僕とあの娘

みつ光男

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第02章. 友達のまま

【Knockin'on my door】

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 有香や美波と出会ってから1ヶ月が過ぎた、
学生時代は案外一度きりの関係、なんてのが
なきにしもあらずなのだが

この日以降も僕はこの二人とは何度か会う機会があった。

ただこの4人揃って、と言う組み合わせはなく

ある時は薮田さんを訪問した有香が
"ついで"に僕の部屋に来たりだとか

渋谷さんが偶然見かけた美波と出かけたり、
と言う偶発的なパターン。

当初、僕や渋谷さんの存在はまだ彼女たちの間で
上位に位置していなかった、

そして有香も美波も下宿の住人特定の誰か、
と言うわけではなく
いわゆるグループ交際的な関わり方だった。

そんな中「俺は看護学校の娘と縁がない!」と
いじけていたのは同学年の山岡悟志だ。

悟志とは同期ではあるが
二浪しているので歳は2つ上、

だが彼は決して人生の先輩ぶったりせず
等身大の付き合いが出来る間柄で

僕も最初から「やまちゃん」と呼んでいる。

「ほんと運が悪いんよね、アイツら来た時は
やまちゃん、絶対留守だからしょーがないわ」

「何でやろ?普段の行い、そんなに悪いか?」

「いや、行いはよくても運がないんだろうね」

「運が、なー」

「と、言うか特に『女運』が…ね」

「それ言うかー!俺、今からサークルの集まりがあるから行ってくるな」

「はいよー、行ってらっしゃい」

悟志が英会話サークルのミーティングで
出かけた数分後のことだった。

コンコン…

下宿のドアをノックする音がした。

「あれ?やまちゃん、どうした…ん?」

訪問者は悟志ではなかった。


「へへ、来ちゃった」

ドアの前に立っていたのは…美波だった。
 
僕の部屋の前に立つ美波はひどく慌てた様子だった、

手にはスニーカーをぶら下げている。

「どうしたの?靴なんか持って」

「あ…これね?ちょっと訳ありでさ、ムラコウ…今、部屋入っても大丈夫?」

「う、うん、いいよ」

「早く…!ドア、開けて!」

「ん?どしたの?」

美波は逃げるように部屋の中に駆け込んできた。

「セーフ~!」

「どした?誰かに追われてる、とか?」

「そうなの!」

「誰?誰?」

「渋谷さん…来るから!早く!どこか隠れるとこない?」

「何だ、渋谷さんかー」

「『何だ』レベルじゃないんだって!」

 美波が言うには有香に渡すものがあって
看護学校の前にいたら、たまたま渋谷さんに会い

下宿に来るように声をかけられたらしい。

「で?何でこの下宿に逃げてきたんだよ?一番危険じゃないか?」

「だってここに来てないと『はい、逃げました~』ってなるでしょ!」

「それって、アリバイ作り?裏工作的な?」

「そう!入れ違いになったみたいにしてごまかさなきゃ」

しかし美波は何でそんなに
渋谷さんを避けようとするんだろう?

「だってしつこいんだもん、あの人!」

「ははは、そりゃ災難だね」

「笑い事じゃないよ!何回も電話してくるし」

「連絡先教えたの?」

「だってしつこいんだもん!」

そんな話をしていると、バタン!ドンドン!
ドアの開く音と閉じる音が同時に聞こえた。

「あ、あの音は…」

「か、帰ってきた!」

「コウイチ~?いるかー?帰ってるのか?」

廊下越しに渋谷さんの声が聞こえる。

「あ!ヤバい!こっちに来る!ムラコウ!隠れるとこないの?」

「うーん、もう、あるとしたら…あそこくらいだな」

 僕が指差したのは部屋の奥にある古びたクローゼット、
と呼ぶのも恥ずかしいほどの…そう、押し入れだった。
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