僕とあの娘

みつ光男

文字の大きさ
上 下
39 / 129
第08章. 大好きだよ

【今度…】

しおりを挟む
「舞の帰りが遅いから探してたんだよ、そろそろ寮母さんの巡回もあるし」

「ごめーん、ギリギリ間に合いそう」

 咲良は僕をちらっと見ると笑顔で軽く会釈をした、
その表情は過去の電話応対ほど冷たい印象ではなかった。

「もしかして、彼氏…さん?」

「そ!中村コウイチくん」

「ナカムラくん?よろしくね!舞、ド天然でしょ?仲良くしてあげてねー」

「あ、こちらこそいつも電話で…」

「ぷっ!最初の頃、名乗らずに切ってた人だね!」

「そうでーす」

「コウイチくん、咲良が愛想ないから怖くて名乗れなかったんだって」

「えっ!そんなこと言ってないよ!全然!」

「ふふっ、気にしないで、それには訳があるから」

「そっ!」

そう言って二人は申し合わせたようにニコニコと笑った。

「ねぇ、咲良、今度…」

「え?もしかして?アレ試すの?」

「そう、コウイチくんならピッタリでしょ」

そう言うと二人は僕を見ながら
顔を見合わせてニヤニヤと笑った。

「何か意味深だなぁ」

「気にしないで、全然変なことじゃないから」

「コウイチくん、今度、咲良も一緒にご飯とか
食べに行こうよ」

「そうだね、また近いうちに」

「それっ、楽しみだ!で、何でここに?舞を送ってきてくれたの?」

「そっ!バスに乗れなかったから自転車で」

「へぇ~!優しい!いい人だね、舞!」

「でしょお…?」

「それじゃまたね舞ちゃん」

「うん、今日はありがとう、楽しかったぁー!」


 こうして二人は寮へと戻っていった、
舞に親友と思える存在がいたことに少し安心した。

舞は明らかに有香や美波とはタイプが違う。

なので、舞と近い雰囲気を持った咲良が
友人だったことに何故だか安心感を覚えた。


 行きは15分で到着した道のりも
帰りは疲労困憊だったからか30分を要した。

田舎街だからか22時を過ぎると
ひとつ、またひとつと店の灯りが消えていく。

薄暗い街灯に羽虫がぶつかる
バチバチと言う音をを聞きながら

僕は漕いでいた自転車を停めて夜空を見上げた。


北浜舞・・・


僕がこれまで思い描いてきた
「理想の彼女」に最も近い存在

そんな舞とこの日から始まった物語

これからのことを考えると
部屋に戻ってから過ごす一人の時間も

残された夕食の後片付けすら
全く苦痛に感じられなかった。

むしろ舞が使っていたコップや箸を
洗うことすら何故か愛しく思えてきた。


 川俣荘に戻ると赤電話の隣のホワイトボードに
"中村さん、キタハマさんから電話がありました"
そう伝言が書き記されていた。

それから僕はつい数10分前まで一緒だった舞と
またひとしきり電話で話してから部屋を片付け始めた。

舞と初めて二人で過ごす長い1日は
ここでようわく終わりとなった、

『サヨナラ』の言葉はお互い無いままに・・・
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~

海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。 そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。 そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

黒蜜先生のヤバい秘密

月狂 紫乃/月狂 四郎
ライト文芸
 高校生の須藤語(すとう かたる)がいるクラスで、新任の教師が担当に就いた。新しい担任の名前は黒蜜凛(くろみつ りん)。アイドル並みの美貌を持つ彼女は、あっという間にクラスの人気者となる。  須藤はそんな黒蜜先生に小説を書いていることがバレてしまう。リアルの世界でファン第1号となった黒蜜先生。須藤は先生でありファンでもある彼女と、小説を介して良い関係を築きつつあった。  だが、その裏側で黒蜜先生の人気をよく思わない女子たちが、陰湿な嫌がらせをやりはじめる。解決策を模索する過程で、須藤は黒蜜先生のヤバい過去を知ることになる……。

処理中です...