僕とあの娘

みつ光男

文字の大きさ
上 下
21 / 129
第05章. 海まで行こうよ

【Motel】

しおりを挟む
 車から降りた美波は
明らかに動揺している僕を見てこう言った。

「ごめんね、びっくりした?」

「そりゃ、ね…でも何か訳ありって感じだな」

「そ…それは間違いないね。よかったら話、聞いてくれる?」

「ここで?」

「人のたくさんいるとこで話したくないんだ」

「うん…わかった、いいよ」

「ありがと、じゃ行こっか?」

館内に入った僕たちは
カーテンで閉ざされた受付の前を通り過ぎると

好きな部屋が選べるパネルを見つけた。

「へぇ、こんな感じなんだね」

僕が妙に感心していると美波は笑いながら

「お客さま、どちらのお部屋がお気に入りですかぁ?」

「…そうだなぁ」

「あ、お金の心配ならしなくていいよ」

「え、別にそう言うわけじゃ、、」

「お支払いのことなら社会人の私に任せてよ」

「でも、そんな訳には…」

「大丈夫、大丈夫、それくらいなら。それに
私が強引に連れて来たわけだし、さ」

「うん、でも少しだけなら大丈夫だよ」

「じゃ!気持ちだけ受け取っとくね、ありがと」

そう言って美波はスッと僕に体を寄せてきた、
少し前ならドキドキしていただろうが

今やそれくらいではもう僕も驚かなくなっていた。

僕たちは部屋を決めてエレベーターの前に立つ。

「まだ来ないね…」

「誰か乗ってるのかな?」

そんな話をしてる間にランプが1Fを指し

およそ二人しか乗れないであろう
狭くて薄暗いエレベーターに入ると

3階の部屋へと僕たちは向かった。


324号室・・・

部屋の中は薄暗い黄色の電灯が灯いているだけで
それだけで既に妙な気持ちの昂りを覚えてしまい

これはマズい、と部屋の灯りを
めいっぱい明るくした。

そしてその行為は
正解だったとすぐに気づくこととなった。

 美波は物珍しそうに室内をウロウロしながら
浴室やトイレのドアを全開にした。

部屋の中央には大きめのダブルベッド
枕が二つ、並んでいる

明らかに2人で過ごすための空間だ。

僕が所在なさげに部屋の真ん中に立っていると
いきなり後ろから美波が

「ムラコウ~っ!」と
僕の名を呼びながら抱きついてきたので

そのまま二人してベッドへと転がり落ちた。

向かい合わせになった美波の顔がすぐそこにある。

美波がふざけて

「ふっ」と顔に息を吹きかけてきた。

「ねえ…?」

「何?」

?…これから」

「な、な、何言ってんだよ!」

僕は慌てて飛び起きた。

ベッドの真ん中で大きく背伸びをしながら

「冗談だよ、冗談!」

その直後、美波は急に真剣な表情でこう話し始めた。

「私、別れたんだよね、ついこの前…」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

流星の徒花

柴野日向
ライト文芸
若葉町に住む中学生の雨宮翔太は、通い詰めている食堂で転校生の榎本凛と出会った。 明るい少女に対し初めは興味を持たない翔太だったが、互いに重い運命を背負っていることを知り、次第に惹かれ合っていく。 残酷な境遇に抗いつつ懸命に咲き続ける徒花が、いつしか流星となるまでの物語。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~

海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。 そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。 そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。

イチゴ

高本 顕杜
ライト文芸
イチゴが落ちていく――、そのイチゴだけは!! イチゴ農家の陽一が丹精込めて育てていたイチゴの株。その株のイチゴが落ちていってしまう――。必至で手を伸ばしキャッチしようとするも、そこへあるのモノが割りこんできて……。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

恋と呼べなくても

Cahier
ライト文芸
高校三年の春をむかえた直(ナオ)は、男子学生にキスをされ発作をおこしてしまう。彼女を助けたのは、教育実習生の真(マコト)だった。直は、真に強い恋心を抱いて追いかけるが…… 地味で真面目な彼の本当の姿は、銀髪で冷徹な口調をふるうまるで別人だった。

処理中です...