僕とあの娘

みつ光男

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第09章. “愛してる”がわからない

【交わり】

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「ムラコウ・・・」

「な、何?」

「自信…持っていいよ」

「え?どういうこと?」

「よ…かった、昔の男よりも…全然」

褒め言葉として捉え難い思いもあるが
例え社交辞令であったとしても
そう言われると悪い気はしなかった。

「そ…そうなんだ?ほんとに?」

「うん…お世辞じゃないって」

「そっかな?自分ではわかんないんだよ」

「…本能」

「え?本能って?」

「おそらくね、自分のDNAが記憶してる
『生き物としての本能』みたいなの、ね」

ー だから予備知識や練習とかしなくても…
もちろん初めてでも…

「こんな感じに動けちゃう、ってこと」

一線を超えたことを後悔はしていない

むしろ美波のような理解ある"経験者"の方が
僕にとってはふさわしかったのだろう。

「これでムラコウはさ…」

「何?」

「次、誰かとこんなになってもこれで大丈夫だね」

「だけど…美波はよかったの?こんな形で俺と…」

「もちろんだよ!」

何だか強めの口調の美波に僕はたじろいだ。
怒らせてしまったのだろうか?

美波はすぐに笑顔に戻って話し始めた。

「あ…ごめんね、でも、元カレと別れて投げやりになったとかじゃないから」

「何かわかんなくなったなー」

「ふふっ、何が?」

「"愛してる" とかよく平気で歌詞で出てくるじゃん?それって何を以てそうなんだろう?」

肘をついた美波はまるで
母親のように僕の頭を優しく撫でながら
諭すようにこう言った。

「考えちゃ…ダメだよ、今の私たちはまだそこまで到達してないもん、きっと」

「だから…」

「こうして体と体で確かめ合うの」

「それもまたひとつの…やり方…愛情確認の仕方なんだと思う」

美波は一息でそう喋りきった。

「俺にはまだわかんないな」

「理由なんて大抵後付けだからね。それよりも…今どうするかを考えなきゃ」

「うーん…難しいな」

「だ・か・ら…」

美波はそう言うや否や頭から布団に潜り込んだ。

「あ…ちょっと待って!」

「なぁにぃ?…もう元気になってるぅ!」

「だから、ちょっと待って…って!」

「もう一個…あったはずだから」

「え?もしかして」

「リターンマッチ…しよ」

「…え?」

「ほら、早くっ!」

再び甘美な時間が幕を開けた。

つい数時間前、正真正銘の"初体験"は
まるで記憶になかった。

だが"二度目"はそうではなかった。

耳元で聞こえる美波の淡い吐息も
触れ合う肌の感触も

そして見上げた天井の木目の模様ですら
鮮明に覚えている

もちろん美波とひとつになっているその感覚も…

お互いに疲れ果て
再び隣に横たわる美波に向けて僕は話し始めた。

「何かさ、、思ったんだけど…」

「何ぃ?」

「"2回目こそ本当の初体験"…だね」

「何ぃ~?その『名言』みたいな感じ」


…初めての時って無我夢中なのかな?
記憶にないんだよね

2回目でようやく "見えてくる" って言うか

あっ!この感じがなんだ
二人繋がってひとつになってるだな…って実感した

だから世の大抵の人たちの初体験の記憶は
きっと全員『2回目』の…なんじゃないかな?


「あははは!それおもしろーい!学会で発表してよ、ムラコウ!」

「そんな学会あるわけないだろ」

「 "性体験フォーラム" みたいなのでさ」

「聞いたことないよ、そんなの」

しかし…しかしだ

これだけ濃密な関係になっておきながら
何故僕たちはこんなにもドライなのだろう?
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