡出来なくって…あと
電話取ったヤツがテキトーな対応したみたいで」
「うぅん、大丈夫だよ、さっき咲良からも連絡あって、ずっと寝込んでたんだよね?」
「そうなんだよ」
突然、ドアを開けて
「あ、すいませーん」と言う仕草で手を合わせる
三浦を手で部屋へ追い返しながら
再び舞の言葉に気持ちを集中させた。
「ふふっ、何か聞こえたよ」
「バカな後輩だよ、今話してたヤツ。俺はこの通り元気になったよ」
「よかったぁ、元気になって」
「お弁当のおかげで」
「ふふっ、よかった、実はね…」
ー こっちもちょっと大変なことがあってね
コウイチくんが来た次の日なんだけど
ホントに男子を寮に連れてきた後輩の娘がいてね…
「大問題になったの!」
「え?それでどうなったの?」
「その娘は強制退去、新しく住むとこ探さないといけなくなっちゃって」
ー それだけじゃなくてここの寮生も全員召集されて
緊急の集会みたいなのが始まって…
「それで何かバタバタしてたんだね、そんな時に電話してごめんね」
「大丈夫だよ、それよりもコウイチくんはよかったね、もしもあの姿で…ふふふ」
「ほんと、笑い事じゃないよね、やっぱり
『禁断の館』には入るべからず、だよ」
「わたしも何か軽い気持ちで…ごめんね」
「舞が謝ることないよ、別にほら、やましいこともないんだし」
「これからはコウイチくんのとこで…ね!」
「あんなことやこんなこと…を?」
「もう!やだぁ!」
そして舞は思い出したように
「お弁当、ちゃんとお昼に持ってきた?咲良は」
「え、えーと、あれ夕方だったかなー?」
"咲良"と言う名前についつい過敏になりつつあった
それはやはり“その気”はないにしろ
咲良との抱擁があったからに他ならない。
「もう!咲良は!あれだけお昼休みに、ってお願いしたのに」
「でもよかった、夕方で。お昼はまだぶっ倒れてたからね、さくちゃん、もう帰ってるの?」
「それがね…」
この時、僕は意外な事実を知ることになった。
「うん、俺の方こそ連絡できなくてごめん…」
「あ、ちょっとごめんね、またすぐかけ直すから」
ガチャン!
そう言うと舞はそそくさと電話を切った
受話器の向こう側が何となく騒がしい。
『何か』が起きているのは間違いない、
今は待つことしか出来ない僕は
痛む体を引きずって部屋に戻ろうとした。
すると電話の横の部屋のドアが開いた
出てきたのは1年の三浦だった。
「あ!中村さん!いたんですか?俺、てっきり帰ってないのかと思って…」
「お、2日ほど寝込んでたからな」
「たぶん…彼女さんですかね?ずっと電話がありましたよ、昨日なんて10回くらい」
「え?そうなのか?三浦、お前俺のこと呼びに来なかったのかよ?」
「あ、そう言うことなんすね、俺が『いないです』って言ったら何度も確認されたんすよねー」
「で?何て答えたんだ、三浦?」
「いやぁ『帰ってないんじゃないすか?』って」
「お前!バカじゃねえのか!ちゃんと確認しろよ!!俺はずっといたよ!この下宿に!」
「え、あ、すみません、呼んでも返事がなかったから、ですね」
「何でドア開けて確認しないんだよ、もうお前は電話番クビだ!」
シンちゃんなら部屋まで呼びに来てくれるし
同期の絆もあって信頼関係も成立している。
こんなちゃらんぽらんな男に任せていたら
繋がるものも繋がらなくなってしまう。
「あ、何かすいませーん」
「…で、その後、舞…俺の彼女から連絡は?」
「もうなかった、っす」
何てことだ…適当人間の三浦のせいで
舞にあらぬ疑いを抱かせた可能性がある。
今日、一歩も動けない姿を咲良が見てはいるが
穏やかならぬ空気になった直後
咲良は舞に"真実"を伝えてくれるだろうか?
もやもやとした思いで部屋に戻ろうとした
その時…
申し合わせたように電話のベルが鳴った
「あ、彼女さんからじゃないすか?」
「俺が出るから、お前はどっか行ってろ!」
「あ、どーも、すみませーん」
三浦を部屋に追い返して受話器を取る。
「・・・あ、コウイチくん? わたし!舞衣だよ!」
それは聞き慣れた舞の声だった。
先ほどの重いトーンとは打って変わって
明るい声の舞に少し安心した。
「舞、ごめんな連絡出来なくって…あと
電話取ったヤツがテキトーな対応したみたいで」
「うぅん、大丈夫だよ、さっき咲良からも連絡あって、ずっと寝込んでたんだよね?」
「そうなんだよ」
突然、ドアを開けて
「あ、すいませーん」と言う仕草で手を合わせる
三浦を手で部屋へ追い返しながら
再び舞の言葉に気持ちを集中させた。
「ふふっ、何か聞こえたよ」
「バカな後輩だよ、今話してたヤツ。俺はこの通り元気になったよ」
「よかったぁ、元気になって」
「お弁当のおかげで」
「ふふっ、よかった、実はね…」
ー こっちもちょっと大変なことがあってね
コウイチくんが来た次の日なんだけど
ホントに男子を寮に連れてきた後輩の娘がいてね…
「大問題になったの!」
「え?それでどうなったの?」
「その娘は強制退去、新しく住むとこ探さないといけなくなっちゃって」
ー それだけじゃなくてここの寮生も全員召集されて
緊急の集会みたいなのが始まって…
「それで何かバタバタしてたんだね、そんな時に電話してごめんね」
「大丈夫だよ、それよりもコウイチくんはよかったね、もしもあの姿で…ふふふ」
「ほんと、笑い事じゃないよね、やっぱり
『禁断の館』には入るべからず、だよ」
「わたしも何か軽い気持ちで…ごめんね」
「舞が謝ることないよ、別にほら、やましいこともないんだし」
「これからはコウイチくんのとこで…ね!」
「あんなことやこんなこと…を?」
「もう!やだぁ!」
そして舞は思い出したように
「お弁当、ちゃんとお昼に持ってきた?咲良は」
「え、えーと、あれ夕方だったかなー?」
"咲良"と言う名前についつい過敏になりつつあった
それはやはり“その気”はないにしろ
咲良との抱擁があったからに他ならない。
「もう!咲良は!あれだけお昼休みに、ってお願いしたのに」
「でもよかった、夕方で。お昼はまだぶっ倒れてたからね、さくちゃん、もう帰ってるの?」
「それがね…」
この時、僕は意外な事実を知ることになった。
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