僕とあの娘

みつ光男

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第03章. ライブがはねたら

【ファーストコンタクト】

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 有香が驚いた表情で僕を見る。

「うわ~、本当に立ててる、髪」

「自分が『立てないと許さない』って言ったくせに」

「しかしキレイに立つもんだねー」

「かなり気合入れて立てたからね、その代わり戻すのが大変なんだよ、これ…パリパリになるから」

「またシャンプー1本、使うかもね」

「ほんと誕生日はシャンプー、箱で頼むよ」

「あはは、それ、いいかも!」

そこには有香に加えもう一人の女の子がいた。

「あ、この前会った娘だよね…?」

「そうそう!ムラコウ、よく覚えてるね」

とりあえず挨拶はしないといけないと思い

「あ、どうも!あ、え~、話すのは『初めまして』かな?とりあえず自己紹介を・・・」

「舞です、北浜舞、でも…初対面じゃないよね」

「あ、そうか・・・え?そう…だった?でも名前聞くのは初めてだ!」

「うん、そう、話すのはね…でも前にちょっとだけ…」

「あ!そうか、この前駐車場で!」

「え…覚えてて…くれたんだ?」
 
最初の会話はこれだけだった。

「そっかー、ムラコウのって中村だったんだ、舞は知ってた?」

隣りで妙に感心している、そんな有香の横槍で
会話が途絶えてしまったからだった。


「今日初めて話したのに知ってるわけないだろ!」
「もう!何言ってんの有香!知ってるよ!」


 二人ほぼ同時に有香にツッこみを入れた瞬間、
思わず互いに顔を見合わせると

照れたような笑顔で僕を見た舞。

「え…何で?」

その声は学園祭ならではの喧騒に掻き消され

あっ!言う表情で顔を朱に染める舞を
僕は見逃してしまった。


しばらくの沈黙の後、二人
言葉もないまま笑顔を交わした時

これまで体験したことの無い
何とも言えない温かい空気感に包まれたが

この時はそこまで深く
その気持ちについて考えることはなかった。

「ムラコウのライブまで時間あるよね?あそこ行かない?」

 この後有香はバンド演奏に合わせて踊る
ディスコパーティの会場へと僕と舞を連れて行った。

「嫌だって!俺はそんなとこ行きたくないー!」

「ムラコウ!あれこれ言わずに、一緒に来る!」

そう言って有香は僕を強引に引っ張って行き
会場では慣れないステップまで踏まされた。

でも有香だけでなくぎこちなく踊る舞も楽しそうだったし
また僕自身もその雰囲気をそれなりに楽しんでいた。

たまにはこんなほんわりした空気感も
いいかなって気持ちにさせられた。

いつもだとライブ前は無駄に気合いが入って
殺伐とした面持ちになるのだが

この日に限っては有香や舞衣のおかげで
余計な肩の力が抜け
いつもより緊張感もなく気持ちも軽くなった。
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