僕とあの娘

みつ光男

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第05章. 海まで行こうよ

【君を忘れない?】

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 帰り道は決して気まずい雰囲気にはならなかった。

車内での会話も行きと同様に盛り上がり
楽しい時間を過ごした記憶しか残っていない、

つい先ほどあんな妖艶な展開があったことすら
まるで忘れてしまったかのように。

 美波が運転する車のカーステから流れていたのは
POISONの「I won't forget you」と言う曲、

それは以前、僕がライブで演奏した曲だった。

明らかに僕を意識した選曲だ、と思ったが
敢えてそのことには触れなかった。

そこをつつくとまた先ほどのような甘い展開になる…

そうなると僕の理性の箍は外れてしまう、
そんな恐怖心もあったから。

その心配が頭をもたげる前に下宿に戻った時は
心から安心した。

この日、美波が僕の部屋に行くとは言わなかったのも
もしかしたら僕と同じことを考えていたから、
なのかも知れない。

「ちょっと有香のとこ寄ってから帰るね」

「またね、ありがとう」

「あ!CD忘れてるよ」

「そうだった、そうだった!じゃあねー!」

 そして美波はいつものように笑顔で帰っていった、
僕は僕であんなにも甘い時間を過ごしておきながら

「シンちゃん、レンタルでも行こっか」

と、相変わらずいつものペース。

お互い平常心で別れたものの僕は
もしかしたら美波と会うのは今日が最後になるのでは?

そう思ったりもした。

特に理由や根拠があったわけではないのだが…

そして僕は気づいていた、
美波に貸していたCDが1枚だけ返っていないことを…


 2、3日して芸能レポーターの如く有香がやってきて

「聞いたよ、聞いたよ」

おどけてみせたその直後に、真面目な顔で

「美波はいい娘なんだけど…」

前しか見えないタイプなんだよね、猪突猛進って言うか

恋愛に関しては
周りをしっかり冷静に見る余裕がないんだよ。

どれくらいかは計り知れないが
ここ最近の美波は間違いなく僕に好意は持っている

有香からも
「ムラコウは美波のこと…どう思ってるの?」

みたいな事を聞かれはしたものの

僕は僕で有香が「あの日」の出来事を
知らないと高を括って

あまり真剣には取り合わなかった。

「美波との仲、取り持とっか?」

「うん、考えとく」

とは言ったもののそれっきりだったし
有香もそんな発言すら忘れていたようだ。

 だからこそ有香は何食わぬ顔で
1ヶ月後に舞を連れて僕の部屋を訪れたのだろう。

有香の真意もまた計り知れない…

いや、有香に関しては真意も何もあったものではない
その場の思い付きだけで行動している、

これが正解かも知れない。
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