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第05章. 海まで行こうよ
【想定外】
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まだ少し冷たい4月の風が夏の予感を引き連れて
防波堤越しに僕と美波の背中を吹き抜けていった。
海岸は道の駅と隣接していて
僕たちは採れたての野菜や新鮮な魚を見ながら
売店でフライドポテトを買った。
「買ってくれるの?」
「いいよ、ちょうど小銭が欲しかったから」
「じゃお言葉に甘えて」
「いいよ」
「ありがと、ムラコウ」
美波が顔を近づけておどけてみせる
至近距離で美波の仄かな吐息を感じた僕は…
思わずドギマギした。
いつしか僕は美波を少しずつ“女子”として
受け入れ始めているのだろうか?
それとも美波が僕を“男”として意識し始めた?
いやいや、そんなことよりも今を楽しもう、
余計なことは考えないようにした。
「どこで食べよっか?」
「あそこがいい!海も近くで見れるし」
「女子は好きなんだね、こんなシチュエーション」
「そりゃね、憧れの設定よん」
僕たちは少し離れた防波堤まで歩きそこに腰かけて
フライドポテトを頬張った。
僕の隣に腰かけた美波は
「まだ少し寒いね」
そう言って軽くもたれかかった。
そして美波は首をコクリと傾けて
僕の肩に頭を乗せた。
「たまにはいいでしょ?こんなのも」
「ま、悪くないね」
僕は平静を装ったが
体の芯が妙に熱くなるのを止められなかった。
陽が傾きかけてきた、
遠くから夕方5時を告げるサイレンが鳴り響いた。
その音に反応して
海辺で羽を休めていた海猫が数羽、飛び立っていく。
まだ風邪気味だった僕は
少し鼻声で美波に声をかけた。
「帰ろっか?みなみん」
「え、もう?」
「あ、ここから、だよ」
「あ、そう言うことね、わかったー!って…
声が変、ムラコウ」
「だから、風邪治ってないんだって!」
まるで美波はこの時間が終わるのを
惜しんでるようにも見えた。
「みなみん…?」
「何?」
「何か悩んでることある?」
「…え?どうして?」
「あ、何となく」
「正解…かもね」
さっきから海を見る美波の視線が
どこか寂しそうだった、
軽い気持ちで聞いてみたのだが
僕の予感はどうも図星だったようだ。
思いを見透かされて居心地が悪くなったのか
「じゃ!行こうか、ムラコウ」
先に腰を上げたのは美波だった。
僕はまだ腰かけたまま
夕陽が乱反射する海面をぼんやり眺めては
美波が残したポテトを食べていた。
その刹那、立ち上がって歩き始めたはずの
美波の気配をふと背中に感じた。
ふわっとした感覚で
後ろから美波の両手が僕の冷えた体を包み込む。
「ムラコウ…あったかいでしょ?」
僕は背中で美波の温もりを体感していた。
潮風に交じって美波の甘い香りが僕の鼻先をくすぐる
一瞬の沈黙の後、
背中から僕を抱きしめたまま頬を寄せた
美波の声が耳元で聞こえた。
「はは、びっくりした?冗談だよ」
「何やってんだ・・・か」
「あ、感染っちゃう、こんなことしてると」
「明日には寝込んでるかもね、ははは」
そんな冗談を言っていた
二人のシルエットが重なったまま
「ありがと」
いたずらっぽい笑顔でそう言った美波の唇が
ほんの一瞬だけ振り返った僕の頬に触れた、
それはあまりにも唐突で想定外な出来事。
「え?」
「ポテトのお礼…」
初めての美波との接触はフライドポテトの香りだった。
「ムラコウ…?」
「な、何?」
「まだ時間大丈夫?」
「うん、明日の1限までに帰れたら」
「あははは、なら大丈夫だね、ちょっと寄りたいとこがあるんだ」
「うん、いいよ」
「じゃ、行こう」
僕たちはそのまま車に戻った、無性に喉が乾いたのか
買ったばかりのコーラは全て無くなっていた。
夕日に照らされた防波堤を歩きながら
僕たちは何事もなかったように会話する、
先ほどのことなどお互いに忘れていたかのように
気まずさは欠片もなかった。
薄暗くなった帰り道、15分ほど車を走らせた美波は
派手な電飾のネオンサインが眩しい建物の前で
ウインカーを出して、そのまま入っていった。
「ん?ここって?」
「ふふっ、ビックリした?ムラコウ?」
看板には「Seaside Station」と記されている、
ここは郊外のラブホテル
突然、何を思ってこんな所に?
僕は美波の様子を伺いながら
冷静に言葉を選んで切り出した。
「ここでご飯食べて帰る…とか?」
「ふふ、それもいいかも、さっ!降りよう」
「う、うん」
さすがの僕もここが何処だかわかっている、
何のためにここに来るのか、などすぐに予測できた。
まさか美波は・・・僕と?
