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Ⅴ. Genocide

【Imaginarium】

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 "あの事件"から約1年が過ぎオレは
毎日、毎日何かを忘れるように
ジムでトレーニングに打ち込んでいる。

オレはここで一体何をやってるんだろう。

音楽好きの父さんと一緒に曲を作って
バンドをやろう、なんて話してたのに

それも叶いそうにない。

どこに行けば、どうすれば
父さんを見つけ出せるのだろう?

そもそも父さんは生きているのだろうか?
あの凄惨な現場から無事生還出来るなど
至難の業だ。

 だがオレは知っている、
父さんが何か不思議な力を持っていることを。

これまでもその能力らしき力で
何度か窮地を脱してきたのを見ている。

町外れで二人、チンピラに絡まれた時も
父さんは何も手出ししていないのに
怪我ひとつせず相手を身動きできないまでに追いやり

突然ビルの最上階から鉄骨が落下した時も
当然のように回避した。

それらの事実は今思い出してもとても偶然とは思えない。


 そしてその力は少なからずオレにも遺伝している、
それをこの1年で更に実感した。

練習生ながらいつしか屈強な肉体を身に付けたオレは
その精度がラグビー部にいたの頃の
比ではなくなっていた。


 今日も「ジェノサイド」は地方で試合が組まれている
弱小団体ゆえ会場は地方の小さな体育館
オレも当然、巡業に同行していた。

ここはトイレも共用だ、
さすがに出場する選手には控え室があるが

まだ試合も組んでもらえない駆け出しのオレは
ここで用を足さなければならない。

いわゆる公衆トイレのように
幾つもの便器が並ぶ薄暗い空間、

その一番奥で用を足している男性の姿が
目に入った。

警備員の人だろうか、制服に身を包み
人目を憚るような素振りだ。

そしてすれ違い様に彼の顔を覗き込んだ
その時…



「父さん!」



見間違えるはずがない、

それはあまりにも久しぶりに目にした
父さんの横顔だった。

感動の再会となる…


その直後、オレは
耳を疑う言葉を聞くこととなった。


「どちら様ですか?」

「え?」

「人違いではないですか?」

そう言うと"彼"はオレと視線を合わせることなく
その場から立ち去ったが

愕然とする思いの中でもオレは見逃さなかった

が人差し指で軽く
自分の頭を何度か突つくような仕草をしたのを。

それはまるで

「イメージするんだ」

そう言っているかのようだった。

 オレは考えた、ひたすらイメージを膨らませた。

「そう言うことか!」

オレの持つこの「才能」も知らず知らずのうちに
進化を遂げていたらしい。

― "あの力"を使えば居場所が確定できる…


 人目を忍んでたどり着いた場所、
会場から少し離れた第2駐車場に停まっている
白いワンボックスカーを見つけると

オレはその車に向かって駆け出した。

そして、その裏側でやはり"父さん"は待っていた。
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