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第12章. ささやかな誘惑
【意外なる訪問者】
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僕はひと晩中、熱にうなされていた
自分の体はもっと丈夫に出来ていると
過信していたようだ。
下宿の同期や後輩たちは
僕が部屋に戻っていることを知らないらしく
誰も訪ねては来なかった。
土曜日に舞の寮へと "潜入" してから
今日は既に月曜日の午後になっていた。
丸一日、動くことも出来ず
ほぼ意識を失った状態だったが
ここに来てようやく正気を取り戻し
部屋の天井がぼんやり視界に入った時
これまでに何が起きて
何故ここでこうしているのかやっと理解できた。
そして・・・
「あ!舞に連絡入れなきゃ!」
あれからもう一日以上経過している
今日の講義に行けてないことはさておき
気になるのは舞だ
舞のことだから心配して何度も下宿に電話を
かけているかも知れない。
僕は一階の赤電話の横にある掲示板を
確認に行こうと起き上がりかけた…
「あいたたた!」
全身が筋肉痛になったかのように
身体中どこもかしこも痛くて動くこともままならない。
空腹も限界を超えていた
あぁ、このまま誰にも気付かれずに
死んでしまうのかも知れない
本気でそう考え始めた…
その時だった。
コンコン…!
微かにドアをノックする音が聞こえた。
声にならない声で
「・・・はい」
そう答えるとゆっくりとドアが開いた。
舞…?
舞が見舞いに来てくれたのかな?
横になったままベッドの中から首を伸ばして
ドアの向こうを覗いてみるが
体が痛くてそれ以上動けない。
「大丈夫だった?」
消え入るような声が聞こえた
そして足音がすぐ近くまでやって来た。
寝返りを打つような感じで
布団から顔を出して振り返ると
横になっている僕と同じ高さの目線で
すぐ真横に小さな顔が覗いた。
「生きてる…?」
「あれ?どうしたの?さくちゃん!」
「どうしたの、それ?顔中傷だらけ!」
声の主、訪問者は意外にも咲良だった。
「はぁ、でもよかった…生きてて」
咲良は座り込むと僕のベッドに顎を乗せて
ホッとしたようにため息をひとつついた。
「あれ?舞は?」
「あ、舞はねぇ…もう会いたくないって、連絡もくれないから」
「え!嘘だろ!もしかして俺が部屋にいたの、バレて怒られたとか?」
あまりに慌てふためいて動揺する僕を見て
「あ、ごめんごめん、冗談だから」
「いやいや、こんな時にその冗談キツいって」
「舞は今日実習で病院直行だから代わりにうちが頼まれて…ごめんね舞じゃなくって」
「お見舞いに来てくれたんだ?」
「そっ、舞からの預かりものも、ね」
「連絡できなくてごめん」
ー そう、二人とも心配になってね・・・
いつになっても連絡ないから
もしかして何か事故とか大変なことに
なってるんじゃないか、って
「丸一日ぶっ倒れてたみたいで、あはは」
「よかったよ!無事で何より」
「ま、あんまり無事ではないけど」
寮を "脱出" してここに帰るまでの話をすると
さっきまでの心配など忘れたかのように
咲良は笑い転げていた。
「笑い事じゃないって、ホントに死ぬかと思ったんだから」
「はははっ、ごめんね、でもおかしくって」
僕は舞からの預かりものを開けてみた
これでもか、とばかりに詰め込まれた
大盛りのお弁当がそこにはあった。
「羨ましいなぁ、こんなに仲がいいとさ
妬いちゃうよ、ホントに」
そう言って咲良は寂しそうな笑顔を浮かべた
自分の体はもっと丈夫に出来ていると
過信していたようだ。
下宿の同期や後輩たちは
僕が部屋に戻っていることを知らないらしく
誰も訪ねては来なかった。
土曜日に舞の寮へと "潜入" してから
今日は既に月曜日の午後になっていた。
丸一日、動くことも出来ず
ほぼ意識を失った状態だったが
ここに来てようやく正気を取り戻し
部屋の天井がぼんやり視界に入った時
これまでに何が起きて
何故ここでこうしているのかやっと理解できた。
そして・・・
「あ!舞に連絡入れなきゃ!」
あれからもう一日以上経過している
今日の講義に行けてないことはさておき
気になるのは舞だ
舞のことだから心配して何度も下宿に電話を
かけているかも知れない。
僕は一階の赤電話の横にある掲示板を
確認に行こうと起き上がりかけた…
「あいたたた!」
全身が筋肉痛になったかのように
身体中どこもかしこも痛くて動くこともままならない。
空腹も限界を超えていた
あぁ、このまま誰にも気付かれずに
死んでしまうのかも知れない
本気でそう考え始めた…
その時だった。
コンコン…!
微かにドアをノックする音が聞こえた。
声にならない声で
「・・・はい」
そう答えるとゆっくりとドアが開いた。
舞…?
舞が見舞いに来てくれたのかな?
横になったままベッドの中から首を伸ばして
ドアの向こうを覗いてみるが
体が痛くてそれ以上動けない。
「大丈夫だった?」
消え入るような声が聞こえた
そして足音がすぐ近くまでやって来た。
寝返りを打つような感じで
布団から顔を出して振り返ると
横になっている僕と同じ高さの目線で
すぐ真横に小さな顔が覗いた。
「生きてる…?」
「あれ?どうしたの?さくちゃん!」
「どうしたの、それ?顔中傷だらけ!」
声の主、訪問者は意外にも咲良だった。
「はぁ、でもよかった…生きてて」
咲良は座り込むと僕のベッドに顎を乗せて
ホッとしたようにため息をひとつついた。
「あれ?舞は?」
「あ、舞はねぇ…もう会いたくないって、連絡もくれないから」
「え!嘘だろ!もしかして俺が部屋にいたの、バレて怒られたとか?」
あまりに慌てふためいて動揺する僕を見て
「あ、ごめんごめん、冗談だから」
「いやいや、こんな時にその冗談キツいって」
「舞は今日実習で病院直行だから代わりにうちが頼まれて…ごめんね舞じゃなくって」
「お見舞いに来てくれたんだ?」
「そっ、舞からの預かりものも、ね」
「連絡できなくてごめん」
ー そう、二人とも心配になってね・・・
いつになっても連絡ないから
もしかして何か事故とか大変なことに
なってるんじゃないか、って
「丸一日ぶっ倒れてたみたいで、あはは」
「よかったよ!無事で何より」
「ま、あんまり無事ではないけど」
寮を "脱出" してここに帰るまでの話をすると
さっきまでの心配など忘れたかのように
咲良は笑い転げていた。
「笑い事じゃないって、ホントに死ぬかと思ったんだから」
「はははっ、ごめんね、でもおかしくって」
僕は舞からの預かりものを開けてみた
これでもか、とばかりに詰め込まれた
大盛りのお弁当がそこにはあった。
「羨ましいなぁ、こんなに仲がいいとさ
妬いちゃうよ、ホントに」
そう言って咲良は寂しそうな笑顔を浮かべた
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