防波堤越しに僕と美波の背中を吹き抜けていった。
海岸は道の駅と隣接していて
僕たちは採れたての野菜や新鮮な魚を見ながら
売店でフライドポテトを買った。
「買ってくれるの?」
「いいよ、ちょうど小銭が欲しかったから」
「じゃお言葉に甘えて」
「いいよ」
「ありがと、ムラコウ」
美波が顔を近づけておどけてみせる
至近距離で美波の仄かな吐息を感じた僕は…
思わずドギマギした。
いつしか僕は美波を少しずつ“女子”として
受け入れ始めているのだろうか?
それとも美波が僕を“男”として意識し始めた?
いやいや、そんなことよりも今を楽しもう、
余計なことは考えないようにした。
「どこで食べよっか?」
「あそこがいい!海も近くで見れるし」
「女子は好きなんだね、こんなシチュエーション」
「そりゃね、憧れの設定よん」
僕たちは少し離れた防波堤まで歩きそこに腰かけて
フライドポテトを頬張った。
僕の隣に腰かけた美波は
「まだ少し寒いね」
そう言って軽くもたれかかった。
そして美波は首をコクリと傾けて
僕の肩に頭を乗せた。
「たまにはいいでしょ?こんなのも」
「ま、悪くないね」
僕は平静を装ったが
体の芯が妙に熱くなるのを止められなかった。
陽が傾きかけてきた、
遠くから夕方5時を告げるサイレンが鳴り響いた。
その音に反応して
海辺で羽を休めていた海猫が数羽、飛び立っていく。
まだ風邪気味だった僕は
少し鼻声で美波に声をかけた。
「帰ろっか?みなみん」
「え、もう?」
「あ、ここから、だよ」
「あ、そう言うことね、わかったー!って…
声が変、ムラコウ」
「だから、風邪治ってないんだって!」
まるで美波はこの時間が終わるのを
惜しんでるようにも見えた。
「みなみん…?」
「何?」
「何か悩んでることある?」
「…え?どうして?」
「あ、何となく」
「正解…かもね」
さっきから海を見る美波の視線が
どこか寂しそうだった、
軽い気持ちで聞いてみたのだが
僕の予感はどうも図星だったようだ。
思いを見透かされて居心地が悪くなったのか
「じゃ!行こうか、ムラコウ」
先に腰を上げたのは美波だった。
僕はまだ腰かけたまま
夕陽が乱反射する海面をぼんやり眺めては
美波が残したポテトを食べていた。
その刹那、立ち上がって歩き始めたはずの
美波の気配をふと背中に感じた。
ふわっとした感覚で
後ろから美波の両手が僕の冷えた体を包み込む。
「ムラコウ…あったかいでしょ?」
僕は背中で美波の温もりを体感していた。
潮風に交じって美波の甘い香りが僕の鼻先をくすぐる
一瞬の沈黙の後、
背中から僕を抱きしめたまま頬を寄せた
美波の声が耳元で聞こえた。
「はは、びっくりした?冗談だよ」
「何やってんだ・・・か」
「あ、感染っちゃう、こんなことしてると」
「明日には寝込んでるかもね、ははは」
そんな冗談を言っていた
二人のシルエットが重なったまま
「ありがと」
いたずらっぽい笑顔でそう言った美波の唇が
ほんの一瞬だけ振り返った僕の頬に触れた、
それはあまりにも唐突で想定外な出来事。
「え?」
「ポテトのお礼…」
初めての美波との接触はフライドポテトの香りだった。
「ムラコウ…?」
「な、何?」
「まだ時間大丈夫?」
「うん、明日の1限までに帰れたら」
「あははは、なら大丈夫だね、ちょっと寄りたいとこがあるんだ」
「うん、いいよ」
「じゃ、行こう」
僕たちはそのまま車に戻った、無性に喉が乾いたのか
買ったばかりのコーラは全て無くなっていた。
夕日に照らされた防波堤を歩きながら
僕たちは何事もなかったように会話する、
先ほどのことなどお互いに忘れていたかのように
気まずさは欠片もなかった。
薄暗くなった帰り道、15分ほど車を走らせた美波は
派手な電飾のネオンサインが眩しい建物の前で
ウインカーを出して、そのまま入っていった。
「ん?ここって?」
「ふふっ、ビックリした?ムラコウ?」
看板には「Seaside Station」と記されている、
ここは郊外のラブホテル
突然、何を思ってこんな所に?
僕は美波の様子を伺いながら
冷静に言葉を選んで切り出した。
「ここでご飯食べて帰る…とか?」
「ふふ、それもいいかも、さっ!降りよう」
「う、うん」
さすがの僕もここが何処だかわかっている、
何のためにここに来るのか、などすぐに予測できた。
まさか美波は・・・僕と?
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