僕とあの娘

みつ光男

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第12章.  ささやかな誘惑

【誘惑の午後】

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 そして気づけば咲良は僕の腕の中にいた。

「さ、さくちゃん・・・?」

「寂しいよ・・・」

「ど、どうしたの?さくちゃん」

「寂しい、うちにもまた見つかる…かな?いい人が」

「大丈夫だよ、さくちゃんならすぐに」

「ほんとに?」

「いいヤツだから、俺と一緒で、ははは」

「うん、ありがと」

「そろそろ…」

「あ、そうだよね!」

思い出したように僕から離れて咲良はこう言った。

「今の、舞には内緒・・・ね」

「そりゃ…言えるわけないだろ、さくちゃんこそ」

「どうしよっかなー?」

「おいおい!何言ってんだよ、それ自爆じゃないか」

「ふふっ、そうだよね、そうなると全部失うもんね、お互い」

「ふぅ、女子は難しいな」


僕は決してそれらしい言葉で駆け引きしたり
モーションをかけたつもりもないのに

美波にしろ咲良にしろ
こんなにもガードが甘いものなのだろうか?

おそらく体目当てで金に物を言わせる
東郷大の連中と関わったせいで

どこか男性への失望感らしきものを抱いたところに

僕のようなごく普通の男子と会ったことが
原因のひとつなのかも知れない。

こんな"ささやかな誘惑"に遭うとは思ってもいなかった

まさかとは思うが咲良はこのことを
舞に口外したりはしないだろうか?

それとなく探るのも何となく気が引けるので
まずは舞の帰宅時間を見計らって

お弁当のお礼と連絡出来なかったことを謝るために
電話をかけることに決めた。

その電話に舞が出るか、咲良が出るか
そこから今回の件がどう波及していくか
探ることにした。

 図らずも咲良との距離が必要以上に縮まり
その柔らかな余韻が残ったまま

窓の外は夜の訪れを告げ、道路脇の街灯がひとつ灯る

そんな中僕はひとり、もふもふと
舞からの手作り弁当を頬張っていた

土曜の夜以来、久しぶりに口にした食べ物が
体に染み渡る。

多すぎると思っていた弁当だが
気づけばほとんど食べていた。

 それにしても舞と連絡を取らない
話さない日々が2日以上もあるなんて…

僕たちが付き合い初めてからは一度もなかった。

「舞、心配してるかな?」

頃合いを見計らっていつもの赤電話の前に向かったが
赤電話の横にある掲示板には何も書かれていなかった

舞からの電話はなかったのだろうか?

 今日だって実習とは言え
舞は姿を見せず代わりに咲良が来た。

何か来れない理由が、
連絡しない理由があるのだろうか?

もしかしたら舞と咲良の間に何か問題が?
それとも僕に対して何かしら思うところが?

そんな疑問が頭をもたげ始めた。

「いやいやいや!」

僕は首を横に振り思い立って舞へ電話をかけた。


プルプルプルプル…

いつもなら3コールも鳴らせば
舞衣か咲良のどちらかが電話を取り

当たり前に会話が始まる…のに


この日は何回コールしても電話には誰も出ない。

"何かが起きている"

さすがの僕でも何となく状況を理解した。

そろそろ一旦受話器を置こう、そう思った瞬間

「・・・もしもし!」


受話器の向こうから聞こえたのは舞の声だった。
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