僕とあの娘

みつ光男

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第09章. “愛してる”がわからない

【トップシークレット】

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 このように「舞との物語」が劇的に幕を開けたのは
僕が大学2年の夏のことだった。

この頃から僕の日常は舞を中心に回り始めた、
もちろん舞も同様に僕を中心に回っている…いや

きっと舞はこうなる前から人知れずのだろう。

僕は僕で友人関係やバンド活動、大学生活
それらをおざなりにするつもりはなかったが

舞と過ごす時間が一番安らげるように
感じていたのは間違いない。

 とは言え、お互いに束縛しあうこともなく
本当に自由な関係なのは僕たちの性格そのものだろう。

9月になると舞は病院での実習が始まったり
僕の学業以外の部分…
そう、バンド活動が忙しくなってきたこともあり

毎日、ではないものの会えそうな時は
近くのショッピングモール内の
フードコートで待ち合わせた。

大学と看護学校から続く並木道、
その長い坂を一人で下る時間が
僕の秘かな楽しみのひと時となった。

そのすぐ後にはいつもの場所で待つ舞と会えるからだ。

 大学と隣り合わせの看護学校、お互いの校門の前、
などではなく別の場所で待ち合わせしたのは

二人でいるところを
あまり他の人に見られたくなかった、と
言うのもある。

僕が看護学校の生徒と付き合っていることを
友人に知られると

必ず誰かを紹介してほしいと言われるのでは?
と、考えたからだ。

それは正直面倒くさかった、それだけの理由だった。

会えそうな日は前日に電話で約束して

僕たちはどちらか先に授業を終えた方が
フードコートの席を二人分キープして待っていた。

 今日は僕の方が早く着いたかな?なんて
想像しながら向かうのだが

大抵、舞の方が先に来ていた。

ここでそのまま夕食を済ませることもあれば
ジュースなんか飲みながら
ただただとりとめもなく会話する日もある。

今日も先に授業を終えた舞がいつもの真っ青な制服で
フードコートの端っこの席に座っていた。

「待った?」

「待ったよぉー!」

「え、ごめんごめん」

「30秒くらいだけどね」

「ははは、そりゃ待たせたね、随分」

僕と舞の会話はいつもこんな感じ
本気なんだか冗談なんだかわからない。

「ねえ、今日ってコウイチくんとこ行っても大丈夫?」

「あ、全然いいよ、今日はちゃんと時計動いてるから」

「あは、電池切れの時計はどうなったの?」

「よく叱っといたよ、電池も変えたし」

「はは、怒られたんだ?時計くん、また送ってってね、門限に遅れそうになったら」

「筋トレにもなるし、ね」

「ははは、だよね」

 僕たちは薄暗くなり始めた歩道を
下宿へと向かって歩き始めた。

行き交う人たちがまばらになったのを見計らったのか
国道沿いの広い道から下宿へ向かう
狭くて薄暗い路地に入った時

ふと舞の右手が僕の左手に触れた。

舞は恥ずかしそうに俯きながら
そっと右手を差し出した。

気付けば僕たちは指を絡ませた
いわゆる "恋人繋ぎ"の状態で並んで歩いていた。

これまで一緒に歩くことはあっても
まだどこか恥じらいがあったのか

少し距離を置いて歩いていた二人。

舞は手を繋ぐことですら
どこか新鮮なことのように感じている、
ようにすら思える。


こんな僕が舞と付き合い始める前に
美波とがあったなんて

もし知られたなら・・・

舞は僕のことを軽蔑するだろうか?

そう、それは数ヶ月前に美波が半ば冗談半分で
僕をラブホテルに連れて行き

その後、有香が舞と共に僕の部屋を訪れた6月3日から
僕が舞と初めて電話で話した7月12日の夜

それまでの39日の間に起きた
僕と美波との" たった一度の秘め事 " のことを…
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