僕とあの娘

みつ光男

文字の大きさ
上 下
52 / 129
第11章.  愛をちょうだい

【嵐の予感】

しおりを挟む
 舞と出かける日は大抵寝不足だ
ついつい時間をかけて
シミュレーションをしてしまうため

寝るのは深夜、気づけば朝になっている。

この日は6時から夕食の予定

3限の講義が終わって15時過ぎに部屋に戻ると

あまりの眠気に襲われて
横になるや否やそのまま眠ってしまった。

ほどなく…


「…コウイチくん、コウイチくん?」

遠くから舞の声が聞こえた。
夢うつつの僕は驚かせてやろう、と

頭から布団を被ったまま
舞の声がする方へ起き上がり

そのまま布団ごと"声の主"を抱きしめて
布団の中に引きずり込もうとした。

「きゃっ」

あれ?

いつもの舞のリアクションにしては小さいな
こんなことをしたら舞はもっと驚くはずなのに…

目を開けて最初に視界に飛び込んで来たのは
目を真ん丸に見開いて驚く舞の姿だった。

「あれっ?舞がこんなとこに…?」

それじゃ、今僕が抱きしめているのは

誰…だ?

「ナカムラくん…意外と強引だねぇ」


…咲良だった。

まんざらでもなさそうな表情を浮かべながら

「いつも舞にこんなことしてんの?」

「あ、いや、たまたま今日は驚かそうと思って…」

「そろそろ離さないと…ほら、舞が」


僕の目の前にいたのは目だけでなく
口もポカンと開けて呆気に取られている舞の姿だった。

「あ、いや、これは…だね」

「あ、大丈夫、大丈夫だよ!ちょっとビックリしたけど」


何だか波乱の予感がした。

 寝ぼけていた僕は舞と勘違いして
咲良を抱きしめてしまうと言う失態を演じたが

決してその場の空気が重くなることはなく
むしろ部屋の中で3人、その話題で盛り上がった。

舞はその時の僕の様子を振り返って
涙を流しながら爆笑していた。

「あの時のコウイチくんの顔!」

「いや、だってビックリしたって!」

30分ほど話したところで
二人が早めにこの部屋に来た本題を話し始めた。


「じゃあ舞、例のモノを」

「うん」

舞が取り出したのは可愛いげなワンピース
そしてメイク道具と女性用のウィッグだった。

嫌な予感しかしなかった。

まさか舞と咲良がこんな計画をしていたとは…
二人は僕に女装をさせて寮の中に紛れ込ませるらしい。

「う、嘘だろ!マジで?そんなのすぐにバレるって!」

「大丈夫だよ、ねぇ!」

二人は顔を見合わせて笑っている。

「じゃ、コウイチくんおとなしくしててね!」

「うわー!やめてくれー!」

「動いちゃダメよ、ナカムラくん!」

僕はそのまま咲良に後ろから羽交い締めにされ
下手に反撃することが出来ない。

僕は二人の思惑通り、
少しずつ"女子"へと変貌していった。

すっかりメイクを終え
仕上げとばかりに僕にウィッグを被せた咲良は

「うわー、かわいいー!連れて帰りたい!」

「ダメだよ!コウイチくんは私と一緒に行くんだから!」

まさか、僕はこの姿で…

「そうだよ、このままご飯に行こう」

部屋の中ならまだしも、この姿で外に出る?
この二人は一体何でそんなに楽しそうに?

「前にもね、試したんだ、咲良の彼氏に同じこと」

「それで…どうだったの?」

「そりゃ、酷いもんでさ、もう二度と見たくないって感じ」

「それに比べてコウイチくんは…」

「かわいい…よね?」

「よね?」

嵐の予感は当たった、むしろ大嵐だ

それでも僕は何故か楽しかった
女装して外出することが…ではない。

舞といるとこんな不思議な体験も出来る

更には舞衣と咲良、仲の良い二人の世界に
ようやく入り込めた、そんな妙な優越感からだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~

海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。 そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。 そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

闇鍋【一話完結短編集】

だんぞう
ライト文芸
奇譚、SF、ファンタジー、軽めの怪談などの風味を集めた短編集です。 ジャンルを横断しているように見えるのは、「日常にある悲喜こもごもに非日常が少し混ざる」という意味では自分の中では同じカテゴリであるからです。アルファポリスさんに「ライト文芸」というジャンルがあり、本当に嬉しいです。 念のためタイトルの前に風味ジャンルを添えますので、どうぞご自由につまみ食いしてください。 読んでくださった方の良い気分転換になれれば幸いです。

処理中です...