僕とあの娘

みつ光男

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第01章. 突然

【Kickstart My Heart】

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 僕の通う山野田やまのだ大学は地域の人たちからは
「山大」と呼ばれていた。

「山大にこんなに普通に話せる人いたんだ?」

「いやいや、大学って言っても同じ人間だから」

「でもムラコウくんみたいな人ばっかりじゃないよ」

「そう?」

「一度合コンみたいなの、したことあるけど
つまらんかった」

「え?話が?人が?」

「どっちも、へへへ」

そう言って有香は悪戯っぽく笑った。

 確かに大学と看護学校には特に接点があるわけでもなく
やはり多少の"異世界感"はあるようで
 
こちらも遠慮がちに、と言うか
遠巻きに眺めているだけに留まり

山大と親交のある近隣の女子大のような
サークル同士の繋がり、みたいな交流もなかった。

まあ、この大学にも僕のようなノリの人が
いるって事がわかっただけでもよかったって

後になって有香は笑いながら言ってた。
これって僕は素直に喜んでよかったのだろうか?

 ただ先ほど有香が話したように
以前から二人とも、と言うか看護学生たちは

僕の所属する音楽サークルが主催する
バンドのライブを何度か観に大学には来ていたらしい。

当然それはまだ僕と彼女たちと知り合う前の話だし
でなければこちらも看護学生なのか判別はつかない。

 知り合ったその日から有香からは
「ムラコウ」と呼ばれるようになった。

そんなフレンドリーな感覚も
僕たちのキャンパスには無縁な空気だった。

うちの大学の女子と言えば近寄り難い
どこかよそよそしい雰囲気があった、

僕の外見もあったのだろうけど…


 2台の車は1時間ほど走った後とある海岸へ到着した、
ここでようやく4人が合流して
そして僕は美波とも話す事が出来る。

音楽が好きだと聞いていた美波と話がしてみたかった。

そんな時、突然渋谷さんが僕に小声で話しかけてきた

「おい!コウイチ、ちょっと見てみろ」

「え?どうしたんすか?」

目の前では美波と話している有香が
ボンネットの上に腰かけている。

「あの角度から…見えるんだよ、沖野の・・・が」

「渋谷さん、パ、パ、パ、パンツ…って!」

「コウイチ、デカい声出すな!今がチャンスだ、お前もありがたく拝ませてもらえ!」

「いや、俺はいいっすよ…」

「何、遠慮してんだよ!」

僕はためらいながらも言われるがままに
移動しようとしたその時…

「ねえ、何話してんの?」

突然後ろから声をかけられ、慌てて振り返ると
そこには美波がいた。

 青空の下、どこまでも続く水平線と真っ白な砂浜
そこで繰り広げられる女子との他愛もないやり取り…

前日の10人ドライブとは大違いだ、
正にこんなシチュエーションを僕は期待していた。

隣を見ると渋谷さんはそそくさとその場を離れ
何食わぬ顔で有香に話しかけていた、

全く、何て先輩だ…

僕はドギマギしながらも
それでも極めて冷静に初対面の美波と話し始めた。

「改めて、初めましてだね」

「よろしくね」


「さっき車で音楽が好きって話、聴いたよ」

「うん!出てたよね?新歓コンサート!見たよ!覚えてるよ」

「ライブ、観てくれてたんだ?」

「うん、だから知ってた」

「俺のこと?」

「今日も最初見た時に『あっ!』ってなった、髪の色がわかりやすいし」

「へぇ~俺、有名人やん」

 ほぼすっぴんかと思えるほど
ナチュラルメイクの優香と比べると

バッチリとメイクしている美波。

その見た目は随分派手な感じで
雰囲気も有香より大人びていたが

実際に話してみた美波の印象は
ほんわりとしていてあどけなさが際立っていた。

適度なノリの軽さといい意味でテキトーな感じの
有香と比べると穏やかで誠実な印象だった。

そのギャップがとても心地よく
有香とは全く違うタイプの親しみを感じた。

少し茶色に染めた長い髪、小柄でやや猫目の美波は
渋谷さんの好きな感じの雰囲気だな、そう思ったけど

さほど先輩に遠慮するわけでもなく
この日は有香よりもむしろ美波とよく話した気がする。

 この日が全ての始まりだった
ここから僕の大学時代の大部分を占める

ありきたりながらとてもややこしい
恋愛ストーリーがここから幕を開けた。
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