僕とあの娘

みつ光男

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第02章. 友達のまま

【賑やかなる女神と】

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 僕は押し入れの引き戸を開いた。

「ここくらいだなぁ、隠れられるとしたら」

「じゃ、入るから戸を閉めて」

「いいの?本当に入る気?ヤバいよ色々と」

「今ヤバいのは私でしょ?いいよ!早く!閉めて!」

するとすぐに僕の部屋をノックする音が。

僕は大きめの音で音楽を流して
とにかく美波がいる、と言う気配を必死に隠す。

ドアの前には渋谷さん、

「コウイチ、岸田来てないか?おかしいな、
ここで待ってるように言ったんだけどな」

「いや知らないっすよ、俺もさっき帰ったばっかりなんで」

「そうか?見かけたら俺の部屋に…」

その時だった。





「きゃー!!」




部屋のどこからか女性の叫び声。

「え?今の何だ?誰の声?」

「あ、これ…これっすよ」

僕は目の前のCDプレイヤーを指差す。

「コウが聴いてる曲か…また激しいの聴いてるな」

「そ、そうなんすよ…このイントロのとこで叫びが…」

すると…再び



「ぎゃー!」





「またかよ?しかし、まぁハードなの聴くんだな」

「ははは、メタル好きなんで」

「そうだったな、じゃ見かけたら俺の部屋に来るように言っといてくれ」

「はい、了解です」

 こうして美波は何とか難を逃れることが出来た、
命からがらと言った表情で美波は"生還"してきた。

「た、助かったぁ…」

「全く、何やってんだか…」

「ムラコウ!」

押し入れのドアを開けて出てきた美波は
明らかに怒気を帯びた口調だった。

「何だよ何だよ、せっかくかくまってあげたってのに」

「何で言ってくれないの!」

「何をだよ?」

「押し入れの中…」

「どうした?」

「ヤバいヤツいるじゃん!」

ヤバいヤツ?
一体何の事だろう?

「私の足の上…這ってたんだから」

「まさかの?」

「黒いヤツ!」

あの名前を口にするのもおぞましい生き物が
それは確かに全くもって申し訳ない。

「ごめんごめん、まだいたのか…ヤツら?」

入学当初、確かにこの部屋は『あの生き物』の巣窟だった
この数ヶ月でほぼ駆除したはずだったのだが…

「倒そうよ!」

渋谷さんの難を逃れたからか
美波は急に乗り気になった。

「よし、じゃ、今開けるから」

「やだ!やっぱりやめて!」

「どっちやねーん!」

 僕たちは渋谷さんとの事などすっかり忘れ
あのおぞましい黒い悪魔「G」を退治することに
全身全霊を注いでいた。

「あ!ムラコウ!いたよ、壁のとこ!這ってる!」

「出たなー!」

「きゃー、飛んだ~!」

こうして悪戦苦闘の末、
何とか退治することができた。

僕の服を掴んで大騒ぎする美波の髪の香りが
優しく鼻腔をくすぐり続けていた。

「コウイチ、どうした?何かあったのか?」

下の部屋での大騒ぎを聞いた渋谷さんが
再びドアをノックした。

「岸田、隠れろ!」

小声で美波に伝えると再び美波は
例の押し入れへと入り込んだ。

「あ、ちょっとが出たんで…」

「あ、お前の苦手な例のヤツか、岸田も来ないし俺、出掛けてくるから」

渋谷さんは何事もなかったかのように外へ出ていった。

 僕は押し入れの扉越しに小声で呼びかけて
押し入れを開けると

体をかがめて小さくなって隠れる美波が
視界に飛び込んできたので

思わず吹き出しそうになった。

「岸田…岸田!もう大丈夫。出てったよ、渋谷さん」

「大丈夫…?よかったぁ、ありがとうムラコウ」

「何かお腹すいたね」

「ご飯行こうよ、お礼に奢ってあげる」

「え?時間は大丈夫?」

「もう仕事も終わってるし…フリータイム」

「じゃあ行こうか?」

「1,000円以内だよ」

「全然大丈夫ー!ごちそうさま」

「ふふ、まだ食べてないのに」

まさかの展開になった。

期せずして美波と二人きりで
食事に行くことになろうとは。
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