僕とあの娘

みつ光男

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第08章. 大好きだよ

【“帰ろう”は禁句】

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 舞は決して多弁ではない、
よく喋る女の子はキライではないが
逆に無口な女の子と時間を共にするのも苦痛ではない

もちろん親しくなっていると言う前提の元であるが。

むしろ、そちらの方が僕にとっては理想だった。

そして舞は僕の心情をすぐに読み取り更には先を読んで
僕が心地よくなって喜ぶようなフレーズを選んで発する

そう、まるで全てお見通しかのように・・・


 心地よい初夏の浜風に吹かれながら
防波堤に体育座りの状態で

二人並んで僕と舞は海を見ていた。

もう釣りはすっかり満喫していたし

舞の笑顔も見れたからこのお出かけは
大成功だった、と言う安心感もあった。

お互いの体温を
時折触れ合う二つの肘が共有していた、

舞と一緒なんだな、と感じる瞬間でもあった。

 その時、いけないとは思いながら
僕はふとあの日のことを思い出してしまった

ー こんなシチュエーションが
女子はやっぱり好きなのかな?

「そりゃね、憧れの設定よん」
おどけながらそう答えた美波のことを。

不謹慎だとは思いつつ
「女子ってこう言うシチュエーション、好きなの?」

「うーん、キライじゃないけど」

「じゃない…けど?」

「海って、別れのイメージがあって…」

「え?何で?」

「昔ね、四国のおばあちゃん家に行って帰る時、フェリーだったんだ」

ー 行く時は楽しいのにね、帰りは寂しくって

おばあちゃんが
フェリー乗り場でお見送りしてくれるんだけど
いつも悲しくて泣いてたなぁ・・・

「そっかぁ、人それぞれ色んな思い出がある…からね」

「そう!でもコウイチくんとこうして過ごせたこと、上書きしちゃえば平気だよ!」

「これで海が好きになるかな?」

「うん!」

「また…行く?釣りに」

「行きたーい!」

よかった…

仮に舞の答えが美波と同じだったら

僕は何て質問をしたんだろう、と
自分を責めていたはずだ。

「じゃ、そろそろ…」

「お料理タイムだね!」

 さっきから気付いていた
舞は絶対に「帰ろう」とは口にしない、

その言葉がどれだけ寂しく悲しい響きなのか
誰よりも知っているからなのだろう。

帰り道は自転車を押しながら
二人でゆっくりと帰った。

下宿に戻った僕たちは
二人で台所を使うことを管理人さんに伝え 

心置きなく魚を捌くことに没頭した。

が、それは少し気持ち的に重くなる案件でもあった。

この下宿に女子が来ることは禁止されていないが
管理人のおばあさんは女子が来ると

「あら?どなたの所に?」

などと好奇心旺盛に話しかけたりする

そう言ったことに免疫のなさそうな舞が
気にして来づらくなるのでは?

そう危惧したのだ。

「大丈夫だよ、フツーに挨拶して部屋に行くから」

僕は隣の部屋の管理人さんに聞こえないくらいの小声で

「何か言われたら、すぐ俺に言って」

そう伝えた。

 ところで舞の包丁さばきは見事の一言だった。

「まさか、病院で毎日切開してるとか…」

「してないよぉ!それはドクターがするから!」

大爆笑する舞、狭い台所に二人の嬌声が響き渡る。

そして舞から手解きを受けて
僕も何とか魚を三枚におろせるようになった。

教えてほしい、と言ったのは
舞と至近距離でやり取りが出来ることへの
期待感からだったが

舞衣はそんな僕の思いを知ってか知らずか
ほどよい距離感で接してくれた。

時に息苦しいほどの圧迫感で距離を縮めてくる
美波と比べると少し物足りない感じもしたが

僕の思いとしては
「少しずつ少しずつ」だったので

それすら舞は悟っているのだろうか?

どうしても美波と比べてしまう癖は
きっとそのうち無くなるだろう

それくらい今の僕は舞に心酔し始めていたし
舞もまた純粋に僕への想いを
控えめながらしっかりと伝えてくれていた。

「小魚はフライにする?この大きい…何だっけ?」

「あ、チヌ、ね」

「チヌ…はお刺身で食べよっか」

「お!お酒のつまみにちょうどいいね、飲まないけど」

「コウイチくんは飲まないの?」

「お酒は二十歳でやめました」

「うそっ!」

「ウソだよ」

台所を囲んだ穏やかな時間が過ぎていった。

夕陽が部屋の中を照らし始めた頃
ようやく料理は完成した。
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